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学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

合宿編12

「よっしゃあ! 大革命ッ! これでカードの強さは反転だ! だははははっ! ざまぁ見ろ圧制者が!」

「こんちくしょう! ふざけた事しやがって小鷹! 最後に強いカードで上がるっていう俺の野望が潰えたじゃねえか!」

 入浴、洗濯を終えて自由時間を過ごす太陽たちは部屋で大富豪をしていた。
 そして戦局は嘆く太陽が圧倒的フリとなり、カードの強さを反転させる革命をされた事で、手札が絵札以上しかない幸運ともいえる手札が最弱と化す。
 他のプレイヤーたちはある程度の弱いカードも手札に残していたのか、ドンドンカードを落していき、太陽がドベとなった。

 悔しさでカードが残る手を震えさせる太陽を煽る様に小鷹が笑い。

「はい、太陽の負けな! 事前に決めてた通り、ジュース宜しく! 俺スコールな」

「俺、コーラ」

「俺も同じく」

「僕は水をお願いします」

「自分は何かしらのスポーツドリンクで」

 大富豪でビリになった者が皆のジュースを買いに行く罰ゲームを決めていた。
 この罰ゲームを取り決めたのが太陽自身であり、まさか自分で自分の首を絞めるとは夢にも思ってなかった様子。
 下級生にもパシリ扱いされた事にこめかみを引くつかせる太陽だが、自分で決めたルールを反故出来る訳も無く、幸いにもお金は各々が払う事になっている為に、全員からお金を徴収する。

「はいはい。んじゃあ。買って来てやるから少し待ってろ」

 よろしくー! と見送られながら太陽は部屋を後にする。
 ロビーに通ずる廊下を歩き、角を曲がった後、部屋の方から忙しい声が聞こえたが、

「どうせあいつらで盛り上がってるんだろ」

 と、気にせずに自動販売機があるロビーへと向かう。
 
 就寝時間間近だからか、部員は各々の部屋に戻っている様子で、ロビーまでの廊下で人と鉢合わせることはなかった。
 ロビーに付いた太陽だが、ロビーには誰もおらず、その所為かロビーの電気は消されていた。
 
 非常灯の薄緑の光と、外の星と月の光、そして自動販売機の電源の光のみを頼りに太陽はロビーを歩く。
 自動販売機前に辿り着いた太陽は、頼まれたジュースを買おうと小銭を投入口に入れようとした時――――

「……ギターの音?」

 微かに聞こえるギターの音色に眼を聞こえた方へと向ける。
 自動販売機は左端の隅に設置されているが、ギターが聞こえた方角は逆方向の右側の端にあるソファがある談話スペース。
 こんな時間にギターの音と不可解に感じた太陽は聞こえた方へと近寄る。

 1歩1歩近づく事でギターの音が鮮明に聞こえ。
 そして背凭れが無駄に高いソファで姿が隠れていたその人物を発見する。

「……千絵か?」

「ん? あっ、太陽君。どうしたのここで?」

 ギターの音の正体は千絵で。
 千絵はソファに座りながらアコギを構えて演奏をしていたようだ。

「どうしたのってはこっちのセリフだ。お前こそなんでこんな所に……。てか、そのギターどうしたんだよ? お前そんな物持ってたのか?」

 この合宿所に来る際に千絵がギターを携えていた記憶がなかった。
 だが、千絵が持つのはそこそこ痛んでいるが紛れもないアコースティックギターだった。

「あーこれね。これは今日この施設の倉庫で見つけた物なんだ。多分レクリエーションとかで使用する為に置かれていたんだと思うけど。指の練習の為に少し使わせてもらっているんだ」

 千絵は2年から軽音部に所属をしている。担当はギター。
 だが、前に拝見した時はエレキギターだったが、指の練習と言っているから、あくまで指の練習でこのギターを使っているのだろうか。
 
「てか、練習は兎も角なんでこんな時間にしてるんだ?」

「本当は勉強前の気分転換で散歩してたんだけど、GW後の皆で合わせるんだけど、私は皆よりも下手だからね。歩いててそれを思い出して、先生に許可を貰って練習させてもらっているんだ」

