皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
過去の映像 成功の先、失敗の先
「でも、我ながら便利な能力を手に入れたもんです。言葉だけでなく映像もつけて、それに解説までつけられるんですから……。近衛兵師団が解体されて、俺は特にその後何の任命もなく……簡単に言えばクビですね。この国の飛び地がガーランド国内にあるって言うんで、一人で潜入したんですよ」
それから何日か経ってからのガーランド国内でのギュールスの様子が壁に映し出される。
その映像を見ても、どこと説明がつかないガーランド国内の森の中。
その映像の中に突然現れる巨大な魔族が二体。
「ロワーナ王女! これっ!」
エノーラが大声を出す。
親衛隊全員がざわめきだす。
「これは……まさか……」
「え? ロワーナ王女、ご存じなんですか?」
言葉を失うロワーナ。
その彼女の反応は、流石のギュールスも予想外。
ロワーナ達にとっては忘れもしない、ガーランド王国の皇太子と共に間近で目にした珍しい現象。
魔族が何の被害を与えることなく消滅したその体は黒い球体。両側にはカマキリの腕のようなものが生えている。
「……出現場所は、我々が目撃した場所と一致している。そして同型の魔族の出現報告は受けていない」
「ホワール……あの新聞記者の報告通りってことか」
エノーラの呟きに、親衛隊全員がハッとする。
ガーランド王国内に、元近衛兵の唯一の男性がいる。
ニヨール宿場新報社の一匹狼の女性記者、ホワール=ワイターからの情報だった。
「そう言えば、彼女が挙げた候補地の一箇所の付近ですよ、ここ!」
エリンもあの時のことを詳しく思い出す。
彼女の顔パスは、一か月以上も遅れて確定されることになった。
後に親衛隊に対し、あまりの遅さに怒るやら呆れるやら、とにかく荒れる彼女が王宮内で目撃されたが、それは別の話になる。
「あの魔族がなぜ消えたのか不思議でならなかったが、お前が傍にいたのか」
「そばにいたのは俺だけじゃないです。ほら」
ギュールスが指を差す先の映像に、魔術師二人が映像に現れる。
しかし魔族との関係性はまだ見られない。
魔族と深くかかわっていることを信じたくないヘミナリアとミラノスは、その映像に見入っている。
映像の中のギュールスが、おい、とその二人に呼びかけている。
「そうだった。あの魔族が自然発生した可能性があるって思ってたんだよな。だがこいつらが操っている可能性もあった。とりあえず声をかけてから判断した方がいいと思ってな……」
その魔導士二人は呼びかけたギュールスに、振り向きざま魔法攻撃の体勢をとる。
「体が……青い?」
「お、おい……、まさか……」
彼らの構えは解かないままだが、明らかに殺気が消えていたことをギュールスは証言する。
ヘミナリアとミラノスは、その証言を聞く前から青ざめている。
そしてこの後の彼らの言葉が、その立場を決定づけるものとなった。
「こ……『混族』様でございますか?!」
「あ、あの……で、伝説のっ……!」
映像の中のギュールスは、驚いて大声を上げそうになっている。
かろうじて堪え、その二人に聞き返す。
「さ、様って何だよ? た、確かに俺は『混族』だが」
言葉を区切った直後、二人はその低い姿勢からギュールスに縋るようにしがみつく。
「ま、まさか本当にこの世にいらっしゃるとはっ!」
「わ、私共は魔族の力を敬い慕うものでございます! ど、どうか私達の住まいに、い、いや、我らの王の所へ」
「待て! あの魔族が傍にいてはここも危険だ。て言うか、魔族の力を慕う?」
ギュールスが慌てて声をかけていた。
すると二人は互いに見合わす。
「……ご安心ください、魔族から遣われし尊い方よ。まずはあの魔族を下がらせましょう」
ギュールスは何かを言おうとしているが、言葉が出てこない。
ここで映像を一時停止させる。
