学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ
期待の転校生
全国レベルの最有力の陸上選手が転校して来たと言う話題の炎は、火事の如くの勢いで広がり、瞬く間に学校中でその話が持ち切りである。
正門で太陽からすれば思いがけない再会。
理由は、太陽はスポーツ科のある私立の高校に通うと勝手に思い込んでいたから。
だが、彼女はこの学校に転校して来た。
クラスは違ったが、晴峰御影の転校初日の放課後、多数の生徒たちが陸上部の練習場に押し寄せていた。
生徒たちの目的は勿論、今日転校して来た転校生。
御影が転校して来てから太陽は知ったが。
彼女は去年の内に天才陸上選手として、世界陸上に選抜された元陸上選手の2世としても大きく注目され、テレビにも幾度か出演したらしく。
太陽は一昨年に陸上大会で会っていたから知っていたが、生徒の多くが彼女の事を認知していた事に少なからず御影に尊敬の念が生まれる。
さながらスーパースターが来たかの様な大騒ぎ、実際は今年はわが校の陸上部が全国大会に出場できるのではという大きな期待を持たれているのは確かであろう。
そして今は部活開始時刻。
いつもは居ないのだが、初日と言うことで多数の生徒たちが部活棟一階の陸上部の前に集まっていた。
太陽もその一人だが、転校生を一目って言うよりも、他の人たちが集まっているっていう野次馬精神に近い。
陸上部の部室の扉は開かれ、練習開始と陸上部員たちが続々と部室から出てくる。
この学校の陸上部も県でそこそこの成績を残す面々が集うが、皆の目的の人物は最後尾にて姿を見せた。
晴峰御影。
太陽の調べでは、彼女は去年の全国大会でも好成績を残してたと聞く。
実力は有力者とし申し分ない上に、顔立ちも良く、スタイルもスラっとしたモデル体型。
無駄な筋肉、脂肪が切り落とらされたかの様な引き締まった筋肉。
その肉体から彼女がどれだけの練習を重ねてきたのかヒシヒシと伝わる。
御影が部室から出るとおぉーと周りの生徒たちから小さな歓声が漏れる。
背中まで伸びた黒髪を風で靡かせながら、その手には後に結うのかヘアゴムが握られており。
御影は、ん?と道の様に連なる生徒たちの自分に集まる視線に気づくと、目を瞬かせた後、小さく一礼して。
「え、えっと……は、初めまして、晴峰御影です。皆さん、宜しくお願いします」
多数の生徒に驚きながらもはにかんだ表情で手を振る御影。
その可愛らしい仕草から生徒、主に男子から黄色い歓声が飛ばされる。
テレビや全国大会に出るからと言って、彼女は芸能人ではない。
だからか、自分目的の生徒たちにどんな反応をすればいいのか戸惑いを見せる。
だが、その態度と可愛い顔で男子生徒の心は鷲掴みされたかもしれない。
そして先頭を歩いていた、多分陸上部の主将らしき女性が振り返り。
「よし! 折角ここに見物人が沢山いるから、晴峰! ここでいっちょ部活初日の意気込みを言え!」
「ええ!? 主将、何言ってるんですか!? さっき部室で自己紹介の時言ったじゃないですか!?」
唐突な主将からの無茶ぶりに速足で主将に詰め寄る御影。
だが、御影の発言は暖簾に腕押しなのか、女主将はケラケラと軽薄そうに笑い。
「いいじゃないか! ここにいる奴らは折角お前目的で来てくれたんだからさ。期待の新人から意思表明がないままじゃガッカリするだろ」
主将は御影の背中をバチンと響きの良い音を叩いて鳴らし、殆ど強要に近い感じで促す。
当の御影は「うぅ……パワハラだ……」とシクシクと嘆いていた。
そんなやり取りに生徒たちはドッと笑いを起こし、そんな中ある生徒が笑いながら口にする。
「出たよ。主将の無茶ぶり。あぁやって部員を困らせるよな」
「だな。だけど主将があぁ言うのって、大体そいつに期待しているっていう現れらしいけどな」
「確か前は……渡口だったか? 皆の前で抱負を言わされたのって?」
その人物の名が聞こえた時、太陽は眉を顰める。
あの時もだ。
去年、この陸上部には期待の新星が入部した。
