学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ
合宿編16
全員がペア及び脅かし役が決まり肝試しは開催される。
書かれたくじの数字が出発順らしく、太陽、千絵ペアは8番目に暗闇の森へと入る事となる。
前のペアが入って5分後に次のペアが出発の為、それまで暇な者たちは会話なりで時間を潰していた。
太陽も男友達と会話するよりも、後々の探す面倒を考えて千絵と他の男子とペアを組んだ御影と共に順番を待つ。
「それにしても、渡口さんは災難でしたね。まさかの脅かし役のくじを引いてしまうなんて」
「そうだね。所々の場所で待機らしいから、1人暗闇で待つなんて私は無理だな……」
最も優良株で憧れの対象の光が脅かし役になった事で多数の男子からは落胆の声が。
そして、もう1人の優良株の御影と幸運にもペアを組むことが出来た近藤という男子部員は、他の男子部員から嫉妬で怪我無い程度に暴行されている。
「それにしても肝試しか。よくよく考えたら、俺は遊園地のアトラクションでもなんでも、こういったホラー系は初めてだな」
「そうなんですか? ここは小学生の頃から使用していると言ってましたが、ないのですか?」
「小学生とかでこういったイベントはないからな。あったのはキャンプファイアーぐらいだ。まあ、それも俺たちの代はしなかったが」
何故ですか?と聞いて来る御影に千絵が答える。
「私たちの代は何故かキャンプファイアーをする日に限って雨でね。小学、中学で二度開かれたけど、どっちとも雨で中止だったんだ。だから、夜の行事自体が私も初体験かも」
流石に雨の日に強引に行事をすれば批判が殺到するだろう。
不運に見舞われたが、2人にすれば夜の外での行事は初めてなのである。
「だけど……肝試しってか、お化け屋敷とかも俺入った事ないんだよな……。前から興味はあったんだが」
「それって無意識に怖がって入りたがらなかっただけでは?」
「いや、確か中学の修学旅行で遊園地に行った時、俺がお化け屋敷に入ろうって提案したら……そう言えば、あの時一番に批判したのって、千絵だったか?」
太陽が思い出して本人に尋ねると、千絵はギクッと跳ねて顔を逸らす。
下手で吹けてない口笛をする千絵を胡乱な眼で見る太陽と御影。
「……そう言えば、夜中に口笛を吹けば幽霊が来るっていいますよね?」
御影が迷信を口にするとひゅーひゅーと吹いていた千絵がピタリと止む。
これは確信だろうが、千絵の名誉の為に2人はそれ以上何も言わなかった。
「それじゃあ、次は8番のペア。そろそろスタート位置に来てくれ」
こんなやり取りをしている間に太陽と千絵のペアの番が回って来て係が手を振り呼ぶ。
「よし。それじゃあ行くか千絵」
「う、うん!」
遂にこの時が来たと言わんばかりに青ざめる千絵を連れて行こうとする太陽だが。
微かに震える千絵の耳元で御影が囁く。
「恐いんでしたら交代してあげましょうか? その後に辞退すれば恐い思いはせずに済みますよ?」
「絶対にイヤ!」
チッ、と舌打ちをする御影を尻目に太陽と千絵は肝試しのスタート位置に付き。
「それじゃあ時間だ。足元を気を付けて行けよ」
はい、と2人が返答をして、手渡された懐中電灯の明りを頼りに暗闇の森の中に脚を踏み出す。
リンリンリン、とまだ夏は到来していないにも関わらずあわてんぼうの夏の風物詩を彷彿させる虫の音が響く森の中。
甘美な音色が奏でられているが、逆にこの音が恐怖を駆り立てられないか心配になる。
「脅かし役は8人らしいから、少なくとも8か所のポイントで仕掛けて来るって訳か……。なんか先生やコーチが気合を入れて道具の精度は高いらしいから、気をしっかり持って進まねえとな」
「…………………そうだね」
かなりの間が空いての千絵の返しに眉根を寄せる太陽。……何故なら。
「なあ千絵……スタートしてまだ1分ぐらいでまだ脅かしのポイントも通過してねえのに、近くねえか?」
如何にも腕に抱き着かんばかりの至近距離まで太陽の横をピッタリと並走する千絵。
