毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

3-5

 男の後を追って、俺たちはその広場に到着する。


 旧闘技場広場。かつて冒険者のトーナメントが行われた場所だ。今ではトーナメントが廃止されてしまい、その跡地は冒険者や王国兵士の訓練の場となっている。


 男は広場の中央で背中を向けて手を組んでいたが、俺の足音を聞くと顔をこちらに向けて言った。


「ふっ、来たか。今日の我はまこと、気分がよい。命の灯が燃え尽きぬうちに、もう一度『毒手使い』を見られたのだからな。


 ゆえ、うぬがそのチカラを服従させる方法を、教えてやってもいいぞ。」


「これをどうにか出来るのなら、是非ともその方法とやらを知りたいところだが……

 どうしてそんな手間を無関係の俺にわざわざ?」


 男は質問に答えず、言葉を続けた。


「――ただし、知りたいと思うのなら、条件がある。我と決闘をするのだ。


 されば、"気"のコントロール、ひいては毒手のコントロールについて知っていることを教えてやる」


「け、決闘だって!?」


 話が違う!


 教えてやるから俺と闘えだなんて、条件付きかよ!


 俺はムッとして言った。


「なんだ、ずいぶんと一方的だな。

 それに、"気"、だって?その言い方、ひょっとして俺のチカラも同じものなのか?」


「是。毒手を、我の千年前の"気の"師が用いていた故。

 かつての我が師は、飛ぶ鳥の群れを毒にて全て撃ち落とすほどの使い手、そのチカラ、真に残忍かつ快であった。」


 何を言っているんだこの人は。


 彼の師とやらが使っていただなんて、毒手のあった時代から生きているとでもいうのか。


「聞き間違いで無ければ千年前と言ったな?

 非現実的過ぎる。お前は化け物か狂人か?」


「――両方だ。我は戦に生きる狂人であり、そしてかつて化け物であった。」


「どういうことだよ……?意味が分からないが、まあいい。


 それで、お前は結局毒手のことも、チカラをコントロールする方法のことも知っているんだな?」


「これ以上を知りたくば、我と闘え」


 男は、俺の質問に答えない。


「で、俺が決闘を受けない可能性は?」


「稚児の如きに言うことを聞かぬ、その毒を抑え込みたくは無いのか?――それを常に気にしていては、まこと不便であろう」


 そう言って、俺の左手のグローブを示す。


「……見るな」


 先日の失敗の記憶がよみがえる。自分が毒になったり、パーティーに迷惑をかけたり……


 俺は頭に湧いてくるそれらを振り払うようにグローブを地面に投げ、拳を握った。


「コーキ……」


 近くでは三人が、固唾を飲んで見守っている。


「突然出てきたかと思えば、偉そうに千年前だのなんだのって仄めかして、正直かなり怪しいが、やるしかねえんだろ……」


 こいつは何か知っている、だから受けねばならない。俺にはそんな直感があった。


 俺の言葉を聞いた男が言う。


「ふっ、心は決まったようだな。


 では、行くぞ!!そのチカラ、この我に見せつけてみよ」


 そう言うと、両手を大きく横に広げ、俺の目の前に立った。


「っ、なにをする気だ!?」


 先程は集団相手での圧倒的な戦闘能力を見たために、俺は防戦のつもりで身構えたのだが、そのまま男は動かない。
 そして、言った。


「どうした?胴ががら空きだというのに、殴らぬのか?」


「こいつ――!」


 完全に俺をバカにしてやがる。


「なら、お望み通り、叩き込ませてやる!」


 俺は左手にエネルギーを込め、拳を繰り出す。


「!?」


 ――消えた。


 見ると、男は一瞬のうちに三メートルほども後退していた。


「……甘い。」


 そう言うと、また同じように一瞬で俺の前に立った。


「なんのつもりだっ!」


 俺は今度は直接当てようとせず、五本の指先から毒弾を男に向けて撃ち出した。


「ベノム・バルカン!」


 射出したのは誘導弾。

 それも男の手前、至近距離で。


 しかし案の定、


「……!」


 男にダメージは無いようだった。


「飛ぶ鳥の心臓を寸分違わず貫く、あの方の銃弾に比べれば、このようなもの、単なる豆鉄砲に過ぎぬ。」


 それどころか、俺が撃ったとほぼ同時に片手を刀のように振り、毒弾を全て弾き飛ばした。


 弾かれた毒弾は真っ黒い泥のようになって男の後ろの地面にぼとりと落ちた。


 バカな!手刀で触れたのに、毒が効かなかった!?


