ATM~それが私の生きる意味~
最終調整
それから半年が過ぎた。
クロナは日々歌とダンスのトレーニングを重ねていた。信二と明佳の指導に加えてクロナのやる気もあってか、技術はかなり上達した。半年前は目立っていた欠点も、今では完全に克服したとまではいかないものの、目立たなくはなってきていた。
オーディションまであと一週間となり、クロナたちは最終調整に入ることにした。
「じゃあ、まずはダンスの復習をしましょう。とりあえず二つとも通しで踊ってみて」
オーディションで審査するダンスは、二次審査の指定された曲で踊るものと、最終審査の自作曲で踊るものの二つある。二次審査で使用される曲は、一か月前に発表されていたので、その曲に合わせて練習を行っていた。
ちなみに、自作曲のダンスの振り付けは明佳が担当している。
クロナは二曲踊り終えると、
「どうでした?」
と明佳に感想を求めた。
「うん。大分完成されてきたね。これならそこら辺のアマチュアには負けないと思うよ」
「やった!」
クロナはぴょんぴょんと飛びながら大はしゃぎしている。
「よし、じゃあ次は歌だな。こっちも二つ通しでやってみよう」
「はい!」
クロナは課題曲と自作曲を歌い始めた。
クロナの曲は、信二が作曲したものだ。踊りながら歌いやすいように、キーの高さはクロナが歌いやすいものに調整している。
歌い終えたクロナに対し、信二は、
「高音、中音、低音の質も悪くない。声の伸びも出てるし、このままなら大丈夫だろう」
「本当ですか!」
クロナはまたも体全体で喜びを表現している。
「ただ、これを本番でできなければ何の意味もないんだからな」
「その通りね。前日は体に負担をかけないようにして、早く寝ることね」
「はい。心がけます」
一週間後のオーディションのために半年間準備してきた。
ここで落ちてしまったら、今までの努力が水の泡になってしまう。
「落ちるわけにはいかない。絶対に合格するんだ……」
「とはいっても、あのオーディションに合格するのは難しいだろうな。なんてったって、俺が落ちたオーディションを主催していた事務所と同じところだからな」
「GMプロダクションだっけ。あの紺野幸香もいるっていう」
「え、そうなんですか!?」
明佳の一言に、クロナは驚愕した。
「ああ。だから、是非とも俺の敵討ちをしてくれよ、クロナ」
「完全にあんたの私情全開ね」
「あはは……。信二さんの敵討ちはともかく、合格できるよう頑張ります!」
クロナの気合は十分だった。モチベーションに関しては、気にする必要はないだろう、と信二は思った。
「というか、仮にオーディションに合格したとしたら、クロナちゃんはソロでデビューするのかしら。それともユニット?」
明佳がふと思った疑問を口に出す。
「うーん、どうだろな。個人的にはソロの方がいいと思うが」
「どうして?」
「俺自身バンドをやっていたからわかることなんだけど、ユニットを組むとどうしても人間関係が必要になってくる。仕事だろうと、日常だろうと、人間関係を円滑にしなきゃいけないからな」
音楽の方向性や価値観が合わなくなって最終的には解散、なんてことは芸能界では頻繁にあることだ。特に売れているグループとなると、我の強いメンバーも出てくることだろう。
「その分ソロならそういった負担はないから少しは楽かもしれないな。ただ、ソロの場合は頼れる仲間がいないから、孤独を感じることがあるかもな」
「どちらにもメリットとデメリットがあるんですね」
アイドルとしてデビューした後のことを深く考えていなかったクロナは、信二の意見を聞いて自分のアイドル路線を考えてみた。
「クロナはどうしたいんだ?」
「私は……」
クロナは少し間を置いてから言葉を出した。
「正直アイドルになれればそれでいいって思ってました。ソロだろうと、ユニットだろうと自分のやることは変わらないかなって。でも、今の信二さんの意見を聞いて、私はユニットでの活動をやってみたいなって思いました」
「それはどうして?」
明佳の疑問に、クロナは真剣な目つきで答える。
「仲間のことについて、考えたからです。信二さんは音楽の方向性が違ったりすると最終的には解散になることもあるって言ってましたよね。でも、それは逆に言えば価値観が違う意見を聞けるから、むしろいい経験になると思うんです。最終的にその価値観に共感するかどうかはそのときにならなければわからないと思いますけど、それでもそういった意見があるんだな、って理解することはできます。私はメンバー同士で意見をぶつけ合うことで、ユニットが成長するんじゃないかなって思うんです」
クロナの意見に、信二と明佳は感心した。
「何ていうか……クロナちゃんってただの世間知らずでちょっぴりおバカな子じゃなかったんだなって思ったわ」
「同感」
「ちょっと、私のことを何だと思ってるんですか!?」
失礼なことを言うなー、とクロナは小声で文句を言っている。
「要するに、ちゃんと自分の意見を持ててるんだなってことだよ。アイドルに限らず、芸能人になるんだったら、自分の意見をきちんと相手に伝えることは大切だからな」
「そこら辺は大丈夫かもね。ある意味芸能人向きだと思うよ」
「何か、うまく言いくるめられたような気がします……」
納得できていないクロナを横目に、信二はクロナについて考えていた。
彼女はこれまで何度も、普段の彼女からは想像できない迫力を出すことがある。特にアイドルに対しての想いの強さは、信二が想像できないほどのものだ。一体何が彼女にアイドルへの強い想いを持たせているのだろうか。彼女についての謎は、ますます深まるばかりだった。
