毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

4-6

「バトル?」こうなったら、腹をくくることにした。


「ご案内します」
「逃げようとは思わないことでござる」


 俺は親衛隊に囲まれたまま、カンザクに腕を引かれて、階段を降りた。


「お主!」
「コーキ君!」
「……」


 三人が、親衛隊に囲まれてどこかへ送られようとしている俺の後を追う。


「あなた方も、ついて来たければ来るが良い」ラカーンが後ろを振り返りながら三人に言った。




 ***


「あー、これよりぃー、第百八十四回、討論会を始めます!

 ディスカッションの議題は、『真のレイラさんファンを決めるにはどうすれば良いのか』です!

 議長はこのワタクシ、ラカーンがつとめさせていただきま~す!!」


 マイクを持ったラカーンが、教室前方の教壇に立っている。


「なんすか、これは……」


 俺の覚悟に反して、連れてこられたのは木製の長机と椅子が並べられた校舎一階の会議室だった。


 狭い一室の窓際に、親衛隊が集まって座っている。椅子が大幅に足りなかったため、十名近くが立ち見になった。


 その反対側のテーブルに、俺は一人でぽつんと座らさせていた。


 教室の後ろには、三人が保護者のように立っている。心配そうな面持ちのアイザックさんなんか、まんま初めて参観日に来た父親の顔だ。


「えー、討論を行うにあたっ
『――おいこら、待て!』
 て、各チームの代表者から
『話を聞けえええ!!』
 一言いただきたいと思います!
『はあ!?、ちょっ、聞いてねえぞ!』

 ではまず、青チームのコーキさんから
『待て待てまてまて、待てったら!!』
 お願いします!」

 ラカーンがスイッチの入っていないマイクを俺の口元に持ってきた。


 なんだこの空気。軽い。軽すぎる。
 なんというか、初等学校の学級裁判みたいなノリだ。


「これは何の勝負だよ!?」たまらずツッコむ。


「見ての通り、討論会であります」


 そうじゃなくて。


「いや、たしかに平和的な手段だよ。うん。

 百歩譲ってそれは認めるとして、なんで向こうは十人以上いるのに、こっちのチームは俺一人なんだ!?


 せめて半分にするか、こっちに三人くらい――後ろで父兄みたくなってる彼とか――よこしてくれよ!!」


「…………


 さぁ、では赤チームの代表者、お願いします」


「なんだよ今の間は!? 

 無かったことにしてんじゃねえよ!」


「もぅ、うるさいですねぇあなた」


「それに議題のチョイスがおかしい…… なんだよ真のレイラさんファンって。

 そんなの自分らで勝手に決めとけよ!?」


 呆れる俺に、ラカーンはマイクをこぶしで握りしめ、熱のこもった口調で言い放った。


「我々は、彼女をお守りする立場であり、同時に応援もしている身!!

 親衛隊という名を取る以上、ただのディスカッションではいけないのです!

 ですから、せめて我々にとって理になる話し合いにしたい! そんな気持ちをこめて、いつもレイラさんに関する議題を取り扱っています!」


「……応援対象の好きな食べ物についてでも話し合うのか?」


「それは第四回で既に討論済みです」


「!?」


「ちなみにその時決議で選ばれたのは、イチゴのショートケーキでした。彼女が学生食堂で美味しそうに頬張って二つも食べているところを隊員が目撃したということからそう決まったのですが、今度はレイラさんはイチゴを先に食べる派なのか、それとも最後まで残す派なのかという疑問が生まれました。そして第五回では急きょ予定を変更しましてですね――」


「わ、わかったよ、分かったから止めろ、俺が悪かった」

 ケーキのイチゴのことなんて心底どうでも良い。




 

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