毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

4-9

「――どうして、ここに?」


「コーキさん達の目的地であるこの冒険者学校には、妹も師範として所属している。

 万が一遭遇してしまい、レイラがコーキさんに変な気を起こした時のために、先に学校に来て彼女を監視しておりました。

 それも、誰にも悟られないよう、他の冒険の依頼が入っているふりをして」


「マ、マジですか。てか今、妹って……」


 カティアさんが俺たちの知らないところでそんなことを考えていたのも驚いたが、レイラと姉妹という事実がさらに衝撃だった。


「コーキさん、皆さん――黙っていてすみませんでした」

 カティアさんは語り出す。

 目のぱっちりした彼女がまぶたを閉じてうつむく様子は、眠たげな感じを通り越し、懺悔(ざんげ)のように神妙なものであった。


「私は初めてお会いした時から気づいていました。

 妹と因縁のあるコーキという名の冒険者が、あなただということを」


 ――そうだったのか。俺は驚くと同時に拍子抜けした気分になった。

 じゃあ、事件のことも、初めから全部分かっていたんだ。


「カティアさん、結局、一年前の事件というのは何だったんだい?」アイザックさんが聞いた。


「……俺が言います」


「でも……」


「これくらい、自分で言えます」気づかう様子のカティアさんに断りを入れ、言う。


「……俺は冒険者ギルドのパーティー募集窓口で、たまたま彼女とパーティーを組みました」


 冒険者ギルド。その名の通り、冒険者達のサポートを行う組織だ。主にクエストの仲介をする他、冒険者が交流する酒場の役割も果たしている。魔物によって引き起こされる様々な被害に対処しきれなくなった王国政府の委任によって成り立っており、他国にも同様の制度がある。


「彼女の従者――優秀な冒険者には仲間や付き人もたくさん出来ますからね――の一人として、そこのカンザクも同行していました。

 彼女のおかげでダンジョンを難なく進んで行くことができて、あっという間にボスまでたどり着いた。

 問題は、そのボス戦でした」


 俺は息を切ってから言う。


「俺は誤って彼女に毒手の技を当ててしまったんです」


「……」


「……」


「ち、ちょっと待ってよ! それだけかい?」アイザックさんが手を挙げる。

「毒なんて、解毒薬で簡単に治癒できるじゃないか。

 それがどうして致命的になんかなるのさ?」


「どういうわけか、俺の毒に対して、過剰な拒絶反応が起きました」


「拒絶反応だって? 」アイザックさんがいっそうよく分からないと言った顔をする。


「今は難しい話は抜きでお願いします。

 とにかくそれが原因で彼女は怪我を負い、目覚めた時にはかつての能力が大幅に失われた上に、スキルをかなり忘れてしまっていたみたいです」


 その現象が起きた理由は全くの不明らしい。


「さらに悪かったことに、レイラは“天才”や“神童”と呼ばれて将来を期待された冒険者でした」


 事件が無ければ今は、どうしていただろう。


「私とコーキさんは本当は妹の病室で会っているのですが、森で遭遇した時には初対面だと認識されたみたいですね。

 彼も彼で周りが見えなくなるくらい責任を感じ、結果的に押し潰されていました」


 カティアさんは続ける。


「それから、コーキさん達と初めてお会いした時の当初の目的地だった、あの小屋とお墓。あのときは苦し紛れに、冒険者仲間に頼まれたなどと言いましたが、半分は嘘です。

 あれは、彼女の――」


「止めて、お姉ちゃん!!」突然そう叫んだかと思うと、レイラが耳をふさいだ。床に剣が落ちる。


「レイラ……」


「私が…… 私のせいで……」

 さっきまで強気だった彼女が取り乱していた。

 それを見たカティアさんがなだめるように言う。


「違う。彼女は病気で亡くなったのよ。貴女が責任を感じることじゃないわ」


 カティアさんが親しげな口調で話すのを、初めて聞いた。


「お墓――ですって?」


 そうだ、森で出会った彼女の目的は、誰かの墓参りだった。

 あのお墓、女性の名前だった。あまり気にしていなかったが、たしか、“エル”という人だったと思う。

 ダンジョン化した森の中に佇むお墓と古い小屋。

 それがこの姉妹と、何の関係があるんだ?