「なあ千絵。お前ってさ、幽霊が怖いのか?」
核心を突く太陽の一言で千絵はビクッと図星の様に身体を震わせる。
だが、千絵は冷や汗を流しがらも、気丈を振る舞う様にぶんぶん首を強く振り。
「ぜーんぜん! 幽霊とかお化けとか、そんな非科学的な物を怖がるなんて。そんな子供じみた――――」
千絵が最後まで言い終わる前に太陽は千絵から1歩横に離れる。
すると千絵も付いて来る様に太陽に1歩距離を縮める。
「……………」
今度は太陽はわざと速度を緩めて千絵との距離を測る。
だが、千絵も同じく速度を緩めて太陽と並走する。
次は逆に速度を速めて走りだすと、それに付いて来る様に千絵も速度を上げて走り出す。
夜の森の中の追いかけっこ、まるで引っ付き虫の様に後を追う千絵に少しばかりの恐怖を覚えながらも、多分、脅かしポイントを幾つか過ぎ去った場所で2人は肩で息をするぐらいの疲れを見せる。
最終的に千絵は体裁とかどうでも良いとばかりに、太陽の袖を強く掴んでいた。
そしてプルプル震える千絵はギッと太陽を睨み。
「そうだよそうだよ! 私はお化けとか幽霊とか怖いよ、悪い!? 高校生にもなってホラーモノを見ると夜も眠れなくなるぐらいの臆病で子供じみてますけどなにか!?」
開き直ってぎゃあぎゃあ叫ぶ千絵。
「いや、別に悪いとか言ってるんじゃなくて。素直に言えばこんな意地悪な事はしなかったってだけだ。人それぞれ怖い物があっていいじゃねえか」
怒りと恐怖で興奮気味の千絵を宥める太陽だが、千絵は唇を尖らし。
「だって太陽君に弱みを見せると後々で弄られるかと思ってさ……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ……。流石に人の弱みを見て揶揄う程性根は腐ってねえよ。お前らみたいにな」
若干の皮肉を込めて返すと、小さくため息を吐き。
「そもそもこのイベントは強制じゃないんだし。恐かったら辞退すればよかったじゃねえか」
「駄目だよ。1人でも抜ければもう人数が合わなくなるから、怖いからって迷惑を掛けたくないし……」
変な所で真面目な部分を見せる千絵に太陽は嘆息する。
自分の所為で周りを迷惑を掛けたくない。昔から千絵は自分を犠牲して他を優先する部分があるが、怖い物を我慢してまで気丈に振る舞う理由が分からない。
太陽はやれやれと肩を竦めていると、ガサガサと道の脇の茂みが音を鳴らして揺れ、
「ぎゃああ! なに!? なにぃ!?」
ガバッと太陽を体当たりの様な勢いで千絵が抱擁する。
「お、おい千絵、なに抱き着いて来てるんだ、離れろ!?」
抱き着く千絵を太陽は引き離そうとするが、腰まで手を回して力強く抱き着く為に困難だった。
風呂から上がってあまり経ってないからか、シャンプーと女性としての甘い匂いが鼻を燻ぶり、これはある意味まずいと千絵を引き離そうとするが、コアラの様に千絵は離れない。
「ジェイソン!? チャッキー!? ペニーワイズ!? ゴーストフェイス!?」
「おい! 恐いのは分かるが言っている事が支離滅裂になってるぞ!? てか、お前って本当はホラー映画好きだろ!?」
恐怖のあまりに思考回路が壊れたのかジタバタと脚を鳴らして暴れる千絵を押さえる太陽。
そして揺れる茂みから小さな影が飛び出る。
「…………たぬき?」
一瞬犬かと思えた動物だったが、暗くてよくは確認出来ないが、多分タヌキだと思われる。
田舎の森、タヌキなどの野生の動物が出没する為に別段人前に現れることは珍しくない。
タヌキは太陽たちは一瞥した後、颯爽と再び暗闇の森の中へと溶け込んで行く。
「お、おい千絵……。恐いのは去ったぞ。そろそろ違う意味で疲れて来たから、さっさと森の中を抜けて――――って、どうしたんだ千絵?」
勘違いで抱き着いた千絵だが、太陽にしがみつきながらピクリとも動かない。
千絵はゆっくりと顔を上げ、にらへと不気味に笑い。
「……腰、抜かしちゃったみたい……」
まだ半分の地点にも到達していない肝試し。
