声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

348 ズルをするって事

「あらあら、幸運なお二人じゃない」
「……どうも……おはよう御座います、北大路さん、登園さん」
「おはようですお二人共。お元気ですか?」
「あんた、煽ってるの?」
「ええーそんなただの挨拶じゃないですか〰。被害妄想はやめてくださいよ〰。公平なクジな結果じゃないですかぁ〰」
「そうね、公平なクジな結果は仕方ないわよね。本当にそうなら……だけど」

 そういって北大路さんは浅野芽依をギロッと睨む。けどぞれを涼しく受け流してる浅野芽依は流石だ。だって北大路さんは普段はとても細い糸目してる。それを開く時……それは余程の事があるときだ。先日も見たけど、あれだってそれほどの事だった。そんな開眼を間近で受けて、同様一つ見せないとか、どんだけ心臓強いのよこいつ。逆に私はブルブル震えてた。

「ちょっとやめて上げて、ほらととのが怯えてる」
「あら、ごめんなさいね。貴方はおめでとう。素直にそう言えるわ」
「同じオールドのカテゴリだからですか?」

 ピキ――という空気に亀裂が入る様な音が聞こえた気がした。こいつは本当に爆弾を投下してくるね。絶対にわざとでしょ。こいつの場合は天然なんていいわけ効かないよ。なにせ本性知ってるからね。こいつは周りの空気を読むことに長けてる。わざわざ地雷を踏むなんて事は、踏み抜く気があるから踏ん出るんだ。

「お、オールドって……」

 やばい、北大路さんがわなわな震えてらっしゃる。なんとか我慢して私に祝福の言葉をくれたのに……それに水をぶっかけるような事を浅野芽依がいうから……てか私の良心もずたずただけどね。まさかオーディションに行けるだけでこんなにも精神が痛むなんて……なにせ北大路さんも登園さんも純粋にあがいてる。それは私と全く同じなんだ。そんな二人にズルして私はオーディションへと行く権利を奪った。

(いやいや、ズルじゃないから)

 そうだった。あれは不可抗力。私にその意思はなかった。だから私が罪悪感を覚える必要はない。ないったらない。私はそう心で言って、心の平穏を保つ。

「はーふーはーふー」

 呼吸も整えて……

「大丈夫? 北大路さん、抑えてその目強烈なんですから」
「登園……あんたまで……悪かったわよ。私は貴女の事はちゃんと応援してるのよ。ただ礼儀知らずな奴が嫌いなだけ」
「ひゅっ――」

 北大路さんが私に向かって謝罪して来たことで、私の心臓が逆に鷲掴みにされた。なんとか収めようとしてた罪悪感で私の心臓は握りつぶされそうだった。

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