今みたいに期待の新入部員として多数の生徒たちがある人物を目的に集まっていた。
中学全国大会で優勝経験を持つ鹿原中学出身、渡口光。
推薦でもなく、特待でもない。
本人自らの意向で一般入試で入学して来てくれた事は、この学校にとっては喜ばしい事だっただろう。
—―――――だが彼女は、多くの期待を向けられたにも関わらずに、半年も持たずに部を去って行った。
「けど確か、あいつは辞めたんだよな? 去年の夏に」
「あぁ。確か怪我だってな」
「怪我かぁ……。周りは期待していたんだけどな……怪我なら仕方ねぇか」
「そうだな」
と今更特に興味ないと言わんばかりの口ぶりの生徒たちはここで一旦口を閉じた。
太陽が光の話題を口にする生徒たちに傾聴している間に、台詞が纏まったのか、御影はグッと胸の前で拳を作り。
「先ほども言いましたが改めて。今日からこの学校に転校しました、晴峰御影です。ご存知の通り、陸上部に入部します。皆さんの態度から、恐らく、少なからず私の事を知っていると思います————が、一つだけ言っておきます」
御影の鋭い瞳から放たれる眼光に生徒たちは息を呑むように押し黙る。
そして御影は宣誓する。
「私がこれまでどうだったのか、ここでは関係ありません。私は過去の栄華に縋る気も、振りかざすつもりもありません。ですから皆さんには、今までの私ではなくて、これからの私を評価してほしいです。そして必ず、この学校を全国大会に連れて—————」
「はーい。練習開始するぞー」
「「「「「「「「おぉおおー」」」」」」」」」
「―――――――えぇ!? 皆さん!? 私、今凄く恰好付けた事言ってる最中なんですが!」
主将の抜けた声に遮られ御影の宣誓は中断。
御影を置いて練習場に向かおうとする部員たちに、涙目で御影が手を伸ばすと部員たちは振り返り。
「冗談冗談。いやー。予想以上の白熱した演説するもんだから、さ」
「凄く出鼻を挫かれた気分! もう少しで泣いて拗ねるところでした!」
憤慨する御影に女主将は流す様な笑いで彼女の肩を叩き。
「怒るな怒るな。それじゃあ練習始めようか」
寸劇とも思えるやり取り終え、遂に陸上部の練習が始まろうとした。
「まったく……」と御影はため息を零しながら歩きだそうとすると—————
「うわっ!」
突然と目線が下に下がり、顔と地面の距離が一気に縮まり、顔面を地面へと直撃する。
そう、つまりは転んだのだ。
「……大丈夫か?」
いきなり転んだ御影に安否の声をかける女主将に、御影は砂の付いた顔を上げ。
「はい……大丈夫です」
答えながら御影は立ち上がり、パンパンと顔と練習着に付いた砂を払い。
「驚きました。何かにつまずいたんですかね?」
御影が自分が転んだ事を推測するが、女主将は苦い顔を浮かばせ。
「私から見て、地面に石や凸凹がないが……。お前、何もない所で転んだんじゃないか?」
へ? と御影は自分が転んだ地面に視線を落とす。
他の者もそちらに視線を向けるが。女主将の供述通り、確かに地面に転ばす様な障害物も、盛り上がったり盛り下がったりとした凸凹は見受けられなかった。
御影はその事を飲み込むと喉から顔のてっぺんまで紅葉の様に真っ赤に染め。
「は、ははははっ。わ、私またやったみたいです。そ、それじゃあ私新入りですから、練習器具とか準備して来まーす!」
「お、おい。準備は下級生が—————」
女主将の制止を聞かず、とてつもない速度でその場を離れる御影。
太陽は先日の御影の発言を思い出す。
『私って……早とちりもですけど、そこそこドジで……今はそこまでないですが、昔は外に出れば怪我をする程だったから、母親が外出の際は絆創膏を持たせてくれて……』
御影は自分でドジだと自覚をしていた。
自分のドジっぷりで怪我をしていたと。
恐らく、今のは御影の言うドジなのだろうが、まさか何もない所で転ぶという、漫画で良くあるドジ属性を生で見れるとは思わなかった。
しかも—————
「晴峰、倉庫がどこにあるのか知っているのか?」
女主将がそんな心配要素も口にしていた。