先が思いやられると太陽は深いため息を漏らす。
書かれたくじの数字が出発順らしく、太陽、千絵ペアは8番目に暗闇の森へと入る事となる。
前のペアが入って5分後に次のペアが出発の為、それまで暇な者たちは会話なりで時間を潰していた。
太陽も男友達と会話するよりも、後々の探す面倒を考えて千絵と他の男子とペアを組んだ御影と共に順番を待つ。
「それにしても、渡口さんは災難でしたね。まさかの脅かし役のくじを引いてしまうなんて」
「そうだね。所々の場所で待機らしいから、1人暗闇で待つなんて私は無理だな……」
最も優良株で憧れの対象の光が脅かし役になった事で多数の男子からは落胆の声が。
そして、もう1人の優良株の御影と幸運にもペアを組むことが出来た近藤という男子部員は、他の男子部員から嫉妬で怪我無い程度に暴行されている。
「それにしても肝試しか。よくよく考えたら、俺は遊園地のアトラクションでもなんでも、こういったホラー系は初めてだな」
「そうなんですか? ここは小学生の頃から使用していると言ってましたが、ないのですか?」
「小学生とかでこういったイベントはないからな。あったのはキャンプファイアーぐらいだ。まあ、それも俺たちの代はしなかったが」
何故ですか?と聞いて来る御影に千絵が答える。
「私たちの代は何故かキャンプファイアーをする日に限って雨でね。小学、中学で二度開かれたけど、どっちとも雨で中止だったんだ。だから、夜の行事自体が私も初体験かも」
流石に雨の日に強引に行事をすれば批判が殺到するだろう。
不運に見舞われたが、2人にすれば夜の外での行事は初めてなのである。
「だけど……肝試しってか、お化け屋敷とかも俺入った事ないんだよな……。前から興味はあったんだが」
「それって無意識に怖がって入りたがらなかっただけでは?」
「いや、確か中学の修学旅行で遊園地に行った時、俺がお化け屋敷に入ろうって提案したら……そう言えば、あの時一番に批判したのって、千絵だったか?」
太陽が思い出して本人に尋ねると、千絵はギクッと跳ねて顔を逸らす。
下手で吹けてない口笛をする千絵を胡乱な眼で見る太陽と御影。
「……そう言えば、夜中に口笛を吹けば幽霊が来るっていいますよね?」
御影が迷信を口にするとひゅーひゅーと吹いていた千絵がピタリと止む。
これは確信だろうが、千絵の名誉の為に2人はそれ以上何も言わなかった。
「それじゃあ、次は8番のペア。そろそろスタート位置に来てくれ」
こんなやり取りをしている間に太陽と千絵のペアの番が回って来て係が手を振り呼ぶ。
「よし。それじゃあ行くか千絵」
「う、うん!」
遂にこの時が来たと言わんばかりに青ざめる千絵を連れて行こうとする太陽だが。
微かに震える千絵の耳元で御影が囁く。
「恐いんでしたら交代してあげましょうか? その後に辞退すれば恐い思いはせずに済みますよ?」
「絶対にイヤ!」
チッ、と舌打ちをする御影を尻目に太陽と千絵は肝試しのスタート位置に付き。
「それじゃあ時間だ。足元を気を付けて行けよ」
はい、と2人が返答をして、手渡された懐中電灯の明りを頼りに暗闇の森の中に脚を踏み出す。
リンリンリン、とまだ夏は到来していないにも関わらずあわてんぼうの夏の風物詩を彷彿させる虫の音が響く森の中。
甘美な音色が奏でられているが、逆にこの音が恐怖を駆り立てられないか心配になる。
「脅かし役は8人らしいから、少なくとも8か所のポイントで仕掛けて来るって訳か……。なんか先生やコーチが気合を入れて道具の精度は高いらしいから、気をしっかり持って進まねえとな」
「…………………そうだね」
かなりの間が空いての千絵の返しに眉根を寄せる太陽。……何故なら。
「なあ千絵……スタートしてまだ1分ぐらいでまだ脅かしのポイントも通過してねえのに、近くねえか?」
如何にも腕に抱き着かんばかりの至近距離まで太陽の横をピッタリと並走する千絵。
「なあ千絵。お前ってさ、幽霊が怖いのか?」
核心を突く太陽の一言で千絵はビクッと図星の様に身体を震わせる。