 まさか、耐性か?と驚く俺の思考を見透かすように男は言った。


「腕に"気"を纏い、うぬの弾丸には直に触れずに切り結んだのだ」


「だからその"気"、って何なんだよ!」


 俺はその後も拳を突き出したが、ことごとく男に避けられた。


「ハァ、ハァ……」


 息が切れてきた。手加減されて一発も当てられないだなんて。


「……この程度か。」


 男は吐き捨てるように言うと、片手を天にかざした。


「毒手の今世(いまよ)の使い手、そのチカラがいかほどかと蓋を開けてみれば、うぬは我にかすり傷の一発も作れぬではないか。


 こんなものが現代の毒手などとは、実に、実に、期待外れだ。」


「お主、わざとコーキが戦うように仕向けておいて、その言い分はなんじゃ!我が儘が過ぎるぞ!」


 場外のカリンが男に言う。


「……我が師のうちの一人、その強さをこんな若造に汚されて、我が儘も何もあったものか。」


 かざした右腕に光が集まり、それはやがて切り返しのついた剣のような形になると、彼の肘から先を覆った。


「――"気"を用いた技の総称、『千夜一夜(せんやいちや)の古武(こぶ)』のうちの一つ、"毒手"。


 その本物のチカラ、せめて未熟なうぬの目に焼き付けてやろうぞ。」


 そして、男の右腕の剣状のエネルギーがどす黒い、不安定な色に染まる。


 ――あの黒いのは、まさか毒なのか!?
 では奴も、毒手持ち?


 ――いや、さっきから"気"と言っているものの一つが毒手だと言う風に聞こえたが?


 この強大なエネルギーに先刻の殺気……奴のこの能力はいったい……


 そして次の瞬間、剣を振り上げた男が俺の前に立っていた。


「ひぃっ!?」


 男が塞がっていない左手を伸ばす。


 俺は身体を反らして避けようとしたが、男が俺の左手を同じく左手でがっちりと掴んだ。

 そして男は、ゆっくりと剣状の右腕を振り下ろした。

 俺は反射的に目をつぶる。


「我の勝ちだ。」


 そのまま二三秒目をつぶっていたが、何ごともない。恐る恐る目を開けると、俺の眉間数センチのところに男の右手が手刀の形であった。さきほどの剣は消えている。


 男が掴んでいた手を離した。


 すっかり闘志が抜けた俺はその場にへなへなと座り込む。


 男は背中を向け、言った。


「……一度追い込めば或いは、もしや、と思ったが、本当にこの程度だったか。


 つくづく、期待外れだった。」



「――ま、待て……!」

 男は俺が呼び掛ける前に、風のようにどこかへ去っていってしまった。


「……まだチカラのことを聞いて……約束が違う……」


 俺は無駄だと知りつつも、さっきまで男がいた方向に左手を伸ばす。――あれ、なんか違和感が。


「コーキ!」
「コーキさん!」

 三人が場外から駆け寄ってきた。


「大丈夫か、立てるかい?」


 アイザックさんが手を差し伸べた。


 ――そんな、どうして?


 俺は自分の左手をまじまじと見て、言う。


「……ダメだ。」


「へ?

 ――ほら、立てる?」


 アイザックさんが俺の手を掴む。


「ありがとうございます。」


「ああ、どういたしまして?


 ケガは無い……って、あっ!?……コ、コーキくん?」


 彼は驚いたようだ。


 それは、自分が無意識に掴んだのが、俺の左手の方だったからではない。


 俺は彼に手を握られたまま立ち上がると、握り返しながら言った。


「――出ないんです、毒が」

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