そして案の定、1分後には再び顔を真っ赤にした御影が全速力で帰って来るのだった。
正門で太陽からすれば思いがけない再会。
理由は、太陽はスポーツ科のある私立の高校に通うと勝手に思い込んでいたから。
だが、彼女はこの学校に転校して来た。
クラスは違ったが、晴峰御影の転校初日の放課後、多数の生徒たちが陸上部の練習場に押し寄せていた。
生徒たちの目的は勿論、今日転校して来た転校生。
御影が転校して来てから太陽は知ったが。
彼女は去年の内に天才陸上選手として、世界陸上に選抜された元陸上選手の2世としても大きく注目され、テレビにも幾度か出演したらしく。
太陽は一昨年に陸上大会で会っていたから知っていたが、生徒の多くが彼女の事を認知していた事に少なからず御影に尊敬の念が生まれる。
さながらスーパースターが来たかの様な大騒ぎ、実際は今年はわが校の陸上部が全国大会に出場できるのではという大きな期待を持たれているのは確かであろう。
そして今は部活開始時刻。
いつもは居ないのだが、初日と言うことで多数の生徒たちが部活棟一階の陸上部の前に集まっていた。
太陽もその一人だが、転校生を一目って言うよりも、他の人たちが集まっているっていう野次馬精神に近い。
陸上部の部室の扉は開かれ、練習開始と陸上部員たちが続々と部室から出てくる。
この学校の陸上部も県でそこそこの成績を残す面々が集うが、皆の目的の人物は最後尾にて姿を見せた。
晴峰御影。
太陽の調べでは、彼女は去年の全国大会でも好成績を残してたと聞く。
実力は有力者とし申し分ない上に、顔立ちも良く、スタイルもスラっとしたモデル体型。
無駄な筋肉、脂肪が切り落とらされたかの様な引き締まった筋肉。
その肉体から彼女がどれだけの練習を重ねてきたのかヒシヒシと伝わる。
御影が部室から出るとおぉーと周りの生徒たちから小さな歓声が漏れる。
背中まで伸びた黒髪を風で靡かせながら、その手には後に結うのかヘアゴムが握られており。
御影は、ん?と道の様に連なる生徒たちの自分に集まる視線に気づくと、目を瞬かせた後、小さく一礼して。
「え、えっと……は、初めまして、晴峰御影です。皆さん、宜しくお願いします」
多数の生徒に驚きながらもはにかんだ表情で手を振る御影。
その可愛らしい仕草から生徒、主に男子から黄色い歓声が飛ばされる。
テレビや全国大会に出るからと言って、彼女は芸能人ではない。
だからか、自分目的の生徒たちにどんな反応をすればいいのか戸惑いを見せる。
だが、その態度と可愛い顔で男子生徒の心は鷲掴みされたかもしれない。
そして先頭を歩いていた、多分陸上部の主将らしき女性が振り返り。
「よし! 折角ここに見物人が沢山いるから、晴峰! ここでいっちょ部活初日の意気込みを言え!」
「ええ!? 主将、何言ってるんですか!? さっき部室で自己紹介の時言ったじゃないですか!?」
唐突な主将からの無茶ぶりに速足で主将に詰め寄る御影。
だが、御影の発言は暖簾に腕押しなのか、女主将はケラケラと軽薄そうに笑い。
「いいじゃないか! ここにいる奴らは折角お前目的で来てくれたんだからさ。期待の新人から意思表明がないままじゃガッカリするだろ」
主将は御影の背中をバチンと響きの良い音を叩いて鳴らし、殆ど強要に近い感じで促す。
当の御影は「うぅ……パワハラだ……」とシクシクと嘆いていた。
そんなやり取りに生徒たちはドッと笑いを起こし、そんな中ある生徒が笑いながら口にする。
「出たよ。主将の無茶ぶり。あぁやって部員を困らせるよな」
「だな。だけど主将があぁ言うのって、大体そいつに期待しているっていう現れらしいけどな」
「確か前は……渡口だったか? 皆の前で抱負を言わされたのって?」
その人物の名が聞こえた時、太陽は眉を顰める。
あの時もだ。
去年、この陸上部には期待の新星が入部した。
今みたいに期待の新入部員として多数の生徒たちがある人物を目的に集まっていた。
中学全国大会で優勝経験を持つ鹿原中学出身、渡口光。
推薦でもなく、特待でもない。
