毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

4-5

「だって全員黄色と黒じゃぞ!?

 そんな配色では、視界がチカチカするだけで目の毒なのじゃぁぁぁ!」カリンは男たちの格好が受け入れられずに軽く錯乱しているようだ。


「レイラ……たん……?」
「……」


 アイザックさんは目を白黒させて男の胸元のハートを見ている。ブラッドはと言うと、警告色の彼らに無言で冷たい視線を浴びせていた。



 親衛隊……、ってことは、こいつら――


 俺はヒョウ柄の連中から顔を隠そうとしたが、もう遅かった。


「ぬ!?」


 男たちのうち、首から上だけが忍者の、濃い紫色の覆面をした一人が俺に気づいて言った。


「お前、コーキでござるな!」


 忍者マスクからのぞく目が驚いたように見開かれた。


「……」


 どう答えて良いか分からず、考えていると、


「拙者でござるよ!

 以前、お主とレイラさんと共にパーティーを組んだ、ジョブは忍者の、カンザク」


 カンザクはそう言うと、親衛隊の制服と思われるヒョウ柄の上着を脱いだ。その下には紫の装束(しょうぞく)を着ており、完全に忍者の格好になった。


「……カンザク、あの時の――」


 俺の脳内はいよいよ、記憶がフラッシュバックする間隔を狭めていった。


「いやー、驚いたでござるよコーキ殿! まさか――」


 カンザクはくぐもった声で続けた。


「――ノコノコと戻って来るとはな」


 カンザクがいつのまにか俺の後ろに回り込んでいた。


「……」


 俺は首筋にひやりとしたものが当たっているのを感じた。顔は正面を向いたまま、眼球だけを下に動かしてその物体を見た。


 正体を確認するまでも無かった。


 白くきらりと光る、短刀。それが自分の首筋にピタリとあてがわれている。


「っ――! コーキ君っ!」
「ほわわわ! いきなり何をするのじゃ、きさま!」



「コーキ――?」「コーキだって――?」俺の名前を聞いたヒョウ柄のギャラリーが先ほどからざわめいている。


 さっき一番に話してきた、リーダーと思われる髪を真ん中で分けた唇の厚い男が言った。


「まさかレイラさんの敵(かたき)とは、こいつのことなのですか、カンザク――?」


「その通りでござる。どんな経緯があって戻ってきたのかは知らぬが、一年前、レイラさんの冒険者生命を危うくしたのは彼だ」


「ふむ、この中で唯一面識のあるカンザクが言うのだから間違いないですねぇ」


 男たちのリーダーが納得したような顔で言った。


「えっと……? コーキ君が誰かの敵(かたき)――? どういうことだい」

 これはややこしいことになりそうだね。そんな心の声を、アイザックさんの口調から感じとることができた。


 俺の耳元でカンザクがささやく。


「お前がレイラさんに負わせたブランク。せめてその一部を――。

 それが彼女の望みであり、我らの本分でもある。

 さあ、選ぶでござる、コーキ。親衛隊が妙な気を起こす前に。

 脚が良いか、それとも腕が良いかを」


「なんだよそれ……」


 物騒な選択肢に続けて、カンザクは俺を説き伏せるように言った。


「ほんの束(つか)の間とは言えども、かつてパーティーを組んだ立場からの忠告でござる。

 親衛隊の中にも一部、血気盛んな連中がいる。

 やつらは、レイラさんのためなら何をしでかすかも分からない。最悪、彼女の敵であるお主の命を頂戴(ちょうだい)つかまつるやもしれぬ」


「――ッ! お前が言わなきゃ済んだことだろ!」


「拙者、レイラさんに忠誠を誓っているでござるからな。

 当然、お主の安全よりも彼女の意向が最優先だ。レイラさんを裏切ることはできぬ」


「なんだよそれ……まるで、自分の意思を初めから殺してるようなものじゃないか――」


「どうか、最善の解決のためにも従われよ」


「……どうすれば?」


「ここで拙者がお主を懲らしめて見せることで、彼らの溜飲を下げさせる。


 脚の一本や二本で済むのなら、安いものであろう」


「そんな……」


「もちろん、それで終わりではありませんぞ」リーダーの男が言った。


「私は親衛隊長として、今日あなたに会ったということをレイラさんに報告しなければならない」

「……!」

「このことを耳にしたレイラさんは当然、あなたとの面会を望むことでしょう。」


「――そういうことでござる。覚悟なされよ」


 骨を折られた後、レイラの前に引きずり出される――? 

 その激痛を想像して、身震いした。


 いや、俺の引き起こしたことだし、前者はギリギリ受け入れられると思うんだ。だが、彼女に会うのだけは――。
 
 俺は知るのが怖い。彼女がこの一年間、俺をどう思っていたのかを。

 それを知ることはきっと、肉体の苦しみよりも辛い。


「おい、眼鏡」男たちの様子にただならぬ危なさを感じ取ったブラッドがアイザックさんに目配せする。


「こやつらをやってもいいか」


 しかし、アイザックさんは


「……いや、ダメだ!これからここの教授に会おうと言うのに、暴力沙汰なんて――」


 ゴーサインを出すことに反対のようだった。

 夕方に会う予定の教授はきっと、恩師なのだろう。なるほど、ここでトラブルを起こせばその人にも迷惑がかかるかもしれないのだから。

 きっと、アイザックさんにも自身の立場があるんだ。


「ええい、何を言っとるのじゃ師匠! 先に武器を取り出したのはやつらのほうじゃぞ!」カリンが反論した。


「このままではコーキの手足がありえん方向に曲げられてしまうのじゃ!」


「――毒手使いの成長が楽しみだというのに、こんなことで潰されてなるものか」

 ブラッドがぼそりと言った。
 こいつ、何を考えて?


「これから会わんとする教授の教え子と、戦えというのかい……? 拳に頼る前に、なんとかして穏便に済ませる方法をだね――」


「……ふむふむ、なるほどねぇ」
 今の三人のやりとりを聞いていたリーダーの男が、なにやら納得したような顔をしてうなずいている。


「では、こうしましょう」


「……む? 何か案があるのでござるな、ラカーン殿」


 リーダーの男の名前はラカーンと言うらしい。


 ラカーンは自分の額に片手をぱしぱしと当ててから言った。


「ここはひとつ、親衛隊とコーキさんとで対決をしましょう。

 彼の体をいっさい傷つけず、かつ我々の利益にもなりうる、平和的なバトルでね」

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