ATM~それが私の生きる意味~
山内恵未
「今日はDJタクのライブを皆で見に行こう!」
信二の提案で、信二、クロナ、彩希、時雨の四人でライブを見に行くことなった。
「信二さん、DJタクって?」
ライブハウスへ向かう途中、DJタクを知らない彩希が尋ねた。
「二十年前ぐらいに有名だったラッパーだよ。あの有名な木場綾女と何枚かCDも出したこともあったはずだ」
「へー。でも何でそんな人がテレビに出ずにライブハウスでライブやってるの?」
「彩希はもっと音楽界や芸能界について知った方がいいな。今テレビに出ていないからといって、人気がなくなったわけでも落ちぶれたわけでもない。今はテレビに影響力がなくなってきているからな。それに、テレビで歌ったり、大きな会場で歌うよりも、小さなライブハウスで歌った方が客やファンとの距離も近いから、そういった方を好む歌手だっている。DJタクもその一人なんだよ」
「なるほど……」
信二の熱の籠った説明に、彩希は納得したようだ。
「あ、着いたみたい。あそこでしょ、目的地のライブハウスって」
時雨が指差した方向には、「ロッカー」という大きな看板がついているライブハウスがあった。
「ロッカーってどういう意味なんだろう」
「多分、ロックリストのロッカーと、収納家具のロッカーをかけてるんじゃない?」
「あ、そっか。なるほど」
「彩希ちゃんはさっきから納得してばっかりだね」
クロナたち三人は他愛もない会話をしている。信二はその様子を見て微笑ましくなった。
「じゃ、中に入ろう」
信二たちはライブハウスの中に入り、人数分のチケットを買ってステージ前へと向かった。
ちなみにクロナたち三人のチケット代は信二が支払った。流石に自分で誘っておいて彼女たちに払わせるわけにはいかないだろうと思ったからだ。
ステージ前には、大勢の観客の姿があった。全盛期から時間が経っていても、ずっとついてきてくれるファンがいるんだな、とクロナは心の中で思った。その心境がどうだったのかはわからない。
しばらくすると、ステージの幕が開き、一人の男性が姿を現した。
それと同時に、ライブハウス中に大音量の重低音が響き渡る。
「皆、今日は来てくれてありがとう! 久しぶりのホームでのライブだから、今日は張り切っていくぜ!」
40過ぎの初老とは思えないほど、迫力のある野太い声から、精力に満ち溢れていることがわかる。観客が盛り上がるにつれてDJタクの歌もヒートアップし、観客は更に盛り上がる。この循環は止まることを知らない。
「……すごいですね」
「私もこーゆー盛り上がるライブがやってみたいな」
「なら、この雰囲気とDJタクのライブを覚えておくんだ。今回連れてきたのは俺個人の楽しみもあるが、これを皆に見せたかったからなんだ」
「これを?」
彩希が疑問を口にする。
「ああ。これから先、お前たちはアイドルとしてデビューする。しかし、必ずしも人気になるとは限らない。だがそれでも、楽しみにライブを見に来てくれるお客さんはいるんだ。人気になれないから悲観するんじゃなくて、今いるお客さんを喜ばせるために全力を尽くしてほしいと思っている」
「その言い分だと、私たちじゃ人気になれる可能性が低いみたいに聞こえるよ」
時雨が少し心配そうな表情で信二を見た。
「……正直、今の芸能界でアイドルが人気を出すのは厳しいからな。今は紺野幸香というトップアイドルがいる。彼女は人気だけじゃなく、実力だってある。社長や事務所の先輩たちから聞いた限りじゃ、スタッフへの対応もかなり良いらしい。そんな化け物を相手に、お前たちは戦わなくちゃいけないんだからな」
「違いますよ、信二さん」
不意に、クロナが信二の言葉を否定した。
「何が違うんだ?」
「私たちは幸香ちゃんと戦うんじゃありません。一緒に芸能界を、そして音楽界を盛り上げていくんです。幸香ちゃんは目標ではあるけれど、敵ではありませんから」