 千絵は真面目故に過剰に物事を意識することがある。
 他の人の足を引っ張りたくない。他の人の迷惑になりたくない。
 
 前に動画サイトにアップされた千絵達軽音部の演奏を拝見した事がある太陽からすれば、確かに千絵の演奏はお粗末な物で、他の人たちよりも1歩も2歩も遅れていた。
 
「それで。どんな曲を演奏するんだ?」

「持ち曲は2曲なんだけど。1曲はカバーソング。もう1曲はオリジナル曲。オリジナルの方は同じ部の人が作曲してくれて、その楽譜を私たちに配ってくれているんだ」

「楽譜ったって。今のお前、それ持ってないよな?」

 見渡す限りに楽譜らしき紙類はない。
 千絵は答える様に己の指で頭を小突き。

「楽譜の内容の殆どは頭に入っているから見なくても分かるよ。けど、それに見合うだけの技術力がないから指が動かなくて上手く演奏は出来ないんだけど……」
 
 半笑いで自嘲する千絵だが、太陽からすればそれでも十分に凄い事だ。
 プロとかなれば平然とこなせられることかもしれないが、千絵はまだ始めて半年も経ってない素人同然である。
 技術は千絵の今後の努力次第になるが、改めて千絵の凄さを実感する太陽。

「なあ千絵。その曲のどっちかを、聞かせてくれないか?」

「え、別にいいけど。私は下手だから、笑ったら非情ひどいよ……」

「笑わねえよ。俺は絶対にな」

 ニシっと笑う太陽の笑顔に頬を赤くする千絵は口を尖らし。

「……分かった。太陽君のご期待に応えて、不肖高見沢千絵が、1曲演奏するよ。曲は……偶然にもこの光景に見合う曲だね」

 千絵が天井を仰ぎ、太陽も釣られて上を見る。
 ガラス張りの天蓋から降り注ぐ星空の輝き。
 今日は珍しく星が空を覆い、星の絨毯と見れる輝かしい空の許で、千絵は演奏する。

 本来千絵が使用する楽器はエレキギターでアコギと感触が異なるのだが、順応して千絵は優しい動作でギターの弦をピックで奏でる。
 千絵が演奏するのはカバーソング。
 太陽もこの曲を知っていて、確かにこの星空に似合う曲であった。

 所々覚束なく、時には失敗した部分もあるが、千絵は中断せず、最後まで完奏する。
 練習して尚、正直3流レベルの演奏だったが、太陽は千絵の演奏を称賛して小さな拍手を送る。

「十分凄かったぞ、千絵」

「お世辞をありがと太陽君。女性を褒めるってことを覚えたんだね」
 
 素直に受け取らない生意気な千絵の頭を、太陽はゴシゴシ掻き乱し。

「そうだな。どっかの誰かさんにデリカシーが無いって昔から怒られたりしたからな」

 どっかの誰かさんとは言わずもがな千絵である。
 千絵の教えって訳でもなく、太陽の称賛は心からなのだが。
 千絵は謙虚なのか、それとも他からの劣等感から表情を暗くして。

「私は他の人よりも下手だけど、それに比べて本当に光ちゃんは凄いよ。私と同時期に始めたのに、グングンと上達してさ……。もう、羨ましいを通り越して尊敬しちゃうよ。本当に光ちゃんは、私の憧れだな……」

 悲観的に語る千絵を励ますことは出来ない。
 生半可な励ましは相手を惨めにさせるだけ、だが、太陽は当初から気になった疑問を投げる。

「なあ千絵。前から気になったんだが、なんでお前はあいつを誘って軽音部に入ったんだ? 医学部を目指すお前が部活をするって。中学ではあまり部活に興味なかったのに、しかも2年から始めてよ」

 2年という中途半端な所から入部することに不思議な事ではない。
 だが、今まで部活にさして興味を示さなかった千絵が、いきなり部活に入った事に太陽は多少なりとも驚いていた。

