皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
その女性記者、いぶし銀なり
冒険者達が利用する宿は、一定の区域すべてその建物によって埋め尽くされていることが多い。
魔族以外の魔物が多数現れた時や大物が出現したときには、冒険者のチーム一つや二つでは対応できない。
宿は冒険者達を泊めるだけの役割ではない。
多くの戦力を広くはない範囲で収容する能力もある。
だがその戦力はそれぞれ欲望を持っている。だから冒険者達は必ずしも住民達や国の望みや願い通りに動くとは限らない。
そこで彼らが動く鍵になるのが依頼の報酬。
しかしただ単純にその報酬だけで動くだけでは、冒険者としての生活がその日暮らしになることも多い。
なぜなら依頼達成までに日にちを要し、その間に公示される依頼の報酬がそれをはるかに上回ることもある。
魔物や魔族を簡単に討伐したり時間をかけずに依頼を達成するための情報収集も、冒険者達にとって重要な仕事の一つ。
すぐに役には立たない物でもいつかは役に立つ時が来る。
優秀な冒険者あるいはチームは、その作業一つも疎かにしない。
そこに目をつけたのが新聞社。
彼らの欲しい情報の先を読み、割のいい報酬の依頼が出そうな情報を提供する。
勿論その予想は外れることはあるが、八割方は正確。
その情報量が多ければ多いほど、そして正確性も高ければ高いほど売り上げが上がる。
新聞記者は冒険者たち以上にそのアンテナを広げ、あちらこちらへと足を運ぶ。
全ての記者がそんな仕事をするのだが、それに比べるとホワールは異端である。
情報収集のための仕事はする。しかし万人が求める情報よりも、周りから見れば自分の好奇心を満たすことを優先する仕事ぶりである。
会社の方針にハマればスクープを持ってくることはあるが、入社してそろそろ五年目になる彼女は二度くらいしか評されたことがない。
後はほとんど白い目で見られている。
それでも彼女が会社に在籍できるのは、親族の口利きのおかげ。
そう言うと七光りめいた印象があるが、はっきり言えば、好奇心のあまりの強さから家族から厄介払いされ、その親族が上司になることで監視役をさせられているのである。
そして、決して役に立たないわけではない彼女の給与は、社員平均の半分。しかも彼女はその方面では一切文句を言わないことが、会社にメリットをもたらしている。
そんな彼女が目に付けたのが、一年以上も前になる近衛兵師団に起きた出来事。
シルフ族の武術魔術に長けた女性のみが所属する資格を得る近衛兵師団。
そこに配属された『混族』。
元々、『混族』に対する住民達の態度がなぜそうなのかと疑問に思っていたホワール。
彼女もオワサワールの国民だが、子供の頃から聞かされていた『混族』の話に関心を持ち始めたのが最初だった。
いわゆるタブーに触れることが多く、大人達もはっきりとした理由を言わない。
今の職場であるニヨール宿場新報社に放り込まれるきっかけだった。
…… …… ……
記者の誰もが取材する記事の一つが、これから出ると思われる依頼の予想。
しかしひねくれている様に見られているホワールの、そう思われる原因の一つである彼女がしている仕事は、ただの依頼の取材ではない。
依頼の種類に向いた能力の持ち主の傾向について取材していた。
依頼達成する際に、その出来栄え次第では報酬が上乗せされる。
報酬が高額であれば、上乗せされる額もそれなりに上がる。
ほとんどの記者が着目しなかった内容であり、それを先駆けたホワールは他の記者に比べ、一日の長の分があった。
その能力について冒険者達一人一人に聞いて回る。
宿の酒場が取材先なので、まともな話を聞くことはほとんどない。
それでもめげずに取材する。
効率が悪い仕事なので、ホワールの二番煎じを狙った記者はそれを機時にすることを諦めていく。
その新聞のコーナーはホワールの専売特許のように扱われた。
会社が彼女を雇い続ける理由の一つである。
彼女がニヨール宿場新報社に入社した時に、既に『混族』が冒険者業をしているという噂を聞いた。
その噂は気になってはいたが、入社一年目から好きなことをさせてもらえるわけではないし、右も左も分からない世界。指示されるがままに仕事にとりかかる。
半年経たずに記者見習いとして、先輩記者についてまわり仕事を覚えていく。
二年目には一通り仕事を覚え、一人での仕事を任せられた。
途端に好き勝手な取材を始めていき、それが周囲のひんしゅくを買いながらも、斬新な着眼点ということで、そのコーナーの担当をすることになる。
初めて彼女がギュールスを見たのは、入社して三年目に入ろうとする頃。
彼が傭兵登録を初めてまだ間もない頃と思われる。
彼が酒場から蹴飛ばされ、転がりながら街の通りに出てきたその現場にたまたま出くわした。
しかし彼女の初動がまずかった。
蹴飛ばした冒険者や酒場の方に取材先を決めてしまったのだ。
「あ? あいつの名前? 知らねぇ、忘れた」
「『混族』とか『青いの』とかで十分だろ。『死神』でもいいか?」
そっけない返事しか返ってこなかった。
当の本人に話を聞こうと酒場の外に出るが、そこにはすでにその姿はない。
その時にようやく思い出す。
青い体をした者は確かに『混族』と呼ばれるが、誕生直後に命を無理やり断たされることを。
神話か何かのレベルというくらい、その存在はレアである。
そして憎まれる度合いの強さも同じくらいレアである。
「まさか名前も覚えられてないなんて、思いもしなかった……」
まだ新人と言われる暗い経験が浅いが故の失敗。
だが噂話は広まるのは早い。しかもその噂は多種多様。
仲間を見捨てただの、生死不明だの。
その次の日には誰かと同じ傭兵のチームになっただのと常にその中身が変化する。
この失敗は取り返しが利く。
そう確信し、日常の仕事に『混族』を追う取材も加わる。
魔族討伐本部で待ち構えるが、朝は登録しようとする冒険者達でごった返す。
討伐から戻ってくる時間はまちまちな上、日が沈んでから戻ることが多いため、宵闇に紛れやすく見つけづらい。
二度目は近衛兵に配属される一年前。
やはり酒場から追い出されて倒れる彼を目撃。
接近することは出来たが街中の人混みで見失い、声をかけることは出来たがギュールスの怯えがひどく、碌に話をすることも出来なかった。
そして駐留本部の訓練場でようやく言葉を交わすことが出来た三回目。
しかし近衛兵達に阻止される。
だがこの時点で既に彼女は予想していた。
いつまでも軍属のままではいられないだろうと。
ギュールスの評判も耳にしている彼女は、ひょっとしたら将来国境を気にせず世界中をさ迷い歩くことになるのではないか、と予想していた。
それがガーランド王国にいることを突き止め、そして今回、直接王女にはっきりと提供できる情報を掴むことになったのだった。
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