学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

合宿編1

「いやー。本当に良かったですよ。折角のGW期間での合宿だって言うのに、陸上部のマネージャーが全員風邪を惹くなんて……こんな偶然普通ありえますか? 何かしらの陰謀を感じますね……」

 馬鹿な事を言いながら、太陽の後ろの座席からひょっこりと顔を出す御影。
 太陽はイライラで指でひじ掛けを突きながら、顔だけ御影の方に振り返らせ。

「つか。マネージャー全員が風邪ってのは分かったが、なんで部外者の俺たちがマネージャーの代わりなんだ? 普通、こういう場合ってのは低学年の奴らにさせるもんじゃねえのかよ」

 今更ついて来ての質問。
 昨日の昼に突然の御影からの頼みで、一度暇と言った手前に引き受けた太陽だが、納得している訳ではなかった。

「普通はそうなんですが。今年は1年も、2年も関係なく、全員一丸で優勝を目指すって話らしくて。全学年のスキルアップを目的にした合宿でもありますから、なるべく雑用とかで時間を使わせたくないらしいです」
 
 なるほどね、とひじ掛けで頬杖を突く太陽。
 だが、そんな大事な合宿前にマネージャー全員が風邪を惹くとは、マネージャーたちの健康管理はどうなってるんだと呆れ返る。

「大体理由は分かった。てか、代行で来たのって俺たちだけなのか?」

 マネージャー全滅で代わりに来れたのが、確認出来るだけで、太陽、信也、光、千絵の4人。
 光と千絵は分からないが、太陽は御影に誘われ、信也は太陽の道連れに近い形で同行。
 だが、自分たちの助っ人の者たちは他には見受けられない。
 太陽の質問に御影は頷き。

「そうですね。今回来て下さったのは古坂さんたちだけです。私みたいに他の人たちも沢山の人に声をかけたらしいですが、3年生の受験勉強の講習で無理らしく、1、2年生は……うん、まあ、気持ちは分かりますが、大型連休を優先したみたいです」

 それもそうだと太陽は首肯する。
 学校の部活の手伝いは基本的にはボランティア。アルバイトみたいに給料が出る訳ではい。
 なのに、折角の大型連休を慈善活動で費やしたくないという気持ちは十分に分かる。
 
 ここで静聴していた光が割って入り。

「私は元々は陸上部だったから、困っているなら手を貸すって事で来たんだけど。ごめんね、千絵ちゃん。千絵ちゃんは講習とか勉強をしたかったんじゃないかとは思ったんだけど……」

「そう言えばそうだ。高見沢って勉強勉強で、こういったイベント事に参加しないと思ってたけど、まさか来るとはな?」

 光が陸上部に手を貸す理由は大体察していた。
 が、光なら兎も角、連休であろうと勉強に熱心に取り組むであろう千絵がこの合宿に参加した事は内心太陽も驚いていた。その太陽の気持ちを代弁する様に信也が千絵に尋ねると、千絵は半眼で全員を睨み。

「なーんか。私を勉強に憑りつかれた勉強馬鹿って思ってない? 私だって困っている人がいるなら手を貸すぐらいの慈善な心はあるよ。それに、勉強なら何処でも出来るから。ちゃーんと、勉強道具も持ってきたしね」

 ほら、と千絵は持参した大き目な鞄を開いて、大量に入った参考書や勉強道具を見せる。
 この時太陽は見逃さなかった。
 パンパンに膨れた千絵の鞄の中、勉強道具を見せた時に、それ以上の大量の菓子類が見えた事を。

 一々追及する意味もないから流すが、太陽は千絵の健康管理はしっかりしているのか気になる。
 菓子の大量摂取に勉強での睡眠不足。医者を目指す者ならしっかりしてほしいと呆れるだけだった。

