声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

322 運命を感じちゃった

「はいもしもし」
『来たぞ! 今しがた、新たなオーディションの開催の報せが届いた』

 マネージャーが興奮した感じでそう告げる。珍しい。この人はいつもどっちかと言うとダウナー系なのに……まあそれでもちゃんと仕事をする人だし、私も信頼してる。オーディション……何か良さそうなのなら、連絡をお願いしてた。と言うことはこの連絡はその有望なオーディションって事だ。私はグデーとしてた姿勢を正す。別に見えてなんかないが、なんとなくだ。畳に正座してスマホに向かって喋る。

「そのオーディションって……」
『これはかなり競争率が高くなる事が見て取れるオーディションだ。それだけ原作が話題性高い奴だからな……』
「あの人の原作って事ですか?」
『多分お前が想像してるあの人だ』

 それで私は心がドクンと波打った気がした。これがもしかしたら恋をする感覚って奴だろうか? わからないけど、鼓動が早いからきっとそうだ。だってこんな心温かいドクンはそうそうない。まあ勿論先生に対して高鳴ってる訳じゃない。私の今のこの鼓動は、この時、この時間、そしてこの時期に先生の作品のオーディションが開かれるその運命に関してだ。内容? そんなのはとりあえず聞かない。速攻で次の言葉が出てきた。

「やります! やらせてください!!」

 色々と慎重にやるって言ってたんだけど……私に迷いはなかった。なにせ先生の原作なら、安心だって私は考えてたんだ。それがきたって事はもう迷う必要なんてないんだ。

『ヤル気は十分と言う事だな』
「勿論です」

 ここで行かないと女じゃない。というか声優じゃない。先生の作品なら話題性だってバッチリだ。私は次で声優として誰もに認められないといけない。それこそ今妨害してるクアンテッドの妨害を物ともしない程度にだ。私を使わせたい……そんな風に思わせてる声優にならないといけない。それには売れる必要がある。作品が……ね。私には話題が必要なんだ。

『だが一つ言っておくが、これはいつもの先生の作品のやり方じゃない』
「どういう事ですか?」

 マネージャーが何を言ってるのかよくわからない。でも何か懸念があるのだろう。それはどうやら先生の作品は沢山のスタジオとかで取り合いをしてるから、色々と決まりがあるということ。でも今回の突然のアニメ製作はそういうのを無視してる……みたいな? なるほど、確かに先生の作品は色んなところが奪い合いをしてるだろう。それをしないための仕組みがあったけど、今回はそれから外れてると……確かになにかきな臭い……でも私ははっきり言うよ。

「それでも、私はやります! オーディション、受けさせてください!!」

 それは既に心で決まってる。なにせ私はこのオーディションに運命――感じちゃってるんだから。

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