声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

367 運命の日 2

「そうなんだ……そっちでも色々と揉めたんだね」
「ととのさんの事務所でもですか?」
「うん……まあ……ね」

 宮ちゃんと合流して、私達は二人でオーディション会場になる場所を目指してる。都内の方に来たけど、一番の都会って場所とは実はちょっと違う。宮ちゃんの乗り換えの関係でここで合流しただけだ。
 ちょっと郊外のほうへ行くことになる。宮ちゃんとこうやって直接会うのも久しぶりだ。一応連絡は取り合ってるけど、二人共そんななんでも言い綴るなんて事はしないからね。
 色々と吹っ切れた宮ちゃんはそれこそ、お仕事もどんどん受かってる状況だとは聞いてる。可愛くて、素直で、そして女子高生……強い……強すぎる。若さは眩しいっていうけど、宮ちゃんを見てると本当だなって思う。みずみずしい肌に、なんかキラキラに見えるロングの髪。私も長いが……これでも短くしたけどさ、なんか彼女の髪が絹だとすると、私の髪なんて竹箒の様。実際、それくらい違う。
 もうなんか体にある水分の量が違うよね。

 わたしなんか、既に干からび始めてると感じる。

「でも流石だね。宮ちゃんはちゃんと選ばれたんだね」
「私なんかでいいのかなって思いますけどね。皆さん個性があって素敵な方たちばかりですから」

 いい子! どっかの引っ掻き回すしかしない後輩とは違うなぁ。進んで混沌を振りまいて行く浅野芽依の奴にも少しはこの殊勝さを見習ってもらいたいものだ。

「そっちは最終的にどうしたの?」
「投票制ですね。自分以外の二名の名前を書いて投票しました」
「なるほど……」

 でもそれって先輩が票を集めたりできるんじゃない? でも、結果的には宮ちゃんが選ばれてるんだよね? そういう事はなかったと言うことか? 健全だね。

「もう一人の人は?」
「私と同期の人なんですけど……私の事は嫌いみたいで」

 なるほどね。まあ多分宮ちゃんって速攻で売れてるタイプだもんね。同期に取ってはうらやまけしからん感じだもんね。なかなかいい感情を持ちにくいか。てか、どっちも若い人にチャンスを回してるのか……なかなかに健全だね。こっちはベテランが出てきたけど……

「だ、誰も意を唱えなかった……の?」

 あんまり突っ込むのはなヤバいかもしれないけど、そんな綺麗な会社があってたまるっかっていう思いが私にはある。なので、ついつい聞いてしまった。

「直接は何も。でも何か裏で力が働いたっては言われます。なにせ開票は別に皆の前で行われたわけではないですから」

 なるほど……確かにそれは会社側が何かできそう。そこは宮ちゃんも思う所がありそうだ。

「でも、私は遠慮ばかりはしません。わたし、ととのさんの場所まで行きたいですから! 目標なんです」
「いや……それは……」

 落ちてるよ! 私の場所、遥か下だからね!? いや、こんな純粋ないい子にそう言って貰えるのは嬉しい
 真っ直ぐに見据えられると恥ずかしいけどね。スタジオへの一番の最寄り駅に到着すると、今度はあんまり聞きたくない声が私達二人にかけられる。

「あれ〰先輩じゃないですか。奇遇ですね」

 嫌味と共に現れたのは浅野芽依のやつだった。

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