「……もしかして、怪我をして消沈していたあいつを励ます為に……お前は」

 太陽が千絵に問う。
 千絵は一瞬目を逸らした後にクスッと笑い。

「そんなんじゃないよ。知ってる太陽君? 大学に進学する時は内申書ってのがあって、内申書は部活に所属と未所属でかなり待遇が変ったりする場合があるんだ。だから何かしらの部活をしたいなんて思ってたりはしたんだけど二の足を踏んじゃってね。運動系は鈍くさい私には不向きだし、なら文科系って言っても人見知りの私は入りづらいから。光ちゃんを誘ったのは近くに心許せる人が欲しかったからなんだ」

 楽観的に答える千絵だが、太陽は真剣な眼で彼女の心を見通した。

「……嘘だな」

 太陽のその一言に千絵は固まる。

「……なんでそう思ったの?」

 千絵の疑問に太陽は千絵の額を指で小突き。

「お前は気付いていないと思うが、お前は嘘を吐く時は必ず最初に目を逸らす癖があるんだよ。まあ、言っていることの殆どが嘘だってのはないと思うが。お前がそんな、人を巻き込んで自分の利益を得る様な事はしないってのは、昔からお前を知ってる俺が十分に理解しているからな?」

 太陽に小突かれた額を押さえる千絵は固まった顔で眼を見開いていた。
 そして徐々にその眼が下がり、ハハッ……軽く笑った千絵は降参とばかりに口端を上げ。

「やっぱり、幼馴染ってのは嫌だね。嘘も簡単に見破られるなんて……。うん、まあ、内申書の件は嘘じゃないけど。理由は先刻さっき太陽君が言った通り、私が軽音部に入ったのは、光ちゃんに何かしら熱中できる物を見つけて欲しいっていう、お節介からなんだ」

 千絵は抱えるギターをソファに置き、ソファの上で体育座りをする。
 
「小さい頃から陸上を頑張って来た光ちゃんは、足を壊してそれは本当に落ち込んでいた。怪我した後、表では笑顔を振る舞う光ちゃんだったけど、裏では泣いていた」

 太陽は光に振られてから極力彼女の情報を得ない様にしていた。
 だが、ずっと関係を続けて来た千絵は、太陽の知らない光を知っている。

「だから私は何かしら次の目標を見つけて貰おうって、先輩が優しそうで、部員数もあまり多くない軽音部に決めて、光ちゃんだけを入れる訳にはいかないから、私も入って一緒に見つけようと思った。友達として、光ちゃんを放っておくことは出来なかったから……」

 聞けば友情の美談に聞こえるが、千絵の声音がそれを否定しているかの様に感じた。
 眼を潤し、目尻に涙を溜める千絵が己の行動に疑問を持つ様に額に手を当てる。

「……けど、それは本当に良かったのか分からない。結局、光ちゃんに新しい目標を見つけられなくて、ただ他の人に迷惑を掛けない為に練習をこなしている。それどころか光ちゃんは……また自分を追い込もうとしている……」

 昔からの友達として何かを成そうとする心遣いを見せる千絵だが、彼女は自分の事を自嘲する。

「やっぱり、私の優しさはただのお節介で、ありがた迷惑なんだよね……。多分、光ちゃんは優しいから口に出さないだけで、私の事迷惑がっているかもしれない……」

 千絵は自身の不安を吐露する。
 千絵が恐れているのは友人からの拒絶。だが、友人がそれを隠して自分に接してくれているかもと思うと更に胸が痛い。
 太陽は何も言えずに口を閉じていると、千絵が太陽にその黒い潤んだ瞳で問う。

「ねえ太陽君……。嘘を吐かずに答えてね。中学の頃、私が太陽君にした助力は……お節介、だったかな……」

 震えた声で千絵が太陽に尋ねる。
 太陽は口を開けず思わず視線を逸らす。
 太陽はその問いにどう答えればいいのか悩んだ。
 多分、適当な嘘を言っても看過される。そうなれば千絵の心は深く傷つく。
 
 悩んだ。だが、それは少しの間だけ。太陽は何を口にすればいいのか直ぐに辿り着く。

「―――――あぁ、ぶっちゃけ言えば、迷惑だったな」

 太陽の返答に千絵は「そう……か」と分かっていたとばかりの辛さを押し殺した笑顔を見せ。

「ごめんね太陽君。今まで迷惑かけて……だから、もう私は―――――」

「だがな。だからどうした? それがお前だろ、千絵」

 千絵の言葉を遮り、彼女との顔の距離を縮める太陽は言葉を続けた。

「確かにお前の人の好さは時々うざく感じる。最初は俺は今の関係で良いとさえ思ってたのに、お前は俺とあいつが両想いだって分かり切って。お前は恋のキューピット役をしてくれた」

