声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

306 大企業ほど人を使うのが上手いのです

「頑張ってください! 連絡くださいね。絶対ですよ!」
「わ、わかったから」

 なんで絆ちゃんがこんなに私にくっついてくるかわからない。もしかして大室社長からそんな支持が? とか思いつつ、ブースにはいる。クアンテッドでやる仕事は、本当に静川秋華の身代わりの仕事だ。これってやり続けてると、自分の首も絞める事になるよね。

 流石にクアンテッドがそれを使って私を脅してくるとは思わないけど……でも一応それは私の手にもあるカードなんだよね。だって私はファンを騙してる訳で……それはバレるととても不味い事になる。でもそれは私だけじゃない。クアンテッドという会社にだってダメージはある。
 まあそれでクアンテッドが潰れる事はないだろうけど。でもきっと私は潰れることになる。匙川ととのという声優は多分終わる。ダメージの度合いで言えば、私の方が大きい。でもそれはきっと最終手段。こっちにとってもあっちにとってもだ。
 だから今は、考えない。悪い事を考えるとドツボにハマっていくのが私だ。今はどうやってここに絡められないようにして手を引くか……なんだけど、どんどんと絡められてる自覚はある。

 ブースに入ると原稿を渡される。ここでは大体クアンテッドの声優達と絡んでラジオ収録だ。クアンテッド的には、わざわざ外の関係者がいないのに、静川秋華を毎回使うのは非効率的なんだろう。でもね……

「「「おねがいしまー……」」」

 入ってきた新人さん達が私を見て動きを止める。毎回こうなんですけど……でもそれはそうだよね。なにせ、彼女達は静川秋華とラジオ出来ると思ってきてるんだ。そこにブサイクな女がマイク前で待ってたらどうか? がっかりにも程がある。私もきっと逆の立場ならそう思うだろう。でも……でもね。クアンテッドの人達は言ってても良くない? 別にここに来る声優達は皆この事務所所属だし、きっと契約で私の事を口外しないようにってしてるだろう。
 なら、事前に言っておいて欲しい。絆ちゃんの報告では、クアンテッドの新人さんの中で幽霊が静川秋華の代わりにくるって話題になってるようだ。だからか……今来た子達も……

「うわっ……マジじゃん」
「ええー外れかー」

 とか言ってる。三人目の子に関しては震えて泣き出しそう。そんなに私はこわいかな? 怖いというよりは不気味なんだろうけど。でもこれでも前よりは全然まともになってるんだけど……前は本当に怨霊とか言われても文句言えなかった。でも今は一応人には見える筈。

「それでは始めますよ~。早く席に着いてください」

 対面のテーブルに彼女達はつく。二人は友達なのかめっちゃ私を見て笑ってるけど、後の一人は私を見て涙目になってる……こっちも泣きそうだよ。でもこれはお仕事だ。私はiPadを自分の机側に置いてる。台本もあるけど、iPadも……ね。ここでの仕事はただラジオをこなすだけでもなんか最近なくなってる。私達は、彼女達を品定めもしてるのだ。
 クアンテッドの意向でね。めっちゃ染まってるね私。

「声の神に顔はいらない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く