毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
2-2
そして後日。
「あまり気乗りしないんですけどね」
俺は彼にまたも丸め込まれ、久しぶりにマトモな冒険をすることになった。実に一年ぶりである。
適正レベルと同じか少し上くらいのダンジョンに入ってボスを倒す本格的なものはご無沙汰だった。
俺の毒手を知っているアイザックさん達が同行する完全に顔見知りのパーティーのためか、俺はそこまで冒険への拒絶反応は起きなかった。
どちらにせよ気は進まないけどね。
俺は冒険に出発する前日には持ち物のリストを作り、ホコリを被った武器と防具を引っ張り出した。さらには回復アイテム、自作のポーション、マヒや混乱、暗闇を回復するアイテムも忘れずに持ってきたのだ。
それにしても、荷物が重い……。
「なんじゃそのへっぴり腰は!もっとシャキッとせんかいシャキッと!!」
「シャキッ!」
パーティーのメンバーは、俺、アイザックさん、そしてカリン。
アイザックさんはアルケミスト系の支援技が得意らしい。俺よりもレベルが高いので、頼りにさせてもらおう。
カリンは弓を使うとのこと。これから向かうのは森のダンジョンなので、大いに役立ってくれることだろう。
それにしても、店は大丈夫なのだろうか。
弟のことがあるのは事実だけど、仕事をしないのは流石にまずいのでは。俺はあれ以来、怖くてこの話題を避けている。
目的地である『黒染の森』は、大陸の広大な地平を歩いて半日。夜になると魔物が強いので、出発は夜明け前になった。
街道の途中では、他の冒険者一行と何度もすれ違った。
たまに別れ道があって、『左 ラグラーノの町 右 アンヒョルド炭鉱』という具合に別れている。
ダンジョンを越えないと行けない町もあり、俺は別れ道を見る度に、その先の町を想像して胸が高鳴った。
そしてアイザックさんを先頭にした俺達の一行は『黒染の森』に到着する。
「おおう……」
俺は初めて足を踏み入れるダンジョンの姿に圧倒された。
そして思う。
やべえ、帰りてぇ――。
広大な地平に置き去りにでもされたかのように、ぽつんとたたずむそれ。
突然現れる森。
森を構成する木が黒く、禍々しい。
樹木の幹にはツタが絡んで、手のように見える。
耳を済ますと、どこからか得体のしれない生き物の鳴き声も聞こえる。鳴き声はフッフッフッフ、という男の低い含み笑いにも聞こえる。
障気の森と雰囲気が似てはいるが、ここは闇系の魔物が多いらしい。加えて夜になると敵が凶暴化するとのことだ。
それにしても、昼前だというのにここは薄暗くて怖い。
横をちらりと見ると、アイザックさんは当然のこと、カリンまでもが平然としている。
コイツ、こういうの平気なのか?
「お主、まさか怖いのか?」
俺の方を見たカリンがニヤニヤしながら聞く。
しまった、足の震えに気付かれたか。
「そ、そんなわけねえだろ!!
吸血鬼だろうがツギハギ男だろうがどっからでもかかってこい!」
俺は虚勢を張ってみせる。
――と、
「ガサッ」
「ひえええええ!!!」
俺のすぐそばの茂みから何かが飛び出してきた!
「マンイーターじゃ!気を付けろ!
そち、そこで座りこんどらんでさっさと拳を構えんか!!」
腰が抜けました。
なんだ、ただのザコ敵か。ただし、油断禁物レベルには強いザコだ。
壺のかたちをした植物の魔物が4匹、俺らの四方を取り囲んでいた。
こいつ、毒は効いたっけ?
植物系の敵にも、毒が効くものと効かないものとがある。
俺は立ち上がると、拳を構えた。
一発目はとりあえず毒手を当てて耐性の有無を見て――、
効かない敵のためにポーションは温存したほうがいいかな。
俺は握っていた拳を開き、玉虫色のいかにも毒々しい、サッカーボール大のエネルギー弾を放出する。
「ベノムキャノン!」
俺の十八番、ベノムキャノンが一匹の口の下に炸裂する。
あの壺の中――口に撃ち込めばクリティカルなのに、惜しいな。
そして毒が――通った!
マンイーターの胴体がねじれ、触手をジタバタと地面に叩きつける。
横に視線をやると、カリンが弓を引き、光の矢を打ち出していた。
彼女の放った矢はマンイーターに当たると貫通し、敵の動きを封じた。
アイザックさんは小さな試験管を投擲した。
弧を描いて空中に放り出されたそれは見事壺の中にカップインし、マンイーターが内側から燃える。
それにしても見事にみんな遠距離系である。
俺には拳で直接攻撃するという手もあるが、こんなかすっただけでカブれそうな魔物には基本的に触りたくない。
よそ見をしていた俺に、二人が撃ち漏らしたマンイーター……ではなく俺が毒にした個体の触手が襲いかかった。
しまった、まだ息が――!
