声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

271 行き成り妙なこだわりを持たれても

 後半の収録も始まって順調に進んでる。でもそんな中だ。順調だった収録に待ったをかける存在がいた。

「もういっかい今の所いいですか?」

 それは静川秋華だ。あいつがそんな事を言うなんて珍しい。あいつはやる事はちゃんとやるけど、それは真面目……とかとは違う。自分の評価が下がるのが嫌なだけで、声優の仕事は出来るならさっさと終わらせたいって思ってる。毎日の仕事は消化するだけ……みたいな? そんな静川秋華が今の事をいうなんて……ちょっと信じられない。

 そしてそれは周囲の人達もそうなのか、ちょっとだけ時が止まったかのようになった。

「いいですか? ダメですか?」
『あ……ああ、何か気に入らないところでも?』

 私達の隣の部屋で音を確認してる音響監督さんがちょっとしどろもどろに成りながらそういった。静川秋華はにっこり笑ってこういうよ。

「ちょっとだけ……なんだか気になって。ごめんなさい」

 気になる? 自分と言う存在に自信しか無いような人間が静川秋華である。こいつは自分の容姿……だけじゃなく、全てに自信があるから顧みるとかしないと思ってた。一体どういう心境の変化なのか……まあけど、別にこれ自体はそんな珍しい事じゃない。普通は向こう側で聞いてる人達から指示が出て、それを何度も納得出来る形になるまでやるってのが定番だけど、こだわりが強い声優とかも自分の演技に納得出来ない事はよくある事だ。

 私はというと、こんな皆さんの手を煩わせるような事は言い出せないので、なるべく一発で完璧を目指す。勿論何か言われたら向こうが納得するまでやるけど、私は今までそんなに時間かけた事は……うんあったや。先生のアニメの時に、そこら辺の自信は砕かれた。
 まあだから何か自分の台詞の時になにか言われるってのが、ちょっと怖くなってる部分はある。トラウマという奴かも。でもこの現場でも私は大体何か言われるってことはない。そしてそれは静川秋華もそうだったんだけどな。

 それから何回か静川秋華は台詞を言ってる。ニュアンスを変えたりだ。流石に声を行き成り変えるなんてキャラ的に出来ないから、言葉のニュアンスを変えてよりよくなるようにしてる。あいつにしてはあり得ない位こだわるね。

 終いには台本片手に、個々までの主人公の行動の流れて気にどういう心情なのか、監督と話してる。

(別人?)

 休憩の時に静川秋華の別人に入れ替わったのでは? と思った。声は私が代わりをやってるし、本人に変わり身が居たっておかしくない……かもしれない。流石にあれだけ見た目完璧に同じって流石にあり得ないけど、でも静川秋華をしってる私としてはそのくらい違和感がある。

「ととの」

 何やら呼ばれた。皆さんの視線が私に集中する。やめてくれないかな私を巻き込むの。一人では何やら掴みづらいのか、とりあえず私も付き合うことに。なんだか今日の収録は長くなりそうな予感がした。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品