「そうだね。そもそも私たち素人なんか向こうは相手にもしないでしょ」
「それに、私と彩希はもっと練習しなきゃだしね。このままじゃデビューもおぼつかないよ」
三人の前向きな思考に、信二は感心した。
だが同時に、不安もある。
彼女たちはまだ現実を知らない。もしそういった状況になったときに、果たして同じような気持ちでいられるのだろうか。
かつてバンドをしていながらプロを目指し、結局プロデビューもバンドも上手くいかなかった信二にしか、その気持ちはわからなかった。
信二たちが話をしているうちに、ライブはクライマックスを迎えていた。
「それじゃ次が最後の曲になります。今回はゲストを呼びました。といっても身内ですけどね。じゃあ恵未、カモン!」
DJタクが合図をすると、ステージ脇から一人の少女が現れた。見た目はクロナたちと同世代のように見える。
「今回のゲストは、俺の一人娘の恵未ちゃんです! こう見えて、かつてはあの人気アイドルの紺野幸香とユニットを組んでいたこともあるんですよ!」
「ええっ!?」
その言葉を聞いたクロナたちは驚いたが、観客はさほど驚いた様子はない。それどころか、
「知ってるよー!」
「恵未ちゃんのラップがまた聞けるのか!」
「恵未ちゃんおかえり!」
など、恵未と呼ばれている少女の存在を知っているかのようだった。
「お父さん、恥ずかしいからそんな紹介するのやめてよ」
「ごめんごめん、じゃあ曲に入りたいと思います。恵未、準備はいいか?」
「おっけーだよ」
恵未は軽く喉を鳴らし、マイクを口の前に寄せた。
「じゃあいきます! 皆最後まで盛り上がっていってね!」
そして歌唱が始まった。
DJタクの野太く豪快なラップと、恵未の可愛さを残しながらも様になっているラップが、今までにない一体感を生んでいる。
「あの子、音感とリズム感がすごいな」
「というか、幸香ちゃんとユニットを組んでたって……」
各々の感想がありながらも、クロナたちは親子二人の歌唱に見とれていた。
信二の提案で、信二、クロナ、彩希、時雨の四人でライブを見に行くことなった。
「信二さん、DJタクって?」
ライブハウスへ向かう途中、DJタクを知らない彩希が尋ねた。
「二十年前ぐらいに有名だったラッパーだよ。あの有名な木場綾女と何枚かCDも出したこともあったはずだ」
「へー。でも何でそんな人がテレビに出ずにライブハウスでライブやってるの?」
「彩希はもっと音楽界や芸能界について知った方がいいな。今テレビに出ていないからといって、人気がなくなったわけでも落ちぶれたわけでもない。今はテレビに影響力がなくなってきているからな。それに、テレビで歌ったり、大きな会場で歌うよりも、小さなライブハウスで歌った方が客やファンとの距離も近いから、そういった方を好む歌手だっている。DJタクもその一人なんだよ」
「なるほど……」
信二の熱の籠った説明に、彩希は納得したようだ。
「あ、着いたみたい。あそこでしょ、目的地のライブハウスって」
時雨が指差した方向には、「ロッカー」という大きな看板がついているライブハウスがあった。
「ロッカーってどういう意味なんだろう」
「多分、ロックリストのロッカーと、収納家具のロッカーをかけてるんじゃない?」
「あ、そっか。なるほど」
「彩希ちゃんはさっきから納得してばっかりだね」
クロナたち三人は他愛もない会話をしている。信二はその様子を見て微笑ましくなった。
「じゃ、中に入ろう」
信二たちはライブハウスの中に入り、人数分のチケットを買ってステージ前へと向かった。
ちなみにクロナたち三人のチケット代は信二が支払った。流石に自分で誘っておいて彼女たちに払わせるわけにはいかないだろうと思ったからだ。
ステージ前には、大勢の観客の姿があった。全盛期から時間が経っていても、ずっとついてきてくれるファンがいるんだな、とクロナは心の中で思った。その心境がどうだったのかはわからない。
