皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

人になれなかった人


「……これから処罰を受ける者が受ける待遇ではないと思うんだが。だがある意味苦しい思いはしている。これ自体処罰と思えなくもないが……」

 ギュールスは待機室のソファに座らされ、目の前のテーブルにロワーナの部下からお茶を出される。

「俺の人生最後の飲み物というなら有り難くいただくが……。あ、俺に毒耐性あるから何か入れても意味はない。ただし味覚がイカれるダメージはあるか?」

「ふ、普通のお茶だ。その恰好のどこが苦しいと言うのだ」

「椅子の類に座るたびに蹴飛ばされて地面や床に座ることになるんだが。コップやカップでの飲み方も忘れた。下の皿は何のためにあるのか不思議でならん」

 部下の兵士は言葉に詰まる。
 普通に手に取ればいいではないか。

「……口つけて飲んだら零してしまうよな」

「手を使ったらいいだろう」

「そう言われて手を使ったら、なんでお前がそれを飲むのかと殴り飛ばされた。足を使えとかも言われた。両足使うなとも言われたが、まぁ足の指で掴めないことはないから片足で掴もうとしたんだが……」

「……貴様、今までどんな待遇を受けてきたんだ……」

 部下はギュールスの話を聞いてドン引きしている。

「流石に床にこぼれた飲み物を舐めるまではしなかったがな。そこまでやると流石の俺も周りからの視線が痛くて居心地悪い。まぁ『混族』というだけでそれくらいの待遇はごく当たり前なんだが。逆にこんなソファに座っているのが居心地悪い。座り心地はいい癖に」

「と、とりあえずここで待機していろ。結論が出るまで長引くなら食事も出るかもしれんが……」

「……そこら辺の雑草で十分なんだが? あ、でも味の良し悪しに違いがあるからそこらへんを……」

「わ、分かった分かった。考慮してやる」

 部下は退室し、待機室にはギュールス一人が残った。

「……話が噛み合わない相手は初めてだ。報告はすべきだな……」

 全身から冷汗が出る思いをしながら部下は団長室へ戻る。一方ギュールスは。

「……で、このお茶をどうすればいいのか言われなかったが……」

 お茶の一杯で頭を悩ませていた。

 ──────────────

「団長、召し上げるよりも懲罰で呼び出しとは考えましたね」

「これならば呼び出された者は他の同業からも妬まれず、呼び出した我々も希望者が殺到し混乱することもありません。実に名案です」

「しかし彼に与える役割は我々の守備なのでしょう? 懲罰だろうが抜擢だろうがやることが変わらなければ、何かこの先傭兵達とに間で問題が起きそうな気がします」

「だが、彼はどんなに不利な状況になっても生還してきた。なりふり構わずな。孤軍奮闘で一騎当千の強者ぶりを発揮しているということじゃないか。そんな力の持ち主をただの捨て石扱いなどとんでもない話だ。我が国の損失だ。我々の前でもそれと同じことをやってもらえればよい」
 
 ロワーナが部下達と話をしている最中にドアからノックの音が聞こえる。
 彼女の入室の許可を得て入って来たのは、ギュールを待機室に案内した部下だった。

「ご苦労、ケイナ。彼の様子はどうだった?」

「それが……まともに生活することを周りが許さなかったと言いますか……。とにかく彼はある意味拗れすぎてますね」

 ロワーナからケイナと呼ばれた部下は、気が重そうに彼女に報告をする。

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