声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

369 運命の日 4

「消してよね……それ」
「ええーなんでですかぁ? 反応いいですよ〰。やっぱり女子高生声優の力は凄いですね〰」
「そんな事……ないです。きっとととのさんの力です」
「いやいや、先輩の顔にはモザイク入れてるから」

 それは私の顔がモザイク入れないほどにヤバいって事か!! とか普通なら、思うだろうが。私的にもそれは当然の処置だ。もしもモザイク入れなかったら、逆に運営の方からブロックされるかもしれない。

「別に必要ないと思いますけど……」
「いやいや、いいんだよ宮ちゃん」

 宮ちゃんはどうやら私がそこまでブサイクには見えてないらしい。でもね、私は知ってる。私は自他共認めるブサイクなのだ。それは今までの人生からももうわかってるし、否定しようもない。だって毎朝顔を洗う度に「なんだこのブサイク……ああ、私か」ってなって死にたくなるもん。
 まあ流石になれたけどね。だから下手に養護してくれなくていい。逆に悲しくなるからね。

 私達は駅から出て、道路を歩いてる。なんか気前よく浅野芽依が温かい飲み物をおごってくれるというので、それを手に抱えて、温まりながら目的地を目指してた。

「宮ちゃんは……誰を狙ってるの?」
「私は桜ちゃんです。年も近いですし、一番いいかなって。でも一応レインちゃんも練習してます」
「ちょっと桜じゃ、私に被るじゃない。レインの方にしてよ」
「ええーと」
「やめなさい……それは自由なことだから」

 浅野芽依が先輩風を吹かせて宮ちゃんを脅してるから、私がそれを止める。まあ本気ではないだろうけど……ないよね? でも実際、宮ちゃんが女子高生役をやるとなると、不利にはなるよね。
 声に歳は関係ない――それは大前提としてある。でも女子高生が女子高生役をやるってなんかイメージ的にいい感じはある。それに宮ちゃんは今勢いがあるし、何よりもビジュアルもなんとなく桜に……

「もしかして……そのリボン」
「えへへ、私そのキャラにシンクロさせると役に入り込みやすい気がするんですよ。どうですか?」

 うん、めっちゃ可愛い。今日宮ちゃんがしてるリボンはよく見ると、劇中の桜ちゃんがつけてるリボンと似てた。どうやら、自分で似てるリボンを探してつけてきたみたいだ。
 でも確かにそのキャラに自分を近づける人ってのはいる。てか俳優とか役者関係には多いよね。声優は声だけだから、そこまでやる必要はないけど……役に近づくって努力は大事だしね。それにこういうちょっとしたポイント案外制作側は見てたりする。
 でも……

 (宮ちゃんが可愛いから好印象なんだよね)

 可愛いは偉大だ。宮ちゃんにはとてもリボンが似合ってる。実際高校生にもなってリボンつけてる子なんて少ないだろうけど、宮ちゃんなら全然いけてる。でもこれを私がするとどうか……絶対にイタイ奴だ。その顔で? とか思われる。
 人は印象で強くその人を固定する。まあそれはいいよ。なにせそのギャップを私は使ってるし。私はこんなんだ。可愛くもなく、女らしさもない。
 だから私の印象は悪いだろう。最近はまだマシになったとおもうけど、そこまで好印象を持たれることはない。けど、だからこそ、私の声にはインパクトがある。

 こんな私から素晴らしい声が出る。それはとても印象に残るのだ。宮ちゃんは羨ましい。けど、だからって負けないよ。

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