皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
近衛兵のシルフ達 任務前 第六部隊その他
討伐対象ごとにグループ分けが決まり、そのグループごとで作戦会議が始まる。
ロワーナは第一部隊だけにとどまらず、もう片方のグループにも顔を出す。
しかしギュールスの様子が気にかかった彼女は、全体的な作戦計画にもかかわる可能性から、その様子を伺うことを優先した。
「こっちの方は大丈夫か? と言うより……」
第一部隊全員が、ギュールスの様子が違うことに既に気が付いている。
心当たりのあるエノーラが一部始終を報告した。
「またその問題か。目的と手段が入れ替わって混乱することはよくあるが、目的と条件が入れ替わってしまってるんだな」
「それと、第四部隊より下は、理想像を押し付ける傾向が強いと思われます」
高い志を持つその対象が違う。
近衛兵師団が以前から持つ課題でもあった。
「それより団長、エノーラさん。彼は……」
「俺なら心配ないですよ。この林の中からそれぞれを様子見。第一部隊が討伐成功確認後向こうに加勢」
「前回はさ」
ティルが突然ギュールスの肩に勢いよく腕を回して話しかける。
「前回はおんぶに抱っこだったけど、今回は私達だってやれるってとこ見てもらわなきゃ。でなきゃバカにされちゃうからねぇ。よりにもよって第一部隊が、よ?」
赤の他人なら明らかに馴れ馴れしい態度。
しかしみんなは、ギュールスからいろんな話を聞いた。いろんな思いを持っていることを知った。
ギュールスは、我々の仲間である。
そんな思いをティルが代表して態度に表した。
そしてその目でギュールスに訴える。
「……しっかり見てないと行動に出られません。役割は果たしますから離れてもらえませんか」
しかし返すギュールスの目は冷めたまま。
思いの外、第六部隊の反応は彼の心に深く突き刺さっているようにも見える。
「……内輪で歓迎されても、自分は自分。ただ思い知らされただけです。作戦の妨げにはなりません。この力を団長が受け入れてくださいましたから」
「ギュールス、ちょっといいかな~?」
「なんです? メイファさん」
「言葉遣いがね、丁寧過ぎない?」
「受け入れて『くださいました』ぁ~? いろいろイジられといて、まだ他人行儀なことを言うかねぇこの方は?」
ティル以上に絡んでくる、反対側の隣にいたメイファ。
例えギュールスに忘れられていようが、傭兵時代からのギュールスに絡んでいただけあって第一部隊の中でギュールスにはあまり壁を感じない彼女。
普通ならこの現状を目の前にして、スキンシップを求めるような悪ふざけをしている場合ではない。
ギュールスはもちろんそれを弁えているが、誰もメイファを止めようとしないのは、誰もがギュールスに持つ思いが一致していたからに他ならない。
「……手筈は既に整っているのであれば、こっちは心配ないな。向こうを見てくるぞ」
ロワーナはそう言って、第一部隊から離れる。
「……メイファ」
「何? エノーラ」
「ギュールスの、女性への耐性のことも考えてやれよ?」
「いや、男女のどうのって言ってる場合では」
エノーラは腕組みをして命令口調を強める。
「お前が人の話を聞かないヤツだということが分かった。今団長は、こっちは心配ないと言い切ったぞ。羽目を外しすぎなければ問題ないということだ。そしてメイファは限度を弁えている。皆から振り回されながら頭を冷やせ」
ギュールスからすれば言われてることがあべこべである。
まだ自分達を信頼していないのかと憤慨するような眼で見る者。ギュールスの態度を軟化させようと奮闘する者。ギュールスと絡んでくる仲間達を見て苦笑いする者。
これから魔族討伐が始まるというのにこれでいいのか、と逆に仲間を心配するギュールス。
しかしロワーナは彼女たちの緊張感がいい具合にほぐれていると判断し、もう一方のグループの様子を見に行った。
「……『混族』のあいつの処分何とかしてくださいよ、団長!」
「実績なんか関係ないでしょう! あいつがいなくとも退治できたはずです!」
第六部隊がロワーナの姿を見ると、すぐに抗議の言葉を出してきた。
盲信。
ロワーナが真っ先に脳内に浮かんだ言葉。
