声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

362 目的のためなら、頑張れる

 自分は今、考えていた。制作は動き出した。他の会社からも妨害はそれほどなくなったから、今はスムーズにやれてる。それに大筋は酒井武雄と話し合って、納得ができてる。
 
 ストーリーに大幅な変更はなく、基本は原作を準拠してつくられる。けどやっぱりアニメ的な盛り上がりって事は必要だ。今回のアニメは一クール。つまりは12話予定だから、その最終3話くらいは盛り上がりがほしいとのこと。

 第二期も考えれば、整合性を崩す訳にはいかない。本当ならそこらへんの構成を考えるのは構成作家とかなんだろうが……なんかめっちゃ自分が口出してる。本当の現場ではこういう原作者はきっと嫌われるだろう。

 なにせアニメ畑に入っているわけだしな。けど色々と足りてない今の武雄スタジオでは文句言われない。むしろありがたがられてるくらいだ。作家というのはなかなかに自由が効く職業だったのがよかった。
 
 それに自分は次から次へと本を出さないと食うのに困る……というほどでもない。贅沢をしなければ、それこそ印税だけでも生活できるくらいには収入はある。
 まあ自分は書いてないと居られない人間だから、コンスタントに本を出してる訳だが……常に書いてるから、少しサボっても平気だ。とりあえず進んでるプロジェクトに影響をしない範囲でアニメに関わってれば、文句は言われないたろう。
 
 ならそんな自分が何に悩むのか……それはどれが匙川さんに最適かと言うことだ。実際彼女なら、なんでも上手くやれるだろう。けど……彼女は……うん、まあ……見た目はよくない。最近の声優の顔面偏差値的に、彼女は赤点というか……自分的にはそんなの全然関係ない。
 彼女の声とそして技術は声優でも最高峰だろう。でも……どのアニメでもそうだが、顔がある一定の水準以上でないと採用されにくい。それはこの業界がイベントとかで荒稼ぎしてるからだ。

 アニメは声優を売り出すための道具……そんな風に考えてる事務所だって……あるかもしれない。まあ武雄スタジオはそんなんではないが……でも彼は頑固だ。

 自分が匙川さんを押したとしても、あの人は自分が納得しなかったら絶対に西洋なんてしないだろう。まあそこは頑張ってもらうしかないとして……一応今回の製作委員会はそこまで多角的ではない。
 自分もポケットマネーからだしてるし、一番金を出してもらったのは、自分の本を出してる出版社だ。だからそこらへんはきっと説得出来るだろう。

 でも他の出資者だって無視は出来ない。

「また接待か……」

 そんな言葉は覇気がなく消えていく。いやだって……あれって大変だし、精神が……な。自分はそんな事を思いつつ、スマホを見て、彼女の名前をだす。

「オーディションには来てくれるんだろうか?」

 よく考えたら、裏で彼女の事務所に圧力……ではなくそれとなくお願いして彼女を優先的にって事をするのを忘れてた。なんか不安になってきたから、それとなく、LINEで聞いてみる事にした。

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