だが、千絵は冷や汗を流しがらも、気丈を振る舞う様にぶんぶん首を強く振り。
「ぜーんぜん! 幽霊とかお化けとか、そんな非科学的な物を怖がるなんて。そんな子供じみた――――」
千絵が最後まで言い終わる前に太陽は千絵から1歩横に離れる。
すると千絵も付いて来る様に太陽に1歩距離を縮める。
「……………」
今度は太陽はわざと速度を緩めて千絵との距離を測る。
だが、千絵も同じく速度を緩めて太陽と並走する。
次は逆に速度を速めて走りだすと、それに付いて来る様に千絵も速度を上げて走り出す。
夜の森の中の追いかけっこ、まるで引っ付き虫の様に後を追う千絵に少しばかりの恐怖を覚えながらも、多分、脅かしポイントを幾つか過ぎ去った場所で2人は肩で息をするぐらいの疲れを見せる。
最終的に千絵は体裁とかどうでも良いとばかりに、太陽の袖を強く掴んでいた。
そしてプルプル震える千絵はギッと太陽を睨み。
「そうだよそうだよ! 私はお化けとか幽霊とか怖いよ、悪い!? 高校生にもなってホラーモノを見ると夜も眠れなくなるぐらいの臆病で子供じみてますけどなにか!?」
開き直ってぎゃあぎゃあ叫ぶ千絵。
「いや、別に悪いとか言ってるんじゃなくて。素直に言えばこんな意地悪な事はしなかったってだけだ。人それぞれ怖い物があっていいじゃねえか」
怒りと恐怖で興奮気味の千絵を宥める太陽だが、千絵は唇を尖らし。
「だって太陽君に弱みを見せると後々で弄られるかと思ってさ……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ……。流石に人の弱みを見て揶揄う程性根は腐ってねえよ。お前らみたいにな」
若干の皮肉を込めて返すと、小さくため息を吐き。
「そもそもこのイベントは強制じゃないんだし。恐かったら辞退すればよかったじゃねえか」
「駄目だよ。1人でも抜ければもう人数が合わなくなるから、怖いからって迷惑を掛けたくないし……」
変な所で真面目な部分を見せる千絵に太陽は嘆息する。
自分の所為で周りを迷惑を掛けたくない。昔から千絵は自分を犠牲して他を優先する部分があるが、怖い物を我慢してまで気丈に振る舞う理由が分からない。
太陽はやれやれと肩を竦めていると、ガサガサと道の脇の茂みが音を鳴らして揺れ、
「ぎゃああ! なに!? なにぃ!?」
ガバッと太陽を体当たりの様な勢いで千絵が抱擁する。
「お、おい千絵、なに抱き着いて来てるんだ、離れろ!?」
抱き着く千絵を太陽は引き離そうとするが、腰まで手を回して力強く抱き着く為に困難だった。
風呂から上がってあまり経ってないからか、シャンプーと女性としての甘い匂いが鼻を燻ぶり、これはある意味まずいと千絵を引き離そうとするが、コアラの様に千絵は離れない。
「ジェイソン!? チャッキー!? ペニーワイズ!? ゴーストフェイス!?」
「おい! 恐いのは分かるが言っている事が支離滅裂になってるぞ!? てか、お前って本当はホラー映画好きだろ!?」
恐怖のあまりに思考回路が壊れたのかジタバタと脚を鳴らして暴れる千絵を押さえる太陽。
そして揺れる茂みから小さな影が飛び出る。
「…………たぬき?」
一瞬犬かと思えた動物だったが、暗くてよくは確認出来ないが、多分タヌキだと思われる。
田舎の森、タヌキなどの野生の動物が出没する為に別段人前に現れることは珍しくない。
タヌキは太陽たちは一瞥した後、颯爽と再び暗闇の森の中へと溶け込んで行く。
「お、おい千絵……。恐いのは去ったぞ。そろそろ違う意味で疲れて来たから、さっさと森の中を抜けて――――って、どうしたんだ千絵?」
勘違いで抱き着いた千絵だが、太陽にしがみつきながらピクリとも動かない。
千絵はゆっくりと顔を上げ、にらへと不気味に笑い。
「……腰、抜かしちゃったみたい……」
まだ半分の地点にも到達していない肝試し。
先が思いやられると太陽は深いため息を漏らす。
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