彼女たちが言う根拠は、他者をとても説得できるものではない。
「……今はあの魔族に集中しろ。作戦は出来たのか?」
「当然です! 向こうよりも人数が多いですし、向こうよりも早く終わらせますよ!」
「士気が高いのは頼もしいが……」
そう言いながら、ロワーナがちらりと見やった先は第二部隊と第三部隊。
そこで第六部隊の隊長であるヨーナがやや慄きながら身を引いた。
「も、申し訳ありません。つ、つい大それたことを」
「上からの指示に反抗すると受け取ると、お前の態度ははっきり言えば悪いと言える」
ヨーナは緊張のあまり身を固くする。
しかしロワーナの言葉は止まらなかった。
「だが、住民や国民の安全のために巡回している責任者として団長である私に進言しているという意味では、責任感溢れる行動ともとれる。私も出動しているのだから、最高責任者は私になるのだが、現場に一番長くいる者としての情報や意見をあげやすい立場でもある。それは援軍に来た第六部隊よりも上の第二、第三部隊には務まらない立場だ」
ヨーナはやや緊張を解き、彼女の目はロワーナの話を素直に聞く真剣さが強くなっていく。
「だから我々は、何の抵抗する力を持たない国民、住民達の安全を守り、国を守るために活動すること。私情が力に変わることはあまりない。逆に体や思考を強張らせることになる。ましてや我々の相手は魔族。柔軟な態勢を保つことが必要になる。こだわりはなるべく捨てて、まずはそのことを心に刻み込め」
ヨーナばかりではなく、第六部隊、そして援軍に来た二部隊全員もロワーナの話を噛みしめた。
「……魔族は二体。先に片づけた方が残りの方に援軍に回ること。私からは以上だ」
「「「了解!」」」
三部隊の隊長達は敬礼し、作戦の確認を始めた。
その三人とメンバー達の様子を見たロワーナは、心の中で安堵のため息をついた。
ロワーナは、到着した地点の林の中で、砂浜にいる魔族二体が見えるその中間で様子を伺う。
それぞれのグループの代表の第一部隊の隊長代理と第六部隊の隊長が戦闘準備完了の旨を伝えるため、ロワーナのそばに駆け寄った。
「よし。あとは迅速に、そして手間取らずに仕留めろ。それぞれのグループに戻り次第行動開始せよ」
いよいよ討伐開始である。
ロワーナは第一部隊だけにとどまらず、もう片方のグループにも顔を出す。
しかしギュールスの様子が気にかかった彼女は、全体的な作戦計画にもかかわる可能性から、その様子を伺うことを優先した。
「こっちの方は大丈夫か? と言うより……」
第一部隊全員が、ギュールスの様子が違うことに既に気が付いている。
心当たりのあるエノーラが一部始終を報告した。
「またその問題か。目的と手段が入れ替わって混乱することはよくあるが、目的と条件が入れ替わってしまってるんだな」
「それと、第四部隊より下は、理想像を押し付ける傾向が強いと思われます」
高い志を持つその対象が違う。
近衛兵師団が以前から持つ課題でもあった。
「それより団長、エノーラさん。彼は……」
「俺なら心配ないですよ。この林の中からそれぞれを様子見。第一部隊が討伐成功確認後向こうに加勢」
「前回はさ」
ティルが突然ギュールスの肩に勢いよく腕を回して話しかける。
「前回はおんぶに抱っこだったけど、今回は私達だってやれるってとこ見てもらわなきゃ。でなきゃバカにされちゃうからねぇ。よりにもよって第一部隊が、よ?」
赤の他人なら明らかに馴れ馴れしい態度。
しかしみんなは、ギュールスからいろんな話を聞いた。いろんな思いを持っていることを知った。
ギュールスは、我々の仲間である。
そんな思いをティルが代表して態度に表した。
そしてその目でギュールスに訴える。
「……しっかり見てないと行動に出られません。役割は果たしますから離れてもらえませんか」
しかし返すギュールスの目は冷めたまま。
思いの外、第六部隊の反応は彼の心に深く突き刺さっているようにも見える。
「……内輪で歓迎されても、自分は自分。ただ思い知らされただけです。作戦の妨げにはなりません。この力を団長が受け入れてくださいましたから」
「ギュールス、ちょっといいかな~?」
「なんです? メイファさん」
「言葉遣いがね、丁寧過ぎない?」
「受け入れて『くださいました』ぁ~? いろいろイジられといて、まだ他人行儀なことを言うかねぇこの方は?」