しばらくすると、ステージの幕が開き、一人の男性が姿を現した。
それと同時に、ライブハウス中に大音量の重低音が響き渡る。
「皆、今日は来てくれてありがとう! 久しぶりのホームでのライブだから、今日は張り切っていくぜ!」
40過ぎの初老とは思えないほど、迫力のある野太い声から、精力に満ち溢れていることがわかる。観客が盛り上がるにつれてDJタクの歌もヒートアップし、観客は更に盛り上がる。この循環は止まることを知らない。
「……すごいですね」
「私もこーゆー盛り上がるライブがやってみたいな」
「なら、この雰囲気とDJタクのライブを覚えておくんだ。今回連れてきたのは俺個人の楽しみもあるが、これを皆に見せたかったからなんだ」
「これを?」
彩希が疑問を口にする。
「ああ。これから先、お前たちはアイドルとしてデビューする。しかし、必ずしも人気になるとは限らない。だがそれでも、楽しみにライブを見に来てくれるお客さんはいるんだ。人気になれないから悲観するんじゃなくて、今いるお客さんを喜ばせるために全力を尽くしてほしいと思っている」
「その言い分だと、私たちじゃ人気になれる可能性が低いみたいに聞こえるよ」
時雨が少し心配そうな表情で信二を見た。
「……正直、今の芸能界でアイドルが人気を出すのは厳しいからな。今は紺野幸香というトップアイドルがいる。彼女は人気だけじゃなく、実力だってある。社長や事務所の先輩たちから聞いた限りじゃ、スタッフへの対応もかなり良いらしい。そんな化け物を相手に、お前たちは戦わなくちゃいけないんだからな」
「違いますよ、信二さん」
不意に、クロナが信二の言葉を否定した。
「何が違うんだ?」
「私たちは幸香ちゃんと戦うんじゃありません。一緒に芸能界を、そして音楽界を盛り上げていくんです。幸香ちゃんは目標ではあるけれど、敵ではありませんから」
「そうだね。そもそも私たち素人なんか向こうは相手にもしないでしょ」
「それに、私と彩希はもっと練習しなきゃだしね。このままじゃデビューもおぼつかないよ」
三人の前向きな思考に、信二は感心した。
だが同時に、不安もある。
彼女たちはまだ現実を知らない。もしそういった状況になったときに、果たして同じような気持ちでいられるのだろうか。
かつてバンドをしていながらプロを目指し、結局プロデビューもバンドも上手くいかなかった信二にしか、その気持ちはわからなかった。
信二たちが話をしているうちに、ライブはクライマックスを迎えていた。
「それじゃ次が最後の曲になります。今回はゲストを呼びました。といっても身内ですけどね。じゃあ恵未、カモン!」
DJタクが合図をすると、ステージ脇から一人の少女が現れた。見た目はクロナたちと同世代のように見える。
「今回のゲストは、俺の一人娘の恵未ちゃんです! こう見えて、かつてはあの人気アイドルの紺野幸香とユニットを組んでいたこともあるんですよ!」
「ええっ!?」
その言葉を聞いたクロナたちは驚いたが、観客はさほど驚いた様子はない。それどころか、
「知ってるよー!」
「恵未ちゃんのラップがまた聞けるのか!」
「恵未ちゃんおかえり!」
など、恵未と呼ばれている少女の存在を知っているかのようだった。
「お父さん、恥ずかしいからそんな紹介するのやめてよ」
「ごめんごめん、じゃあ曲に入りたいと思います。恵未、準備はいいか?」
「おっけーだよ」
恵未は軽く喉を鳴らし、マイクを口の前に寄せた。
「じゃあいきます! 皆最後まで盛り上がっていってね!」
そして歌唱が始まった。
DJタクの野太く豪快なラップと、恵未の可愛さを残しながらも様になっているラップが、今までにない一体感を生んでいる。
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