皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
ギュールス、初めての防衛戦
第一部隊から第三部隊は常にオワサワール皇国の首都、ライザラールに駐留している。
皇帝、皇族の守備、警護が任務の中心となるためである。
しかし皇国を中心とし、友好国、そして魔族と加担していると思われるレンドレス共和国に反対する同盟国への、その脅威から守るための巡回をしている皇国国軍からの援軍要請にも応える役目も担っている。
実際、ギュールスが入隊してからもそんな出動要請に応じ出撃し、成果を上げている。
ただ彼にとってショックだったことは、冒険者達は傭兵として国軍に協力するかたちで魔族討伐に参加していたのだが、傭兵達が討伐する魔族は全体のほんの一部。彼らが討伐するほとんどの魔族は、傭兵達には全く知られていない、より危険な正体不明の魔族であったこと。
その強さはランク分けされ、まだ二級、一級にランク付けされている魔族とは対峙したことすらない。
それは軍属の者なら周知の事実。彼が所属している近衛兵師団の全員も、おそらくそうであろうということから、彼の初めての出撃のときには随分と大口を叩くものだと、第一部隊全員の気分を害した。
初めて出会う種類の魔族だろうからなるべく負担をかけないようにと気を遣った相手が、知ったかぶったような口を利けば誰でもそんな感情は出るだろう。
ギュールスにしてみれば初めて見る魔族。
それでも一掃。
しかも彼に驕り高ぶる姿勢はまったくなく、逆に恐縮するような態度。
仲間達から戦力的にアテにされるのも当然である。
しかし今現在彼女達に出撃指令が下されたその内容は、ギュールスにとっては初めて巡回部隊以外の者からの要請。
それは、ガーランド王国との国境に近い場所に位置する村に駐留している、ガーランド王国への応援の役目も持つ駐留部隊からであった。
ギュールスが今まで撃退してきた魔族は、これから国民の居住区域に進撃しようとする魔族達だったが、今回は村を襲っている魔族。
しかも危険すぎるため、傭兵部隊への応援は頼めないし期待できない。
付近を巡回している部隊にも要請し、その中には近衛兵の部隊も含まれていた。
駐留本部にいる近衛兵部隊は、本来の目的がある。
そのための部隊を第二部隊に任せ、近衛兵部隊からは第一と第三部隊が出動した。
既に村を襲撃している第三級以上と思われる魔族。
普通よりも大きい部屋をその体に括り付けている、大きめの飛竜が移送部隊で用意されていた。
作戦を考える時間すら惜しむということらしい。
部隊ごとに移動するのではなく兵科ごとに移動し、とにかく少しでも時間のロスを減らす上層部の工夫だった。
「魔族は二体。形状は……スライムだ」
ロワーナは形状のことを口にする前に一瞬ギュールスの方に目を向ける。
その種族名を口にした時ギュールスは体をびくりと動かす。それと同時に、瞬間的に彼の顔に憎悪の感情が浮かぶ。
戦場ではどちらかというと感情の起伏がほとんどないギュールス。そんな彼がその顔を隠そうともしないことが気になった。
両隣に座るアイミとティルは彼の異変に気付いたようだが、他のメンバーはロワーナに注目しているため彼の変化には気づかなかった。
「ただとにかくでかい、とのこと。やつらは高く飛び跳ねて落下。森林の樹木を上から押しつぶすような暴れ方をするという。移動速度については、その方法が特有だとのこと」
飛び跳ねて落下。その落下の方向はほぼ垂直だが完全ではなく、そのずれた分が移動速度となる。
飛び跳ねる速さと高さで移動のスピードが変わるとのこと。
「つまり我々の足踏みみたいなものですね?」
スライムの能力の一つである、体に取り込み溶かすという能力は見られないとのこと。
物理的に踏みつぶすのみという動きはまさしくエノーラの言うことが的を得ている。
「しかし落下した時点で、地面にくぼみが出来、平らではなくなる。足場がどんどん変わる地形と見ていい」
「……地面がへこむってことは、地面は柔らかかった。柔らかいということは……農作物が育ちにくくなります。魔族討伐に時間がかかればかかるほど、村民達のその村での生活は厳しく……」
「いい所に気が付いたな、ギュールス。幸い魔族が暴れているのは居住区域と森林の境目。住民達はほぼ全員、村の中で現場からなるべく遠い所に避難している」
「スライムなら火が有効ですが……」
「森林、そして山火事が気になるな。ただスライムとなると火は魔族に燃え移ることはほとんどない」
「飛び跳ねないように地の魔術をかけて重力を強くするとかにして、火をかけた地面に固定させれば」
第一部隊と第三部隊は移動中様々な作戦を立てる。
最終的には、メイファからのその意見が採用。
風の魔法で火の延焼を防ぎながら重力をかけ魔族の動きを固定。そのまま焼失させる作戦をとる。
「目標は二体。三体でも四体でもない。一体でもない。二体を重ねられれば上出来なんだが、そこまで無理は言わん。そうする工夫をするより別々に仕留める方が討伐に欠ける時間は少なくて済むだろう」
ロワーナが討伐の方針を固め、あとは到着するまでの時間は、いろんな場面を想定しての細かい作戦を考えるために費やした。
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