声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

261 本物の声優ってなんだろう?

「本当にダメだと思ったら相談してほしい。クアンテッドから来る仕事は断る様にするから」
「そんな事をして大丈夫ですか?」
「そもそもか、空いた時間でってことだったんだ。断ることは悪い事じゃない。うん……」

 そういう社長の面持ちはかなり青い。絶対にヤバい奴だよこれ。クアンテッドとこの事務所ウイングイメージは大きな隔たりがある。今は私にしか影響とか無い……でも……もしかしたら大室社長がやろうと思えば、この会著を狙い撃ち……とか出来るのでは? 
 そんなクソみたいな事……実際あったらダメなんだろうけど、でもこの社会ではそういうクソなことは往々に行われてることだ。そしてあの大室社長はそんなことをしそうな印象がある。中堅とは言っても、この事務所にだってそれなりの声優が所属してる。私のせいでその人達にまで影響が出るかも……そんな事を考えたら下手に静川秋華から回されてくる仕事を断るなんて事は出来ない。

「とりあえずもっと私がオーデションに浮かれば相対的にクアンテッドの仕事は減るはず……ですよね?」
「だが、オーデションなんてそもそもが狭き門だ。そこにクアンテッドの妨害が入るとなると……」

 マネージャーが深刻な面持ちで眉をしかめる。でもそうなんだよね。そもそもが狭い門であるオーデションで更に妨害が入ってるとなると……それはとても厳しい。それに私は顔出しNGだし、出資者側としても私は扱いづらいだろう。

 今のこの業界、どれだけ顔出してファンを獲得してそして自分自身の高めていくか……だ。私はキャラ事に人気を獲得していくしかない。そしてそれでも顔出しはしない……頭打ちか見えてる。それでもクオリティとかを求める作品は使ってくれるかもだが……この業界はいつだって厳しい。予算はいつだってカツカツ。どれでも……とは言わないが、大半の作品はそうだろう。

 そうなると……ね。でも……私はそんなのわかってた事だ。わかってて、声優の道を選んだ。

「このまま、本当にオーデションに受からないとなれば、君にオーデションは回せなくなる。受からない声優にはオーデションは回せないからな」
「わかってます……」

 事務所だって所属してる声優を売り込みたいからオーデションにいかせるんだ。その作品で事務所の声優が役を勝ち取ると繋がりが出来るし、次に繋がっていく。じゃあ絶対に受からない声優に、そんなオーデションの限られた枠を回すかと言えば……そんな訳ない。

 私は今は波が来てた、だから優先的にオーデションを回せて貰ってたけど、この時期に一個もオーデションに勝てないとなると……終わりだ。私の声優生命はここまでって事になる。そうなると……後はもう引退か……それそこクアンテッドの犬に成り果てるしかない。それでも声優……ではあるかも知れない……引退するくらいなら……とも思う。
 でも今はまだ折り合いは付かないわけで……それにそれは自分で進むことを止めたって事でもある気がする。それが本当に本物の声優なのか……わかんないし。だから私は二人にいうよ。今までに無い、人生初の強い声で。

「勝ち取って見せます。この声で……だからオーデションを回してください」

 私は誠心誠意頭をさげた。

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