毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
2-7
――なんとかして目を開ける。
次の瞬間、俺が見ていたのは夕暮れの空でも無く、水でもなく、心配そうに覗き込む三人の顔だった。
「……あいつは?あの変な手は?」
俺はなんとか声を出す。なんだか内側から聞こえているような声だ。耳鳴りがする。
「やっと目が覚めたんじゃな。心配したぞよ」
カリンが呆れたように言う。
「まあ、これは体勢を立て直すための戦略的撤退なんだから。
ちょっとあの川を渡るために話し合おう。」
アイザックさんだ。元通り、眼鏡をかけている。
そうか、みんなボスに負けそうになって命からがら戻って来たのか。
「無事で良かったです、本当に」
カティアさんが呟く。
「まあ、負けたのは仕方無かったんだよ。いろいろと。もう夜も近かったし、そのおかげであの魔物もだいぶ強化されていたみたいだ」
「そうだ、あの川、いつの間にか深くなって……ボスはどうしたんですか」
「あれは化け川という魔物だ。川に住んで何も知らない冒険者を引きずり込む。水しぶきを上げた場所に巻き貝の形をした本体があって、倒すにはそこを攻撃しなければならない。
途中で黒い手や川が深くなる幻を見せて妨害してくるから、幻術にかかる前に倒しきるのが手っ取り早かったんだ」
「うーん、そうだったんですね」
「やっぱり、わしがお主にナイフを借りたのがまずかったのう」
「もう済んだことだろ、気にすんな」
「皆さん、これからどうしましょう?また正面から挑んでもほうほうのていで逃げ帰ってくることになりそうですし」
カティアさんが言う。
と、俺はある作戦を思い付いた。
突然浮かんできた逆転のプランに思わず気持ちが高まる。
さっきのカリンとのやりとり。「下流でするから」。
これがキーワードだ。
そのためには、俺の能力が要る。
正直、さっきまで冒険をなめていた。
だが、負けてみて初めて気づかされるものがあった。それは地形、昼夜、などの状況、そして魔物の知識といった事前の下調べの重要性などだ。
――やってやろうじゃねえの。
思い付いた案をシミュレートする俺は言いようのないカタルシスに襲われていた。
「あの、作戦があります」
「作戦?」
「はい。しかもどうやら、そのためには、俺の力が要るみたいです。」
「コーキさんの、チカラ?」
俺はカティアさんに毒手のことを話すことを決意した。
一年前の事件のことは、いつの間にか頭の片隅に追いやっていた。
「毒をもって、毒を制す。
向こうが川から出てこないなら、こっちから引きずり出すまで。
さあ、リベンジです」
微妙な特殊能力の俺は、あえて不敵に笑ってみせた。
そして、自分の作戦、そして特殊能力のことを三人に話す。
***
「まさか毒手が本当に実在するなんて……
作戦は本当に大丈夫なのでしょうか?」
「なかなかの妙案だよ。あとはコーキ君の実力にかかってる」
「心配要りません。こいつで耐えきってみせますよ」
カティアさんの懸念に対し、俺はカリンに返してもらったナイフを掲げてみせる。
「せいぜい足を滑らせないように頑張るのじゃ!」
「それは皮肉か?」
「わしなりの応援じゃよ」
軽口もほどほどにして、俺は川に独りで入っていく。
そして、左手をざぶりと水につける。俺はその体勢のまま動かない。
やがて、毒が本体のいるであろう下流に向けて流れ出す。
そう、毒でじわじわと苦しめ、化け川の本体を引きずり出すのだ。
環境破壊だって?
こんな魔物が化けたニセモノの川相手にそんな配慮はいらねえな。
侵入者の俺に対し、免疫のように黒い手が伸びる。
俺はそれらを一本一本ナイフで刺突していく。
やがて、下流のほうでざぶりという水音。
音の方を見ると、出た。二メートルほどもある巨大な巻き貝。初めて見たが、あれが本体に違いない。
「ついに出たか!」
それを見た三人。
カリンが弓を打ち、他の二人が本体にポーションを投擲する。
遠距離で戦うのは初めてだというカティアさんの投擲はまるで弾丸だ。
さすが怪力。もう、いっそ石でも投げさせたほうがいいかもしれない。
巻き貝は蓋を閉じて中身を引っ込めると、それらを防御した。
さて、その籠城がいつまで続くかな?
俺はなおも地道に妨害を潰し、三人は遠くからチマチマとダメージを蓄積していった。
そして遂に、俺のいやらしい毒攻撃に耐えきれなくなった魔物がその殻を開けた。
――今だ!
