毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

side:ブラッド_1


 なぜ、我《われ》が子供のおもりなどしなければならないのか。

 ブラッドは壁にもたれかかってため息をついた。

 コーキがあのウタという従者と共にこつぜんと消え、部屋の中は大騒ぎになっていた。

「コーキをどこへやった!」

「知らんっ、こっちが聞きたいくらいだ! お前たちこそ、どさくさに紛れてあいつを逃がしたんじゃなかろうな!?」

「ならあの従者はなんじゃ! お前の部下じゃろ!」

 カリンとレイラが口論している。
 カティアはそれをなだめようとし、アイザックはオロオロするだけだ。

 ギャラリーはかたずをのんで彼女らの口げんかを見守っている。

 以前にコーキが倒れて介抱されていた間、アイザックから彼が話してくれたという出自の様々な話を聞いた。
 聞けば、コーキは孤児だという。

 独りで生まれてきたのなら、もう少し気丈に育っても良かっただろうに、というのが話を聞いたブラッドの最初の感想だった。
 だが、コーキには育ての親がいて、その愛情をよく受けて育ったというくだりで、彼の今の性格に納得した。

 同時に、人とはこんなにももろいのか、愛だの仲間だの持つから弱くなるのだ、という憤《いきどお》りを強くおぼえていた。

 しかし――、

 それはそれ、これはこれ。

 ブラッドは純粋に、もう一人の毒手使いの行く末を見届けたいだけだ。
 自分とはまったく違う条件で育ったコーキを。

 過去という壁にぶつかった彼がどうするか、それを知りたかった。

 この実験のような観察は、最強への第一歩。ブラッドはただ、『最強とは何か』という問いの答えを求めていた。

 ブラッドにも、レイラのように倒したいと願う人間がいるが、それは単なる通過点。いま激をとばしている彼女のような、私怨による復讐が強くなる目的ではない。
 その先にある『最強』のみを、ブラッドの血は渇望していた。

 今はただ、あの毒手使いがどう進むのを見たいだけ。そうして、問いの答えを知るための手かがりとしたいのだ。

「――おい、そこの剣士娘」

 ブラッドが口を開いたのが意外だったのか、部屋はピタリと静まりかえった。

「レイラと言ったな? お主、あのウタという従者がいそうな場所に、心当たりはあるか」

「唐突になにを?」

 ブラッドはため息をつく。

「このような場所で揉めている場合でも無かろうに。それならば、あの二人がどこに消えたのか考えたほうが建設的というもの」

「それは、そうだが……」

 レイラは一度カリンを見やってから言った。

「私たちは今、対立している立場同士だろう? そんな目の前に敵がいる状態で、マトモに考えられると思うか?」

「簡単だ。ここは一時、休戦すれば良い」

「なっ」

「お主はそれぞれ憂さ晴らしの対象と大切な従者として、コーキとウタを。我々は『仲間』としてコーキを取り戻したい。利害が一致しているとは思わぬか」

「ブラッド君……きみ……」彼が発した『仲間だから』という以外な言葉に、横にいたアイザックが驚いた。

 もちろん、ブラッド自身からしてみれば、そんなものは単なる方便だった――コーキが迎える『結末』を知るための。

「まあ、それは――確かに」

 説得の言葉を聞いたレイラはおとなしく考え込んだ。

「……私の個人的な感情からすれば不本意だが、ウタという第三者の介入があり、コーキ本人とともに消えた以上は、仕方ないかもしれぬ」
 
「ちょっと、レイラさん――!」彼女の意外な返答に、ギャラリーから困惑の声が上がる。

 このレイラという剣士は、多少感情的になりやすいだけで、本来は頭のデキの良い人間なのだろうと、ブラッドはその反応を見て思った。

 ところどころ感じる幼稚さと衝動的な言動には、それとはまた別の違和感を覚えたが。

 だが、コーキに端を発する争いが休戦に持ち込まれたことは、この時点で明らかだった。

 ブラッドは口許に笑みを浮かべ、さらに畳み掛ける。

「どうだろう、思いきって我々で、コーキ捜索の共同戦線を組まぬか」



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