皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
次の予定まで
ギュールスは中庭で、雑草を摘んでそれを食べていた。
アイミが中庭に駆け付けた時は、その反対側の隅でアイミに背中を向けてしゃがんでいた。
彼女が近づいて、ようやく何をしているかが分かる。
彼女がまさかと思った通りのことをギュールスはしていた。
ん? とギュールスは振り返る。
彼の視界に地面に現れた影が入ってきたためだ。
「んぐ……? ……えーと、どうも」
「どうも、じゃないだろう。部屋にずっといると思ってたから、どこかに去ったのかと焦ったぞ」
ギュールスは体の向きを変える。
「この中の案内に誰かがつくより、動けるところだけは自分だけでと思ってうろついてたら、除草の作業をしてる人を見かけたので、ひょっとしたらお手伝いできるかしれないと」
ギュールスがしゃがんでいた前方は、確かに芝生以外は取り除かれている。
「匂いで違いが分かりますから、芝生を毟ることは絶対にないですよ」
「そっちの心配は私はしてない。むしろ脱走でもしたのかと心配したぞ」
「こんなにたくさん食べられるものがあるんですから、ここからいなくなることはないですよ。他にも除草してほしい所まだあるようですし」
「掃除の仕事でここに来たわけじゃないだろう」
安堵のあとは、何度目のため息だろうか。
アイミには、ギュールスは近衛兵部隊に配属されたことよりも雑草を口にしている方が、心なしか喜んでいるように見える。
「そうだ、忘れるところだった。団長が部屋で呼んでいるぞ。さっきまでいた団長室だ。呼び出しをかけてからずいぶん時間がかかったから一緒に急ぐぞ」
また途中で何かに引っかかってさらに時間が遅れるようなことがあると、その後の予定が決まったため全員に迷惑がかかる。
アイミは団長室までギュールスを先導する。
「ずいぶん遅かったじゃないか。まぁいい。アイミ、時間まで下がってていいぞ。……さて、ギュールス。いろいろと話は聞かせてもらった。いかなる理由があろうと、お前が拒絶しない限りお前に与えた任務を解くつもりはない。仕事以外は我が家のようにくつろぐといい」
アイミが退室してからロワーナは話を続けるが、ギュールスは自分の事ではないような顔をして聞いている。
もちろんロワーナにも、彼にとって突然の話をしていることを自覚はしていた。
話の進め方を焦りすぎた事も分かっていて、それをやや恥ずかしく思ったのか鼻の頭を指で触る。
「近衛兵師団の人事の裁定はすべて近衛兵師団団長の私に一任されている。背任、背信行為がない限りお前の生活と日常の安全は保障される。身の危険などがあったら遠慮なく報告してほしい」
ロワーナからの精いっぱいの気遣いのつもりだが、ギュールスの態度はしっくりこない。
そこまで言われるほどの何かをしてきただろうかと、その心当たりを思い返して探しているようだ。
「気にするな。私がお前にそうしたいだけだ。ま、貴重な人材をそれなりに扱うとなると、それくらい持て成すのが当然だろうと思っただけさ。それでこの後の予定だがな」
食事会の内容をギュールスに伝える。
が、ギュールスはロワーナの想像を超えた反応を見せる。
「歓迎会? なんで?」
「……部下の一人になったんだ。特に第一部隊所属の者達とは仲間ということになるんだぞ? 互いに名前で呼び合うくらいの親しみを持つことは当たり前なんだよ」
何となく頷くギュールス。
次の予定の食事会の時間までそう長くはない。
ギュールスは食堂の案内もされてないことを確認すると、団長の席の前にあるソファに座るようギュールスに促す。
しかしソファに座ろうとせず、ソファの横の床に胡坐で座る。
「……それが気楽であるならそれで構わんが、食事会の時はせめてみんなと同じように椅子に座ってもらわなきゃ困るかな。できるか?」
「……じゃあそれなりに覚悟して座ってみます」
「何の覚悟だよ、まったくお前は……」
ロワーナは苦笑いしかできない。
待機させるには無駄な緊張を強いることにもなる。気楽に待つように伝え、本棚から数冊本を取り出しギュールスに差し出す。
「少しの時間でも目を通すだけでもしておけ。本部内の施設の解説書のようなものだ」
ギュールスは「はぁ」とあいまいな返事をして本を開く。
しかしやがて集中してその本を読み進めていく。
その様子を見届けると食事会の時間の知らせが来るまで、ロワーナも事務の仕事を進め、部屋の中は静かに時間が流れていった。
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