声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

269 やっぱり声優って楽しい

 アニメの現場で静川秋華と打ち合わせをする。ようやく第一クールで我が身を犠牲にした私のキャラが戻ってきてその現場でもやる事が多くなってきた。元々私と静川秋華は二人一組だったからこの現場では一緒に居ることが多い。静川秋華が私に話しかけるからこの現場では私もそれなりに他の人とも話せる様になった。
 そもそも皆さん、結構静川秋華目当てだけどね。静川秋華が私に真っ先に話しかけるから、私は静川秋華と仲が良い……とか思われてて、なんか橋渡し的な使われ方をしてる気はする。まあちょっと立つと、私とじゃなく、皆静川秋華だけ話すんだけどね。だから結局、私はなかなかにぼっちしてるけど、今までの現場の中では一番連絡先を交換した人達が多いのも事実だ。

 そんな現場で二人で台本の確認をしてるとき「そろそろ本番行きまーす」とかいうスタッフの人の声で最初に台詞がある人達はマイクの前へ……勿論主役である静川秋華もマイクへと向かう。けどその時、静川秋華はいった。

「そういえばおばさんに聞いたよ。ととのの事、かなり気に入ってるみたい」

 とかなんとかいわれた。いやいや、このタイミングで言わないでよ。気に入ってるって普通なら喜ばしい事だろう。なにせクアンテッドの社長の大室社長がそう言ってたって事は普通なら良い事だ。でも私の状況の場合……そうでもない。それとも……移籍とかしちゃえば、クアンテッドの後ろ盾をえられるんだろうか? でもクアンテッドに行くと、私の役目は既に決まってる気がするんだよね。

 大室社長が気に入ってるのは、私というか、影になれる存在だと思う。今まで大室社長と話してきてそれは充分に感じてる。私が内部で色々と悩んでる間に、収録は始まる。私は雑念を払い堕として、現場に集中する。

 流石に予算潤沢に使ってあるアニメは私達の収録の時から既に絵に色が乗ってる。台詞が進むにつれて、マイクの前はめまぐるしく入れ替わっていく。でも中心に居る静川秋華が動く事は無い。私もそれなりに台詞は多いけど、流石にずっとマイクに張り付く程じゃない。でも座る暇もない。私は常にマイクの側で回転するように台詞を回していく。

(でも、やっぱりいいな)

 こうやって誰のかわりでもない。自分自身の声をちゃんと出せるのは気持ちいい。なにせ最近は静川秋華の代わりが多かったからね。そうなると出す声は静川秋華の声ばかりになる。それにも最初は楽しいけど、そればかりをもとめらると、たまる物がある。そのたまった物を私のこの収録にぶつけてた。

 静川秋華と並んで台詞を台詞を繋いでいく。チラリと向けた視線が静川秋華の視線とぶつかる。静川秋華が何やら片目をパチパチとしてる。なんだってのよ。確かに……楽しいけどね!

「声の神に顔はいらない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く