 中学の頃、学園のヒエラルキーの上に立つ光と、教室の陰で見知った者としか話さない太陽との間に見えない壁が存在した。
 太陽は人気者の光が自分と幼馴染だってのが光からすれば迷惑なのかもと思い、彼女との関係を断絶しようとしたこともある。
 だが、それを良しとせず、太陽の背中を押してくれたのが他でもない、親友の千絵だった。

「最終的には俺からお前に頼み込んだだろうが。俺の気持ちをあいつに伝えたいから、俺に力を貸してくれって。それにお前は頷いてくれた。正直、滅茶苦茶助かったんだぜ、あの頃は」

 今がどうであれ、太陽からすれば千絵無くして初恋が成就することはなかった。
 千絵は母親の様にお節介で色々と口出しするが、最後には良い事になる。太陽はそれを知っている。
 
「お前が自分の人の好さにどれだけお節介だと煩っていようが、お前はお前で良いと思うぜ。結局、長所も短所も紙一重。お前のお人よしが、良かったこともあれば、悪かった所もある。少なくとも俺は、お前のその優しさに救われた事もあるんだからよ。俺、お前のそのお人よしな所、結構好きだぜ」

 衒いのない純粋な太陽の笑顔に千絵は喜びで頬を緩まし、今度は嬉し涙で瞳を潤ます。
 そんな彼女の頭を太陽は優しく撫で。

「それに、あいつもお前の事を本当の親友だって思っている。あいつは少しでも嫌いな相手に良い顔はしねえからな。だから信じろ。あいつはお前の事を嫌っちゃいない。元カレだが、俺が保証してやるよ」

 自虐を交えて千絵を励ます。
 千絵の瞳からポタポタと膝に涙が落ち、1粒1粒が千絵の不安を落しているかの様に、次第に千絵の顔が明るくなり。

「ありがとう太陽君……本当に、ありがとう」

 そして千絵はいつもの笑顔を太陽に向けた。

 

 その後、涙が止まった千絵を見届けた後、太陽は本来の目的であるジュースを購入して部屋に戻る。
 1人残った千絵はソファに深く凭れ、ガラス張りの天蓋を仰ぎ、

「……ホント、太陽君って女たらしだよね。あれが素で出せるとか…………」

 千絵は先程の太陽の言葉を思い返して、くすっと笑う。
 
「やっぱり太陽君はカッコいいな……。昔から太陽君は私の文字通り、太陽そのもの」

 今は沈み、相反する月が天上に浮かぶ空に手を伸ばすが、届くはずもない。
 恐らく、この距離が自分と彼の距離なのではと思ってしまう程に。

「ねえどうして太陽君……。なんで太陽君は私に優しくするの……? 友達だから? 幼馴染だから? 私ね。太陽君の事が昔から好きなんだよ。なのに、あんなことされれば―――――諦めたくても諦められないじゃん……」

 大好きな人に励まされ、嬉しい反面、それに比例する様に胸を締め付けられる。
 
「太陽君が今でも光ちゃんの事が好きだって分かっている……。昔も今もずっと……。だから私は何度も太陽君を諦めようとした。なのに、諦めきれなかった……。だから、私は2人をくっつけて、太陽君の恋を成就させて、私自身で自分の恋に終止符を打とうとしたのに……」

 再びポタポタ落ちる千絵の涙。
 夜月の光に照らされる1人の少女の恋は未だに果てず続いていた。
 それはまるで呪いかの様に、千絵の心を蝕み、好きだからこそ友達でも一緒に居られて嬉しいとは逆に、好きなのに自らの恋が成就しない事が辛かった。

「ねえお願い太陽君……。私の気持ちに気づいて……。人に偉そうに言った割に、臆病な私のこの気持ちを……」

 声を押し殺して泣く千絵を慰める様に、夜の月は淡い光で彼女を包む。

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