ATM~それが私の生きる意味~
クロナの謎
その夜、恵未はベッドで横になりながら悩んでいた。
「……」
あのクロナという少女の言葉が、ずっと脳裏に焼き付いていた。
今まで自分は、本気でアイドルになりたいと思ったことはなかった。幸香と一緒にアイドルをやっていたときは、ただ単純に楽しかったからだけだった。アマチュアだったということも、その楽しさを後押ししていた。
幸香が芸能界デビューしてからは、アイドルとしての活動はやめていた。幸香とアイドルをやらないのであれば、アイドルをやっている意味も理由もないからだ。
だが、今にして思えばアイドルへの未練があったのかもしれない。そうでなければ、今これほど悩んでいるはずがないのだから。
「ふう……」
悩んでも尽きないので、気分転換にテレビでも見ることにした。
恵未がリビングに向かうと、神妙な面持ちでテレビを見ている父親の姿があった。
「お父さん、そんな顔してどうしたの?」
「ああ、恵未か。ちょっとな」
恵未がテレビに顔を向けると、そこにはクロナに似た少女の姿が写っていた。
「あれ、この子……」
「今日見た少女に似ているだろ? あの子を見たときから、彼女に似ているなって思ってたんだ」
「この人は誰なの?」
恵未が何の気もなく質問すると、DJタクこと琢磨は目を伏せながら答えた。
「彼女は中野日美子。約20年前に新人アイドルとして活動していた少女だ」
「20年前の人なんだ。この頃からこんなに容姿いいんだし、今は相当な美人になってるんでしょ?」
「なっていただろうな」
父親のその言葉から、恵未は察することができた。
「彼女はもうこの世にはいない。アイドルとしてデビューする前に事故で亡くなってしまったんだ。事務所にも周囲の人間からも期待されていた。今でこそトップアイドルとして輝いている木場綾女も、彼女とは親友といっていいほど仲が良く、共に慕っていた」
「そんなことがあったんだ……」
となると、疑問が頭に浮かぶ。
「なら、この人とクロナって子が似てるのはなんでなの?他人の空似とは思えないほど似てるよ、この二人」
「それが気になっているんだ。日美子が存命していたら、彼女の娘ってことで話はつくが、彼女が亡くなったのは16歳だったから、それもあり得ない。このことから血縁関係はあるにしても直接つながりはないと思うんだが、あまりにも瓜二つなのがどうも引っかかる」
クロナと中野日美子は、間違い探しとして成立するほど、よく似ている。何も知らない人から見れば、彼女たちは姉妹か何かに見られるだろう。
「俺がお前とあの子を合わせたのも、あの子には何かがあると思ったからだ。お前も、少なからずあの子から何かしらの影響を受けているんだろう?」
「……まあ」
「だったら、あの子と一緒にアイドルをやってみたらどうだ?」
「そんな単純簡単に言わないでよ」
恵未は苦い顔をする。
「お父さんはわかってるでしょ? 私がアイドルをやめたのは幸香のことだけじゃないってのは。だって私は……」
「もちろんだ」
琢磨は立ち上がり、恵未に向き合った。
「だが、俺はアイドルとして輝くお前を見てみたい。父親としてな。だから無理はしない範囲でアイドルをやってみたらいい。ダメだったら、またいつでも戻ってくればいいんだから」
「そんな簡単にやめていいの?」
「大丈夫だよ」
琢磨は懐から名刺を取り出した。
「あの子と一緒に来ていた青年から、この名刺をもらったんだ」
「それで何で大丈夫なの?」
「彼女たちはHNプロダクション所属のアイドルらしい。この事務所の社長と俺は知り合いなんでな。いろいろと融通がきくぞ」
「へー、お父さんコネを持ってるんだ」
意外なつながりに、恵未は驚いていた。
「これでも昔は名の知れたDJだったんだからな。音楽業界にはいろいろと顔がきくよ」
「そう」
「だから、もう一度チャレンジしてみろよ。社長には俺から話しておくからさ」