「私と光ちゃんはこんな理由だけど、それよりも私は太陽君と新田君の方が合宿に参加する方が驚いたよ。2人って、陸上部になんか関係あったっけ?」

 光と千絵が合宿に参加した経緯は分かり、今度は太陽、信也のターンに回る。
 信也は座席に深く凭れ掛かり、呆れた顔で太陽を見て。

「俺の場合は太陽こいつに道連れにされたんだがな。まあ、どうせGW期間は用事が無くて暇だったし、旅行感覚で参加させて貰ったよ」

 それでも半ば強制的に太陽に参加させられた事を恨めしく思うような目で太陽を睨む信也。
 信也の参加理由を聞いた所で、各々が次は太陽の方へと視線を向けられる。
 
「太陽君は?」

 先導して千絵が尋ねる。
 バツの悪そうな表情で後ろ髪を掻く太陽は答える。

「俺の場合は晴峰に誘われたからだよ。昨日突然に、陸上部の合宿に参加しませんか?ってな」

「晴峰さんが?」

 訝し気な顔で千絵が晴峰の方に目線を向け、晴峰も頷き。

「私はこっちに引っ越して来て知人とかあまり知らないですから。古坂さんには知らない土地で初めて親切にしてくれた方ですし、古坂さんなら困り事に手を貸してくれるかと思いまして。そして、私の予想通りに、古坂さんは嫌な顔せず(携帯越しだから知りませんが(小声))承諾してくれました」

「何それっぽく嘘吐いてるんだおい! お前がしつこく、

『暇なんですよね? 先ほど暇だって言いましたよね? でしたら、断る理由はないですよね? 大丈夫です! 絶対に楽しいですから! 先輩方達も助っ人を雑に扱わないと言ってますし、一度しかない今年のGW、楽しい思い出を作りましょう!』

 って言って食い下がらねえから、仕方なく折れたんだろうが!」

「それに嫌な顔って、俺その現場にいたが、太陽、物凄く嫌な顔してたな……」

 合宿に誘われた際の御影の強引さに、もし彼女がセールスマンになったら顧客はうんざりするだろうなと思わざる得なかった。
 
「まあ、それでも参加してくれて感謝感謝です♪ 古坂さんだけでなく、高見沢さんに渡口さん……えっと」

「そう言えば名前言ってなかったな。俺は新田信也。あぁ、あんたの紹介はしなくていいぜ、学校でお前の名前を知らない奴なんていないから、宜しく晴峰」

「宜しくです新田さん。そして皆さん、本当にありがとうございます。陸上部を代表して感謝の意を込めます」

「……転校して来て数日の奴が代表って……流石期待の転校生ってことか」

 小声で呆れる太陽だが、まだ腑に落ちない様子で御影に尋ねる。

「つかよ晴峰。お前、先刻さっき俺以外の知人は少ないって言ってたけど、お前、学校だと案外有名人だし、他の奴にも連絡出来る相手はいるだろ?」

「はい。先ほど嘘を吐きましたが、古坂さん以外にも何人かの陸上部外の方の連絡先は持っています。ですが、私が白羽の矢を立てたのは、古坂さんだけです」

「俺だけ? なんで?」

 聞き返す太陽に御影は頬を赤めらして。

「……それは言いたくありません」

 何とも恥ずかし気な初々しい返答に太陽はドキッとする。

「い、いや、何しおらしくなってるんだよ、お、俺は別に気にしないから言ってくれ」

 心臓の鼓動が早くなるのを感じながらしつこく迫る太陽。
 隣に元カノや親友が居ようと再来する予感のある春を見逃すつもりはない。
 
「それでも恥ずかしいです……それに、他の方にも聞かれるのは……」

「いや、別に大丈夫だって。なんかここで聞かないと不完全燃焼って言うか、モヤモヤとして気持ちが残るからさ」

 食い下がらない太陽に観念したのか、御影は息を吐き。

「分かりました。私が古坂さんを誘った本当の理由、教えます」

 息を吸っては吐きを繰り返し、気持ちを整えた御影は真剣な表情で太陽の顔を見据え―――――たかと思えば、茶目っ気に舌を出し、コツンと自分の頭を叩き。

「他の方は迷惑かと思いまして。どうせ古坂さんなら無謀にも女性のお尻を追って時間を無駄にするかと思ったので、それなら青春を謳歌させようかと思いました」

「スミマセン! ここで下車したいんで停まってくれませんか!」

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