クロナは日々歌とダンスのトレーニングを重ねていた。信二と明佳の指導に加えてクロナのやる気もあってか、技術はかなり上達した。半年前は目立っていた欠点も、今では完全に克服したとまではいかないものの、目立たなくはなってきていた。
オーディションまであと一週間となり、クロナたちは最終調整に入ることにした。
「じゃあ、まずはダンスの復習をしましょう。とりあえず二つとも通しで踊ってみて」
オーディションで審査するダンスは、二次審査の指定された曲で踊るものと、最終審査の自作曲で踊るものの二つある。二次審査で使用される曲は、一か月前に発表されていたので、その曲に合わせて練習を行っていた。
ちなみに、自作曲のダンスの振り付けは明佳が担当している。
クロナは二曲踊り終えると、
「どうでした?」
と明佳に感想を求めた。
「うん。大分完成されてきたね。これならそこら辺のアマチュアには負けないと思うよ」
「やった!」
クロナはぴょんぴょんと飛びながら大はしゃぎしている。
「よし、じゃあ次は歌だな。こっちも二つ通しでやってみよう」
「はい!」
クロナは課題曲と自作曲を歌い始めた。
クロナの曲は、信二が作曲したものだ。踊りながら歌いやすいように、キーの高さはクロナが歌いやすいものに調整している。
歌い終えたクロナに対し、信二は、
「高音、中音、低音の質も悪くない。声の伸びも出てるし、このままなら大丈夫だろう」
「本当ですか!」
クロナはまたも体全体で喜びを表現している。
「ただ、これを本番でできなければ何の意味もないんだからな」
「その通りね。前日は体に負担をかけないようにして、早く寝ることね」
「はい。心がけます」
一週間後のオーディションのために半年間準備してきた。
ここで落ちてしまったら、今までの努力が水の泡になってしまう。
「落ちるわけにはいかない。絶対に合格するんだ……」
「とはいっても、あのオーディションに合格するのは難しいだろうな。なんてったって、俺が落ちたオーディションを主催していた事務所と同じところだからな」
「GMプロダクションだっけ。あの紺野幸香もいるっていう」
「え、そうなんですか!?」
明佳の一言に、クロナは驚愕した。
「ああ。だから、是非とも俺の敵討ちをしてくれよ、クロナ」
「完全にあんたの私情全開ね」
「あはは……。信二さんの敵討ちはともかく、合格できるよう頑張ります!」
クロナの気合は十分だった。モチベーションに関しては、気にする必要はないだろう、と信二は思った。
「というか、仮にオーディションに合格したとしたら、クロナちゃんはソロでデビューするのかしら。それともユニット?」
明佳がふと思った疑問を口に出す。
「うーん、どうだろな。個人的にはソロの方がいいと思うが」
「どうして?」
「俺自身バンドをやっていたからわかることなんだけど、ユニットを組むとどうしても人間関係が必要になってくる。仕事だろうと、日常だろうと、人間関係を円滑にしなきゃいけないからな」
音楽の方向性や価値観が合わなくなって最終的には解散、なんてことは芸能界では頻繁にあることだ。特に売れているグループとなると、我の強いメンバーも出てくることだろう。
「その分ソロならそういった負担はないから少しは楽かもしれないな。ただ、ソロの場合は頼れる仲間がいないから、孤独を感じることがあるかもな」
「どちらにもメリットとデメリットがあるんですね」
アイドルとしてデビューした後のことを深く考えていなかったクロナは、信二の意見を聞いて自分のアイドル路線を考えてみた。
「クロナはどうしたいんだ?」
「私は……」
クロナは少し間を置いてから言葉を出した。
「正直アイドルになれればそれでいいって思ってました。ソロだろうと、ユニットだろうと自分のやることは変わらないかなって。でも、今の信二さんの意見を聞いて、私はユニットでの活動をやってみたいなって思いました」
「それはどうして?」
明佳の疑問に、クロナは真剣な目つきで答える。
「仲間のことについて、考えたからです。信二さんは音楽の方向性が違ったりすると最終的には解散になることもあるって言ってましたよね。でも、それは逆に言えば価値観が違う意見を聞けるから、むしろいい経験になると思うんです。最終的にその価値観に共感するかどうかはそのときにならなければわからないと思いますけど、それでもそういった意見があるんだな、って理解することはできます。私はメンバー同士で意見をぶつけ合うことで、ユニットが成長するんじゃないかなって思うんです」
クロナの意見に、信二と明佳は感心した。
「何ていうか……クロナちゃんってただの世間知らずでちょっぴりおバカな子じゃなかったんだなって思ったわ」
「同感」
「ちょっと、私のことを何だと思ってるんですか!?」
失礼なことを言うなー、とクロナは小声で文句を言っている。
「要するに、ちゃんと自分の意見を持ててるんだなってことだよ。アイドルに限らず、芸能人になるんだったら、自分の意見をきちんと相手に伝えることは大切だからな」
「そこら辺は大丈夫かもね。ある意味芸能人向きだと思うよ」
「何か、うまく言いくるめられたような気がします……」
納得できていないクロナを横目に、信二はクロナについて考えていた。
彼女はこれまで何度も、普段の彼女からは想像できない迫力を出すことがある。特にアイドルに対しての想いの強さは、信二が想像できないほどのものだ。一体何が彼女にアイドルへの強い想いを持たせているのだろうか。彼女についての謎は、ますます深まるばかりだった。
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