ティル以上に絡んでくる、反対側の隣にいたメイファ。
例えギュールスに忘れられていようが、傭兵時代からのギュールスに絡んでいただけあって第一部隊の中でギュールスにはあまり壁を感じない彼女。
普通ならこの現状を目の前にして、スキンシップを求めるような悪ふざけをしている場合ではない。
ギュールスはもちろんそれを弁えているが、誰もメイファを止めようとしないのは、誰もがギュールスに持つ思いが一致していたからに他ならない。
「……手筈は既に整っているのであれば、こっちは心配ないな。向こうを見てくるぞ」
ロワーナはそう言って、第一部隊から離れる。
「……メイファ」
「何? エノーラ」
「ギュールスの、女性への耐性のことも考えてやれよ?」
「いや、男女のどうのって言ってる場合では」
エノーラは腕組みをして命令口調を強める。
「お前が人の話を聞かないヤツだということが分かった。今団長は、こっちは心配ないと言い切ったぞ。羽目を外しすぎなければ問題ないということだ。そしてメイファは限度を弁えている。皆から振り回されながら頭を冷やせ」
ギュールスからすれば言われてることがあべこべである。
まだ自分達を信頼していないのかと憤慨するような眼で見る者。ギュールスの態度を軟化させようと奮闘する者。ギュールスと絡んでくる仲間達を見て苦笑いする者。
これから魔族討伐が始まるというのにこれでいいのか、と逆に仲間を心配するギュールス。
しかしロワーナは彼女たちの緊張感がいい具合にほぐれていると判断し、もう一方のグループの様子を見に行った。
「……『混族』のあいつの処分何とかしてくださいよ、団長!」
「実績なんか関係ないでしょう! あいつがいなくとも退治できたはずです!」
第六部隊がロワーナの姿を見ると、すぐに抗議の言葉を出してきた。
盲信。
ロワーナが真っ先に脳内に浮かんだ言葉。
彼女たちが言う根拠は、他者をとても説得できるものではない。
「……今はあの魔族に集中しろ。作戦は出来たのか?」
「当然です! 向こうよりも人数が多いですし、向こうよりも早く終わらせますよ!」
「士気が高いのは頼もしいが……」
そう言いながら、ロワーナがちらりと見やった先は第二部隊と第三部隊。
そこで第六部隊の隊長であるヨーナがやや慄きながら身を引いた。
「も、申し訳ありません。つ、つい大それたことを」
「上からの指示に反抗すると受け取ると、お前の態度ははっきり言えば悪いと言える」
ヨーナは緊張のあまり身を固くする。
しかしロワーナの言葉は止まらなかった。
「だが、住民や国民の安全のために巡回している責任者として団長である私に進言しているという意味では、責任感溢れる行動ともとれる。私も出動しているのだから、最高責任者は私になるのだが、現場に一番長くいる者としての情報や意見をあげやすい立場でもある。それは援軍に来た第六部隊よりも上の第二、第三部隊には務まらない立場だ」
ヨーナはやや緊張を解き、彼女の目はロワーナの話を素直に聞く真剣さが強くなっていく。
「だから我々は、何の抵抗する力を持たない国民、住民達の安全を守り、国を守るために活動すること。私情が力に変わることはあまりない。逆に体や思考を強張らせることになる。ましてや我々の相手は魔族。柔軟な態勢を保つことが必要になる。こだわりはなるべく捨てて、まずはそのことを心に刻み込め」
ヨーナばかりではなく、第六部隊、そして援軍に来た二部隊全員もロワーナの話を噛みしめた。
「……魔族は二体。先に片づけた方が残りの方に援軍に回ること。私からは以上だ」
「「「了解!」」」
三部隊の隊長達は敬礼し、作戦の確認を始めた。
その三人とメンバー達の様子を見たロワーナは、心の中で安堵のため息をついた。
ロワーナは、到着した地点の林の中で、砂浜にいる魔族二体が見えるその中間で様子を伺う。
それぞれのグループの代表の第一部隊の隊長代理と第六部隊の隊長が戦闘準備完了の旨を伝えるため、ロワーナのそばに駆け寄った。
「よし。あとは迅速に、そして手間取らずに仕留めろ。それぞれのグループに戻り次第行動開始せよ」
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