学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

合宿編3

「はぁ……ほんと、あいつらと関わるとロクなことはねえよ……。まだ始まってもねえのにドッと疲れた……」

 指定された部屋に自分の荷物を運びこんだ太陽は、ドサッと無造作に鞄を床に投げて愚痴を零す。
 それを隣で聞いていた同じ部屋の信也は、ハハッと苦笑して。

「そういうなって、見てて俺は楽しかったけどな。それにしても太陽。お前、あいつと平然に話してたけど平気なのか?」

「は? なにが?」

 本当に分かってない様子で聞き返す太陽に「気づいてないのか……」と太陽に聞こえない程度に信也は呟く。

「まっ、そんな事はどうでもいいや。俺たちの仕事は雑用だ。早くジャージに着替えて玄関に行かねえとな」

 太陽がそう言うと2人は着て来た制服を脱ぎ出し、学校指定のジャージに着替え始めようとする。
 だが、シャツに手を付けた時に2人に声を掛けてくる人物が現れる。

「よっ。今回の合宿の助っ人サンキューな。確かA組の古坂とC組の新田だよな。俺は2年の小鷹隼人だクラスはD組、宜しく」

「「あぁ、宜しく」」

 初対面の相手でも物怖じしせずに接する小鷹隼人と名乗る部員に挨拶を返す太陽と信也。
 太陽と信也が泊まる部屋は6人部屋になっていて、2人の他に4人、陸上部員が宿泊する。
 その内の1人は目の前の小鷹で、他3人は1年が2人で2年が1人の構成になっている。

「一応他の奴も紹介しておくぜ。えっと、坊主眼鏡の奴が1年の永浜。この中で一番背が高い(185センチ)の奴が1年の長野。んで最後にワックスでガチガチにオールバックかましてる阿保な奴が2年の倉松だ。まっ、適当に覚えていてくれ」

「「「宜しく(です)」」」

「「よろしく」」

 合宿期間のルームメンバーの自己紹介が終わった所で小鷹が太陽に尋ねる。

「そう言えばお前たちって、渡口や晴峰となんか仲良さげだったけど、お前たちって2人とはどういう関係なんだ?」

 千絵が外されているが敢えて追及せずに太陽は答える。
 どうやら他の部員もその質問に興味津々に聞き耳を立てていた。

「別にお前たちが思っている様な関係じゃねえよ。渡口の場合は小、中が同じだけの腐れ縁。晴峰に関しては単なる清純系ドS女ってだけだ」

「渡口のは良く分かったが、晴峰のはなんなんだよ……。その、胸をドキドキさせる素晴らしい返答は」

 さらっと自分の性癖を暴露する小鷹だが、太陽はスルーする。
 あの2人の性格を知っている太陽だが、一応、あの2人は学校でも有名人。
   仲良くしている異性がいれば気になるのも当然だ。
 
「別に2人とは恋人、とかじゃないんだよな?」

「だから、あいつらとはそんな関係じゃないって言ってるだろ」

 苛立ち気に答える太陽だが、その隣の信也がボソッと呟く。

「少し前までは渡口とはそういうかんけぐっ」

 が、最後まで言わせず遮る様に信也の脇腹を肘で突く太陽。
 肘が肋骨の隙間にヒットしたのか呻き声を漏らしながら蹲る信也を部員たちは心配気な視線を向け。

「お、おい大丈夫かよ……。てか、今新田は何を言いかけてたんだ?」

「あぁー大丈夫だ。こいつは虚言癖があってな。所謂狼少年って奴だ、気にするな気にするな」

「おいコラ太陽! 何、人の嘘な風評被害を広めてるんだ! お前の方がよっぽど狼少年だろうが!」

 事実を無かった事にしようとする太陽にいきり立つ信也だが、太陽は特に気にも留めず。

「まあいいだろうがそんなこと。それよりも早く行かねえとまた鬼主将からどやされるぞ。俺たちは2回怒られてリーチだし、さっさと準備して行かねえとな」

「……この件、今日の消灯時間で決着付けるぞ」

「おっ、それなら恋バナしようぜ恋バナ! 皆で好きなの暴露大会だ!」

「「「「「却下!」」」」」

 太陽、信也のみならず他の部員までの一瞬に肩を落す小鷹を放っておいて、指定の時間に差し掛かりそうになり、太陽たちは急いで着替えて部屋を後にする。


 
 どうやら太陽たちが最後の班だったらしく、他の班は全員整列していた。
 一応はギリギリだが時間通りで怒られはしなかったが、最後に来た時の気まずさで悪い事してないのに申し訳ないと思ってしまうのが不思議だと太陽は思わざるをえない。
 小鷹達陸上部員は部員の許に、太陽と信也は助っ人組の列に並び始まるのを待つ。
 
 縦に並べられた列の前に女主将が2枚の紙を携えて立つ。

「ええー。顧問の代わりに私が今日のスケジュールを説明するぞ。午前中は基本的な基礎体力の強化。十分にアップを済ませた後に種目毎に分かれて各々の鍛えるべき部分を徹底的に鍛える。午後のメニューはその都度伝える」

 時刻は9時を過ぎた頃で午前はまだ3時間残ってる。
 その時間は基礎メニューで体力を鍛え、午後は技術面の向上を図るのだろう。
 部員には練習に集中して貰う。それが太陽たちが助っ人として参加した名義である。
 だが、そんな太陽たちはどんな事をさせらるのかまだ知らされてない。

「部員の奴らのメニューは以上だが、助っ人の人たちにはこの紙に書かれた事を実行してほしい。渡口取りに来てくれ」

 はいと返事をして光は主将の許に太陽たちにやってほしい項目が記された紙を受け取る。
 光が一枚の紙を受け取ると女主将は口角を上げて。

「楽しみにしてるぞ♪」

 何を楽しみにされてるのだろう?と光は訝し気に首を傾げながら列に戻る。

「今のってどういう意味なんだ?」

「さあ?」
 
 信也の疑問に光も答えられずに更にはてなを浮かばす。
 そして助っ人である太陽、信也、光、千絵の4人は渡された紙に目を通し――――――ピシャと固まる。

「…………おいおいおいおーい! これ何の冗談!? こんなの聞いてねえぞ!? てか、マジでこれをするのか!? ドッキリでしたってオチだよな、そうだろ!?」

「太陽君一旦落ち着こう。気持ちは分かる。けど、現実逃避しても現実は変わらないから」

「雑に扱わないって言ってたけど、これ詐欺だろ……」

「……そうだね、これはヒドイ……」

 4人が各々の反応を示させた項目の内容が、

「なんでだよ! 俺の想定していた雑用って、スポーツドリンクを作ったり、タオルを用意したり、グラウンド整備をしたりとかだぞ。これ、完全に使用人のする事じゃねえか! なんで俺たちがよ!」

「それだけじゃねえぞ太陽。風呂掃除も書いてある。確かここの風呂って大浴場でめちゃくちゃ広かったんじゃねえか……?」

「お風呂掃除は何とかなる……けど料理は、陸上部員の参加人数は40人、コーチや顧問、私たちの分も入れると相当な量になるよね……。ねえ、これって本当に私たち素人がしていい事なのかな!?」

「もしかしてマネージャーって事前にこの内容を伝えられていて、無理だって判断したから仮病した……ってことはないよね……?」

 光の疑問に反論出来なく3人は口を閉ざす。

「……うん、まあ……ここでウジウジ言ってても仕方ないし、出来る限りの事はしないとね……」

 予想していた以上の過酷な労働に現実を直視しない様にしていたが、千絵の言葉に他の者たちは力なく頷くのだった。

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