思う間も無く、弓とポーションがその軟らかい中身をピンポイントで狙って降り注ぐ。
ザクザクと刺さる矢に、炸裂するポーション。
彼らの攻撃をモロに食らった魔物は身をくねらせると、ついにぐったりと折れて収縮した。
そして、紫の煙が上がり、本体が消滅。
水もいつの間にか無くなっていた。
「やりましたね!」
口々に「ナイスじゃ」「上手くいったね」「皆さんもナイスです」と讃え合う。
「もう真っ暗だ。さあ、早く目的を果たそう。」
勝利の余韻もほどほどに、俺たちは奥の方に見える小屋へと向かった。
次の瞬間、俺が見ていたのは夕暮れの空でも無く、水でもなく、心配そうに覗き込む三人の顔だった。
「……あいつは?あの変な手は?」
俺はなんとか声を出す。なんだか内側から聞こえているような声だ。耳鳴りがする。
「やっと目が覚めたんじゃな。心配したぞよ」
カリンが呆れたように言う。
「まあ、これは体勢を立て直すための戦略的撤退なんだから。
ちょっとあの川を渡るために話し合おう。」
アイザックさんだ。元通り、眼鏡をかけている。
そうか、みんなボスに負けそうになって命からがら戻って来たのか。
「無事で良かったです、本当に」
カティアさんが呟く。
「まあ、負けたのは仕方無かったんだよ。いろいろと。もう夜も近かったし、そのおかげであの魔物もだいぶ強化されていたみたいだ」
「そうだ、あの川、いつの間にか深くなって……ボスはどうしたんですか」
「あれは化け川という魔物だ。川に住んで何も知らない冒険者を引きずり込む。水しぶきを上げた場所に巻き貝の形をした本体があって、倒すにはそこを攻撃しなければならない。
途中で黒い手や川が深くなる幻を見せて妨害してくるから、幻術にかかる前に倒しきるのが手っ取り早かったんだ」
「うーん、そうだったんですね」
「やっぱり、わしがお主にナイフを借りたのがまずかったのう」
「もう済んだことだろ、気にすんな」
「皆さん、これからどうしましょう?また正面から挑んでもほうほうのていで逃げ帰ってくることになりそうですし」
カティアさんが言う。
と、俺はある作戦を思い付いた。
突然浮かんできた逆転のプランに思わず気持ちが高まる。
さっきのカリンとのやりとり。「下流でするから」。
これがキーワードだ。
そのためには、俺の能力が要る。
正直、さっきまで冒険をなめていた。
だが、負けてみて初めて気づかされるものがあった。それは地形、昼夜、などの状況、そして魔物の知識といった事前の下調べの重要性などだ。
――やってやろうじゃねえの。
思い付いた案をシミュレートする俺は言いようのないカタルシスに襲われていた。
「あの、作戦があります」
「作戦?」
「はい。しかもどうやら、そのためには、俺の力が要るみたいです。」
「コーキさんの、チカラ?」
俺はカティアさんに毒手のことを話すことを決意した。
一年前の事件のことは、いつの間にか頭の片隅に追いやっていた。
「毒をもって、毒を制す。
向こうが川から出てこないなら、こっちから引きずり出すまで。
さあ、リベンジです」
微妙な特殊能力の俺は、あえて不敵に笑ってみせた。
そして、自分の作戦、そして特殊能力のことを三人に話す。
***
「まさか毒手が本当に実在するなんて……
作戦は本当に大丈夫なのでしょうか?」
「なかなかの妙案だよ。あとはコーキ君の実力にかかってる」
「心配要りません。こいつで耐えきってみせますよ」
カティアさんの懸念に対し、俺はカリンに返してもらったナイフを掲げてみせる。
「せいぜい足を滑らせないように頑張るのじゃ!」
「それは皮肉か?」
「わしなりの応援じゃよ」
軽口もほどほどにして、俺は川に独りで入っていく。
そして、左手をざぶりと水につける。俺はその体勢のまま動かない。
やがて、毒が本体のいるであろう下流に向けて流れ出す。
そう、毒でじわじわと苦しめ、化け川の本体を引きずり出すのだ。
環境破壊だって?
こんな魔物が化けたニセモノの川相手にそんな配慮はいらねえな。
侵入者の俺に対し、免疫のように黒い手が伸びる。
俺はそれらを一本一本ナイフで刺突していく。
やがて、下流のほうでざぶりという水音。
音の方を見ると、出た。二メートルほどもある巨大な巻き貝。初めて見たが、あれが本体に違いない。
「ついに出たか!」
それを見た三人。
カリンが弓を打ち、他の二人が本体にポーションを投擲する。
遠距離で戦うのは初めてだというカティアさんの投擲はまるで弾丸だ。
さすが怪力。もう、いっそ石でも投げさせたほうがいいかもしれない。
巻き貝は蓋を閉じて中身を引っ込めると、それらを防御した。
さて、その籠城がいつまで続くかな?
俺はなおも地道に妨害を潰し、三人は遠くからチマチマとダメージを蓄積していった。
そして遂に、俺のいやらしい毒攻撃に耐えきれなくなった魔物がその殻を開けた。
――今だ!
思う間も無く、弓とポーションがその軟らかい中身をピンポイントで狙って降り注ぐ。
ザクザクと刺さる矢に、炸裂するポーション。
彼らの攻撃をモロに食らった魔物は身をくねらせると、ついにぐったりと折れて収縮した。
そして、紫の煙が上がり、本体が消滅。
水もいつの間にか無くなっていた。
「やりましたね!」
口々に「ナイスじゃ」「上手くいったね」「皆さんもナイスです」と讃え合う。
「もう真っ暗だ。さあ、早く目的を果たそう。」
勝利の余韻もほどほどに、俺たちは奥の方に見える小屋へと向かった。
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