あっ――、と声をあげそうになる俺。
しかし、飛んできた触手が俺を攻撃する直前に、そいつは痙攣を起こして枯れ、動かなくなった。
俺が攻撃を食らう直前に、毒がマンイーターを力尽きさせたのだ。
まったく、心臓に悪い能力だ。
「あまり気乗りしないんですけどね」
俺は彼にまたも丸め込まれ、久しぶりにマトモな冒険をすることになった。実に一年ぶりである。
適正レベルと同じか少し上くらいのダンジョンに入ってボスを倒す本格的なものはご無沙汰だった。
俺の毒手を知っているアイザックさん達が同行する完全に顔見知りのパーティーのためか、俺はそこまで冒険への拒絶反応は起きなかった。
どちらにせよ気は進まないけどね。
俺は冒険に出発する前日には持ち物のリストを作り、ホコリを被った武器と防具を引っ張り出した。さらには回復アイテム、自作のポーション、マヒや混乱、暗闇を回復するアイテムも忘れずに持ってきたのだ。
それにしても、荷物が重い……。
「なんじゃそのへっぴり腰は!もっとシャキッとせんかいシャキッと!!」
「シャキッ!」
パーティーのメンバーは、俺、アイザックさん、そしてカリン。
アイザックさんはアルケミスト系の支援技が得意らしい。俺よりもレベルが高いので、頼りにさせてもらおう。
カリンは弓を使うとのこと。これから向かうのは森のダンジョンなので、大いに役立ってくれることだろう。
それにしても、店は大丈夫なのだろうか。
弟のことがあるのは事実だけど、仕事をしないのは流石にまずいのでは。俺はあれ以来、怖くてこの話題を避けている。
目的地である『黒染の森』は、大陸の広大な地平を歩いて半日。夜になると魔物が強いので、出発は夜明け前になった。
街道の途中では、他の冒険者一行と何度もすれ違った。
たまに別れ道があって、『左 ラグラーノの町 右 アンヒョルド炭鉱』という具合に別れている。
ダンジョンを越えないと行けない町もあり、俺は別れ道を見る度に、その先の町を想像して胸が高鳴った。
そしてアイザックさんを先頭にした俺達の一行は『黒染の森』に到着する。
「おおう……」
俺は初めて足を踏み入れるダンジョンの姿に圧倒された。
そして思う。
やべえ、帰りてぇ――。
広大な地平に置き去りにでもされたかのように、ぽつんとたたずむそれ。
突然現れる森。
森を構成する木が黒く、禍々しい。
樹木の幹にはツタが絡んで、手のように見える。
耳を済ますと、どこからか得体のしれない生き物の鳴き声も聞こえる。鳴き声はフッフッフッフ、という男の低い含み笑いにも聞こえる。
障気の森と雰囲気が似てはいるが、ここは闇系の魔物が多いらしい。加えて夜になると敵が凶暴化するとのことだ。
それにしても、昼前だというのにここは薄暗くて怖い。
横をちらりと見ると、アイザックさんは当然のこと、カリンまでもが平然としている。
コイツ、こういうの平気なのか?
「お主、まさか怖いのか?」
俺の方を見たカリンがニヤニヤしながら聞く。
しまった、足の震えに気付かれたか。
「そ、そんなわけねえだろ!!
吸血鬼だろうがツギハギ男だろうがどっからでもかかってこい!」
俺は虚勢を張ってみせる。
――と、
「ガサッ」
「ひえええええ!!!」
俺のすぐそばの茂みから何かが飛び出してきた!
「マンイーターじゃ!気を付けろ!
そち、そこで座りこんどらんでさっさと拳を構えんか!!」
腰が抜けました。
なんだ、ただのザコ敵か。ただし、油断禁物レベルには強いザコだ。
壺のかたちをした植物の魔物が4匹、俺らの四方を取り囲んでいた。
こいつ、毒は効いたっけ?
植物系の敵にも、毒が効くものと効かないものとがある。
俺は立ち上がると、拳を構えた。
一発目はとりあえず毒手を当てて耐性の有無を見て――、
効かない敵のためにポーションは温存したほうがいいかな。
俺は握っていた拳を開き、玉虫色のいかにも毒々しい、サッカーボール大のエネルギー弾を放出する。
「ベノムキャノン!」
俺の十八番、ベノムキャノンが一匹の口の下に炸裂する。
あの壺の中――口に撃ち込めばクリティカルなのに、惜しいな。
そして毒が――通った!
マンイーターの胴体がねじれ、触手をジタバタと地面に叩きつける。
横に視線をやると、カリンが弓を引き、光の矢を打ち出していた。
彼女の放った矢はマンイーターに当たると貫通し、敵の動きを封じた。
アイザックさんは小さな試験管を投擲した。
弧を描いて空中に放り出されたそれは見事壺の中にカップインし、マンイーターが内側から燃える。
それにしても見事にみんな遠距離系である。
俺には拳で直接攻撃するという手もあるが、こんなかすっただけでカブれそうな魔物には基本的に触りたくない。
よそ見をしていた俺に、二人が撃ち漏らしたマンイーター……ではなく俺が毒にした個体の触手が襲いかかった。
しまった、まだ息が――!
あっ――、と声をあげそうになる俺。
しかし、飛んできた触手が俺を攻撃する直前に、そいつは痙攣を起こして枯れ、動かなくなった。
俺が攻撃を食らう直前に、毒がマンイーターを力尽きさせたのだ。
まったく、心臓に悪い能力だ。
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