本人自らの意向で一般入試で入学して来てくれた事は、この学校にとっては喜ばしい事だっただろう。
—―――――だが彼女は、多くの期待を向けられたにも関わらずに、半年も持たずに部を去って行った。
「けど確か、あいつは辞めたんだよな? 去年の夏に」
「あぁ。確か怪我だってな」
「怪我かぁ……。周りは期待していたんだけどな……怪我なら仕方ねぇか」
「そうだな」
と今更特に興味ないと言わんばかりの口ぶりの生徒たちはここで一旦口を閉じた。
太陽が光の話題を口にする生徒たちに傾聴している間に、台詞が纏まったのか、御影はグッと胸の前で拳を作り。
「先ほども言いましたが改めて。今日からこの学校に転校しました、晴峰御影です。ご存知の通り、陸上部に入部します。皆さんの態度から、恐らく、少なからず私の事を知っていると思います————が、一つだけ言っておきます」
御影の鋭い瞳から放たれる眼光に生徒たちは息を呑むように押し黙る。
そして御影は宣誓する。
「私がこれまでどうだったのか、ここでは関係ありません。私は過去の栄華に縋る気も、振りかざすつもりもありません。ですから皆さんには、今までの私ではなくて、これからの私を評価してほしいです。そして必ず、この学校を全国大会に連れて—————」
「はーい。練習開始するぞー」
「「「「「「「「おぉおおー」」」」」」」」」
「―――――――えぇ!? 皆さん!? 私、今凄く恰好付けた事言ってる最中なんですが!」
主将の抜けた声に遮られ御影の宣誓は中断。
御影を置いて練習場に向かおうとする部員たちに、涙目で御影が手を伸ばすと部員たちは振り返り。
「冗談冗談。いやー。予想以上の白熱した演説するもんだから、さ」
「凄く出鼻を挫かれた気分! もう少しで泣いて拗ねるところでした!」
憤慨する御影に女主将は流す様な笑いで彼女の肩を叩き。
「怒るな怒るな。それじゃあ練習始めようか」
寸劇とも思えるやり取り終え、遂に陸上部の練習が始まろうとした。
「まったく……」と御影はため息を零しながら歩きだそうとすると—————
「うわっ!」
突然と目線が下に下がり、顔と地面の距離が一気に縮まり、顔面を地面へと直撃する。
そう、つまりは転んだのだ。
「……大丈夫か?」
いきなり転んだ御影に安否の声をかける女主将に、御影は砂の付いた顔を上げ。
「はい……大丈夫です」
答えながら御影は立ち上がり、パンパンと顔と練習着に付いた砂を払い。
「驚きました。何かにつまずいたんですかね?」
御影が自分が転んだ事を推測するが、女主将は苦い顔を浮かばせ。
「私から見て、地面に石や凸凹がないが……。お前、何もない所で転んだんじゃないか?」
へ? と御影は自分が転んだ地面に視線を落とす。
他の者もそちらに視線を向けるが。女主将の供述通り、確かに地面に転ばす様な障害物も、盛り上がったり盛り下がったりとした凸凹は見受けられなかった。
御影はその事を飲み込むと喉から顔のてっぺんまで紅葉の様に真っ赤に染め。
「は、ははははっ。わ、私またやったみたいです。そ、それじゃあ私新入りですから、練習器具とか準備して来まーす!」
「お、おい。準備は下級生が—————」
女主将の制止を聞かず、とてつもない速度でその場を離れる御影。
太陽は先日の御影の発言を思い出す。
『私って……早とちりもですけど、そこそこドジで……今はそこまでないですが、昔は外に出れば怪我をする程だったから、母親が外出の際は絆創膏を持たせてくれて……』
御影は自分でドジだと自覚をしていた。
自分のドジっぷりで怪我をしていたと。
恐らく、今のは御影の言うドジなのだろうが、まさか何もない所で転ぶという、漫画で良くあるドジ属性を生で見れるとは思わなかった。
しかも—————
「晴峰、倉庫がどこにあるのか知っているのか?」
女主将がそんな心配要素も口にしていた。
そして案の定、1分後には再び顔を真っ赤にした御影が全速力で帰って来るのだった。
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