ATM~それが私の生きる意味~
初めての練習
翌日から、クロナに呼び出されて二人で練習を行った。
練習場所だが、信二の自宅やクロナの自宅で行うわけにもいかなかったので、近くのカラオケで行うことにした。
一日中練習してクロナの歌についてわかったことがあった。
まず音域だが、歌に使える音域は地声がD3~E5で、裏声がG5までだった。とはいえ、D5から上の音域については連発して出すのは厳しそうであった。単音だけなら使えるが、それでは意味がない。これからの課題の一つになるだろう。
歌声は喋り声の高さと反比例していて低く、アイドルになったら見た目とのギャップを狙えるかもしれない。音感も悪くはないが、高音になると若干フラットすることもある。しかし、その問題に関しては発声の悪さも関係しているので、一概に音感が悪いとはいえないだろう。
リズムも崩れているところはないが、逆にいうと別段に優れているわけでもなかった。並といったところか。
発声は、音域に関していえば高い音まで出るのだが、高音部分になると声のか細さが目立った。これではライブで歌を披露したときに声量の差が明確になってしまう。高音発声に関してはまだまだ発展途上だ。
中音は比較的安定して出せてはいたが、喚声点付近が張り上げ発声になっているのは目立っていた。多分切り替えが上手くいっていないのだろう。高音が急激にか細くなるのも、発声の切り替えが上手く出来ていないのが原因だとすれば、対処法は簡単だ。
低音は元々声質自体が低いおかげか、目立った難点はなく、逆に彼女の武器の一つにもなるかもしれない。
「よし、問題点もわかったことだし、次からはそれらを改善していこう」
「はい!」
クロナは元気よく返事をした。やる気は十分だ。
「ところで、ずっと気になっていたんだが、もしかして最近家に帰ってないのか?」
「え?」
突然の質問に、クロナはきょとんとした。
「いや、君が着ている制服さ、昨日も着ていたやつだろ。それに妙に汚れているし、家に帰ってないんじゃないかって思ったんだ」
「あ、これですか。これは私が着る服をこれだけしか持っていないからなんです」
「着る服がそれしかないって、家には親御さんとかいないのか?」
「はい。最近一人暮らしを始めたんです」
クロナはそう言うが、信二はますます疑問に思った。
普通ならば、一人暮らしを始めるときは十分な準備をするはずだ。いくらなんでも着る服が一着しかないなんてことはありえない。服は日常生活で最も使う頻度の高い物であるのは誰の目から見ても明らかだ。最優先に揃えるべきものをそろえていないのはおかしすぎる。
「いや、それにしたっておかしいだろ。服がそれ以外にないなんてさ」
「そんなことを言われても……」
「君は一体何を隠しているんだ。よかったら俺に話してくれないか。曲がりなりにも、君と知り合ってしまったわけだし」
「……」
クロナは一瞬考え込んだ後、
「やだなあ。私何も隠してませんよ。服がないのは本当なんです。この身一つで引っ越したから、まだ何も家具とか揃ってないんですよ」
と言った。どうやら話してくれないようだ。
「わかった。そこまで頑なに話さないならもう何も言わない。けど、そのまま放っておくこともできない。だから」
信二は携帯を取り出し、誰かに電話をかけた。
「あーもしもし、今大丈夫か? ちょっとこの後時間空いてるかな。少し用があるんだが。……ああ、じゃあすぐ行くよ」
通話を終えた信二は携帯をポケットにしまった。
「この後も少し付き合ってもらうぞ」
「付き合うって、どこに行くんですか?」
「向こうについたら説明するよ。じゃあ行こう」
信二はクロナの手を引き、カラオケを後にした。
練習場所だが、信二の自宅やクロナの自宅で行うわけにもいかなかったので、近くのカラオケで行うことにした。
一日中練習してクロナの歌についてわかったことがあった。
まず音域だが、歌に使える音域は地声がD3~E5で、裏声がG5までだった。とはいえ、D5から上の音域については連発して出すのは厳しそうであった。単音だけなら使えるが、それでは意味がない。これからの課題の一つになるだろう。
歌声は喋り声の高さと反比例していて低く、アイドルになったら見た目とのギャップを狙えるかもしれない。音感も悪くはないが、高音になると若干フラットすることもある。しかし、その問題に関しては発声の悪さも関係しているので、一概に音感が悪いとはいえないだろう。
リズムも崩れているところはないが、逆にいうと別段に優れているわけでもなかった。並といったところか。
発声は、音域に関していえば高い音まで出るのだが、高音部分になると声のか細さが目立った。これではライブで歌を披露したときに声量の差が明確になってしまう。高音発声に関してはまだまだ発展途上だ。
中音は比較的安定して出せてはいたが、喚声点付近が張り上げ発声になっているのは目立っていた。多分切り替えが上手くいっていないのだろう。高音が急激にか細くなるのも、発声の切り替えが上手く出来ていないのが原因だとすれば、対処法は簡単だ。
低音は元々声質自体が低いおかげか、目立った難点はなく、逆に彼女の武器の一つにもなるかもしれない。
「よし、問題点もわかったことだし、次からはそれらを改善していこう」
「はい!」
クロナは元気よく返事をした。やる気は十分だ。
「ところで、ずっと気になっていたんだが、もしかして最近家に帰ってないのか?」
「え?」
突然の質問に、クロナはきょとんとした。
「いや、君が着ている制服さ、昨日も着ていたやつだろ。それに妙に汚れているし、家に帰ってないんじゃないかって思ったんだ」
「あ、これですか。これは私が着る服をこれだけしか持っていないからなんです」
「着る服がそれしかないって、家には親御さんとかいないのか?」
「はい。最近一人暮らしを始めたんです」
クロナはそう言うが、信二はますます疑問に思った。
普通ならば、一人暮らしを始めるときは十分な準備をするはずだ。いくらなんでも着る服が一着しかないなんてことはありえない。服は日常生活で最も使う頻度の高い物であるのは誰の目から見ても明らかだ。最優先に揃えるべきものをそろえていないのはおかしすぎる。
「いや、それにしたっておかしいだろ。服がそれ以外にないなんてさ」
「そんなことを言われても……」
「君は一体何を隠しているんだ。よかったら俺に話してくれないか。曲がりなりにも、君と知り合ってしまったわけだし」
「……」
クロナは一瞬考え込んだ後、
「やだなあ。私何も隠してませんよ。服がないのは本当なんです。この身一つで引っ越したから、まだ何も家具とか揃ってないんですよ」
と言った。どうやら話してくれないようだ。
「わかった。そこまで頑なに話さないならもう何も言わない。けど、そのまま放っておくこともできない。だから」
信二は携帯を取り出し、誰かに電話をかけた。
「あーもしもし、今大丈夫か? ちょっとこの後時間空いてるかな。少し用があるんだが。……ああ、じゃあすぐ行くよ」
通話を終えた信二は携帯をポケットにしまった。
「この後も少し付き合ってもらうぞ」
「付き合うって、どこに行くんですか?」
「向こうについたら説明するよ。じゃあ行こう」
信二はクロナの手を引き、カラオケを後にした。
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