「……考えるよ」
そう言って恵未は自室に戻った。
「……」
あのクロナという少女の言葉が、ずっと脳裏に焼き付いていた。
今まで自分は、本気でアイドルになりたいと思ったことはなかった。幸香と一緒にアイドルをやっていたときは、ただ単純に楽しかったからだけだった。アマチュアだったということも、その楽しさを後押ししていた。
幸香が芸能界デビューしてからは、アイドルとしての活動はやめていた。幸香とアイドルをやらないのであれば、アイドルをやっている意味も理由もないからだ。
だが、今にして思えばアイドルへの未練があったのかもしれない。そうでなければ、今これほど悩んでいるはずがないのだから。
「ふう……」
悩んでも尽きないので、気分転換にテレビでも見ることにした。
恵未がリビングに向かうと、神妙な面持ちでテレビを見ている父親の姿があった。
「お父さん、そんな顔してどうしたの?」
「ああ、恵未か。ちょっとな」
恵未がテレビに顔を向けると、そこにはクロナに似た少女の姿が写っていた。
「あれ、この子……」
「今日見た少女に似ているだろ? あの子を見たときから、彼女に似ているなって思ってたんだ」
「この人は誰なの?」
恵未が何の気もなく質問すると、DJタクこと琢磨は目を伏せながら答えた。
「彼女は中野日美子。約20年前に新人アイドルとして活動していた少女だ」
「20年前の人なんだ。この頃からこんなに容姿いいんだし、今は相当な美人になってるんでしょ?」
「なっていただろうな」
父親のその言葉から、恵未は察することができた。
「彼女はもうこの世にはいない。アイドルとしてデビューする前に事故で亡くなってしまったんだ。事務所にも周囲の人間からも期待されていた。今でこそトップアイドルとして輝いている木場綾女も、彼女とは親友といっていいほど仲が良く、共に慕っていた」
「そんなことがあったんだ……」
となると、疑問が頭に浮かぶ。
「なら、この人とクロナって子が似てるのはなんでなの?他人の空似とは思えないほど似てるよ、この二人」
「それが気になっているんだ。日美子が存命していたら、彼女の娘ってことで話はつくが、彼女が亡くなったのは16歳だったから、それもあり得ない。このことから血縁関係はあるにしても直接つながりはないと思うんだが、あまりにも瓜二つなのがどうも引っかかる」
クロナと中野日美子は、間違い探しとして成立するほど、よく似ている。何も知らない人から見れば、彼女たちは姉妹か何かに見られるだろう。
「俺がお前とあの子を合わせたのも、あの子には何かがあると思ったからだ。お前も、少なからずあの子から何かしらの影響を受けているんだろう?」
「……まあ」
「だったら、あの子と一緒にアイドルをやってみたらどうだ?」
「そんな単純簡単に言わないでよ」
恵未は苦い顔をする。
「お父さんはわかってるでしょ? 私がアイドルをやめたのは幸香のことだけじゃないってのは。だって私は……」
「もちろんだ」
琢磨は立ち上がり、恵未に向き合った。
「だが、俺はアイドルとして輝くお前を見てみたい。父親としてな。だから無理はしない範囲でアイドルをやってみたらいい。ダメだったら、またいつでも戻ってくればいいんだから」
「そんな簡単にやめていいの?」
「大丈夫だよ」
琢磨は懐から名刺を取り出した。
「あの子と一緒に来ていた青年から、この名刺をもらったんだ」
「それで何で大丈夫なの?」
「彼女たちはHNプロダクション所属のアイドルらしい。この事務所の社長と俺は知り合いなんでな。いろいろと融通がきくぞ」
「へー、お父さんコネを持ってるんだ」
意外なつながりに、恵未は驚いていた。
「これでも昔は名の知れたDJだったんだからな。音楽業界にはいろいろと顔がきくよ」
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