声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

334 同じ舞台に立つ資格

 私と浅野芽依、そして向こうは北大路さんと登園さん。それぞれが火花をバチバチと飛ばす。

(ああ~、これっていつまでにらみつけてないといけないの? 目が乾燥してきちゃうよ……そのせいで涙が……でも皆、目を逸らさないし……私だけ逸らしたら、脱落……)

 そんな気持ちになって私もずっと二人と視線をぶつけてる。誰か何かこれを止めるきっかけをくださいって思ってるのは私だけなのだろうか? そう思ってると、なんか場にそぐわない軽そうな声がした。

「えっと、それなら俺の担当の子達にだって受けさせたいっす! チャンスなんだし!」
「おい、ややこしくするなよ!」
「そうだぞ。お前は黙ってろ!!」
「ええーでもでも、チャンスなんすよ! 先輩達だって自分の担当、売れっ子にさせたいじゃないっすか!!」

 何故か声優同士の戦いをやってると、マネージャー達も言い争うに様になってしまった。いや、私達が来る前は多分、マネージャー同士で、誰を行かせるかって話し合いをしてたはずだろうし、最初に戻ったみたいな? でも待って……確か北大路さんと登園さんは最初から居たはずだよね。なら私達がいなかった場合は、普通にこの二人の圧力に負けてたのでは? それは次の言葉で確かになった。

「だって、あの二人にだって可能性があるのなら、俺が担当してる子達にだって可能性があっても良いじゃないですか! 皆さんもそう思ってるんじゃないですか?」

 そういう一年目の様なマネージャーの言葉に他の人達も「うぐっ」ってな感じになってる。それはそうだろう。だって誰だって、自分の担当を売れさせたいと思ってるはずだ。てかそうじゃないと、声優はマネージャーを信用できない。同じ会社だけど、誰だって自分が売れたいって声優は思ってる。なにせどんどん新人が出てくる業界だ。だからこそ時間は大切。そんな時間を無駄にしないためにも、マネージャーというパートナーは大切だ。

 自分の事を一番に思ってくれないと……やっていける訳はない。だからあの新人っぽい人は、ある意味で担当の声優に取っては良いマネージャーなんだろうなって思う。勿論他の人達だって頑張ってるのは知ってる。この会社は声優をちゃんと大切にしてるし。大手ともなると、一人のマネージャーで数十人とか担当してて、一人一人に寄り添ってない……とかはざらにあるらしいから。それに比べたら、ここ『ウイングイメージ』は声優とマネージャーの関係は良好だと思う。

「ちょちょっと待ってくださいよ~! ここ!! ここに来ないような熱意ない人達は良いんじゃないんですかね? 流石に最低限の行動力って必要ではないでしょうか?」

 浅野芽依がこれ以上ライバルが増えるのを止めようとしてる。流石……だ。流石自分のライバルは成るべく蹴り落とそうとする奴。一応そこまでやな感じを出さないようにしてるのが外面使ってるね。

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