「あの時、俺に敬語を使ってきたこと、『混族』に様なんてつけられたこと、こいつらが何者か、混乱してたんだよな。この時まだしばらくは分からなかった」
そう言うと、映像の続きが流れる。
魔術師二人はギュールスをどこかに招こうとしている様子。
「さあ、こちらでございます。ささ、どうぞっ……」
「待てっ。王って……ガーランド国王のこと……なのか?」
魔術師二人は顔を合わせる。
そして、自己紹介がまだだったことにようやく気付く。
ギュールスの混乱ぶりも仕方のないこと。
自分達の非礼を詫び、改めて自己紹介をする魔術師達。
「……我々は、魔族と共存を目指しているレンドレス共和国の魔術師でございます。その青い体を持つ者は、まさしくその理想を具現化された証!」
「『混族』はほかの国々では蔑まれる対象になっておるようですが、とんでもないことでございます。どうか我が国に足をお運びくださり、どうか我が国を安住の地と定めていただきますよう……」
ミラノスは、映像を一旦止めるようにギュールスに願った。
ヘミナリアも彼女も憔悴している。
「あんな魔族を操っていただなんて……初めて知りました……」
「まさか、よその国で魔族を呼び出すなんて……」
ギュールスは二人に優しく話しかける。
「王妃、そしてミラノス。今俺がしていることは、二人への糾弾なんかじゃない。俺がここに来るまでどんな道のりだったかを教えるため。それに俺も二人にはひどいことをしてしまったのかもしれない。でも互いに責め合えば、話は先に進まない」
ヘミナリアとミラノスは気丈に頷き、映像のその先を見ることを望む。
先を見せる前にギュールスは自分の当時の思いを語った。
「国交断絶している国の内情をどう調べるか。そしてレンドレスが魔族にどれほど関わっているのかを知る必要があった。この国の王だけしか知らない場合、国民も拘束するなんてやりすぎだと思ったしな。だが俺にそんな企みがあるなんてあの二人には思いもしなかったろう」
最初の博打だった。
獅子身中の虫。
誰からも依頼されていない役目。
現在何の後ろ盾もない自分。
この博打に負けたら、誰にも知られずこの世から葬り去られることとなる。
ギュールスはそのことを口にすると、大声で諫められた。
「何を馬鹿な! 我らがいるではないか!」
ロワーナ王女である。
「近衛兵解任された者のほとんどが親衛隊に移ったでしょう? 自分の任命はなかったんじゃないですか? 下手すれば、解任してすぐに本部から出なければ、どんな処罰があったか知れたもんじゃありませんでしたよ。だからその前に自ら辞表を出したんです。そのおかげで誰からも咎められることはなかったでしょ?」
だがギュールスに冷静に言い返されて、さらに返す言葉を失う。
自分に処罰を与えるのは簡単である。
その理由が『混族』ということだけで十分事足りるのである。
「そんな……そんな理不尽なことが……」
「あるんだよ、世の中には。この国の対応が珍しいんだよ、ミラノス」
ギュールスの完全な独り相撲である。
しかも、その博打に勝てばオワサワールをはじめとする反レンドレス同盟から裏切り者呼ばわりされるかもしれない。
負けはスパイ行為発覚。期待を裏切った罪は重いだろう。
どのみちギュールスのその先の未来はいばらの道である。
「そして俺が選んだ道は……」
そう言うと、映像の続きが流れ出す。
「……お言葉に甘えようか。案内してくれ。道すがら、いろんな話を聞かせてくれるともっと有難いな」
「おぉ! 私達でよければ出来ることなら……いや、出来ないことも可となりましょう!」
ギュールスはレンドレス共和国の魔術師二人の歓迎を受け、現時点でのこの世界の誰もが立ち入ることが出来ない高い壁の向こうの国へ足を踏み入れることを選んだ。
その国の野望を、ただ一人で打ち砕くために。
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