「あそこに眠るのはレイラの友達で、十年前、サイバード・シティで起こった原因不明の事故の被害者。彼女は事故の後、あの森で人目を避けてひっそりと暮らしていました。

 そしてレイラもまた、可哀想な子なんです――」


 サイバード・シティの事故。十年前。
 突然出てきた言葉に、理解が追い付かない。


「だから、止めてって言ってるでしょ!!

 お姉ちゃんのバカ!!」


 カティアさんは無視して続ける。


「レイラはかつて、冒険よりも調合の好きな子でした」


「――ツ!」


 乾いた音が室内に響いた。

 見ると、カティアさんが右手で顔の片側を押さえている。

 レイラが頬を叩いたのだ。

「ちょうごうの、はなしだけは……しないでって、あれほど……」


 レイラは涙声でカティアさんのことをポカポカと叩き出した。


「これは貴女のためなの!」カティアさんが妹の攻撃をガードしながら言う。


「意味わかんないよ! お姉ちゃんやっぱりバカだ!」


「ええ、どうせバカですよ私は! 

 でも、最近の貴女がおかしいってことくらいはそのバカでも分かるの!」


「そんなこと言ってどうせ、私と違って“神童”って呼ばれなかったのが悔しいんでしょ!

 成績はいっつも私の勝ち。

 お姉ちゃん今は脳みそ筋肉のフリしてるけど、本当は妹と同じ道を進んで敗けるのが怖かったんだ!」


「――レイラ、貴女って人は!!」


 唐突な姉妹喧嘩で、肝心の話が中断された。


 姉妹の年齢差は見た感じ二、三歳程度なのに、これじゃあまるで、歳の離れた姉と幼い妹の喧嘩じゃないか。


 予想外の展開に、外野の連中は皆ポカンとして二人を見ていた。


「ちょっと強いからって図に乗るようになった貴女のこと、一年前にコーキさんが頭を冷やしてくれた。

 でも、あれが貴女にとって良い薬になる筈だったのに復讐なんかに走って、わかってないのはどっち!?」


 何往復か言い争っていたが、姉の言葉を聞いたレイラがはっと俺の存在を思い出したようで、顔を真っ赤にして言った。


「お前ももう、私を見ないでくれ! こんなところを見られるなんて、なんて屈辱!

 さっさとあの世に行って、記憶を失え!」


 レイラはそう言うと剣を拾い、「でええやあああ!」カティアさんによく似た叫び声を上げながら、俺に斬りかかってきた。


 何かを考える間も無く、刃先が俺の目と鼻の先に迫る。

 今日何度目かの危機。

 今度こそ斬られる、筈だった。


 しかしその時、

「もう、今日のレイラ様ヘンですよ」


 目が眩(くら)むような光とともにそんな声を聞いた。


 足元に現れたのは、読めない文字と円い図形の羅列。魔方陣だ。


 幾何学模様を描きながら広がる魔方陣を除いた全てが止まって見える。もちろん、目の前の刃も。


 剣の切っ先は止まったままに、見ている世界がぐにゃぐにゃと歪み始める。


 ――この感じ、ワープ?


「――普段は十七歳の見た目相応に振る舞おうとしてるけどね」


 どこからか、声が聞こえた。


「――実はレイラ様の魂は、十歳の子供のそれなんだ――」


 女の子の声だ。


「お願い。

 どうか、レイラ様を――」


 白い光が、魔方陣の隅々まで届く。


「――助けてあげて」


 教室の騒がしさから切り離された俺の体は、完全に光に包まれた。


(5章に続く)




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