声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

292 恨み恨まれ世は回る

「社長、これ以上条件を厳しくされたら、うちではもう……」
「んな事はわかってる! まさか、俺達を落とすために条件を厳しくしてるんじゃ……」

 そんなことを疑いたくなる程に先生の作品の映像化は基準がしっかりしてる。本当は俺達を落とす為に、この話を無かった事にするために色々と条件を突きつけてきてる訳じゃないってのはわかってる。俺達が向こうが求めてる最低条件を満たしてないからなんだ。
 先生からのオーケーが出たら一気にアニメを作る作業にかかれると思ってたが、そんな甘くはない。寧ろこのままではこの話はおじゃんだ。空中分解だ。弱小アニメ会社が夢を持ちすぎて、どうしようもなくてそのまま瓦解……そんな業界の笑い話が一つ増えるだけになる。

「資金繰りがもう……これ以上スタッフを増やす事もできないし……発注だって、今の状況ではどこも……」

 俺達の会社はスタップが少ない。会社内だけではアニメを完成させる事なんてできない。ならフリーや別の会社に発注しないとだが……それをどれだけ確保できるかもその会社の力だ。そして……元請けなんてやった事無い俺達はそこも弱い。

 仕事を受ける側だって、本当に仕事になるかわからない話しよりも確実にお金になる仕事を取るだろう。そういう物だ。なにせ相手側だって食べて行かないと、食わせていかないといけないんだから。そんな時だ。スマホがなった。

 そこに表示された画面を見て顔をしかめる。

「どうしました?」
「いや、奴だ」
「なるほど……でもそれはチャンスかもしれません」
「何?」

 野村の奴がそんな事をいってくる。チャンス? 食い散らかされるぞ……知ってる筈だ。俺は鋭い視線を向ける。けど、いつもおどおどしてる野村が今は真っ直ぐにこっちを見てた。

「このままじゃ、どうしようもない……だがどこかと共同なら……まだチャンスがあります」
「奴と手を取り合えってのか!?」

 奴が俺達に何をしたか……忘れた訳じゃないだろうな? なんでこんな風に俺達がにっちもさっちも行かなくなってるか……それはもとはと言えばあの野郎が……スマホはまだ鳴ってる。既に三十秒は無視してると思うが……絶対に出る――とでも踏んでるのか、スマホが鳴り止む気配はない。

 すると野村の奴が机に置いてた俺のスマホに手を伸ばして通話のアイコンを押しやがった。このまま話してても拉致があかないって思ったんだろう。

『よう、タケ面白い事、してるようじゃないか』

 スマホのスピーカーに乗って聞こえてくるそんな言葉……絶対に電話の向こうでこの野郎がニヤニヤとしてるのが目に浮かぶ。俺はとりあえずぶっきらぼうに「何の事だ?」と返した。

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