声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

251 女が五人も集まるとかしましい

「匙川ととの……そうか、あの最悪のアニメ崩壊になった作品に出てた唯一の声優か」
「え? ちょっと待ってください」
「そう言えばそんな名前だったような……」

 『馬渡 佳子』『東山 未来』『田中 一』の三人は私の事を調べ始めた。いや、馬渡佳子さんは私の方を興味深そうに見てるんだけどね。止めて欲しい、めっちゃギラギラしてて、なんか身の危険を感じる。この人、もしかしてアブノーマル? いや、でもそういう人って大体、可愛い女の子が好きな物じゃない? 私はお世辞にも全然可愛くないからね。そういうアブノーマルな人達の対象にはならないはず……だ。

「うわ……本当だ……キャストに匙川ととのって、てか全然検索しても画像とか一切無いのって……」

 止めてくれないかな? 東山未来ちゃんは私を見て「納得」みたいな顔してる。別に言葉にしなくても傷つくんだよ? てか言いたいことは表情でわかるんだよ? 

「そっか……本当にあのアニメの……声だけは最高だって言われてました……よね」

 んん? 田中一ちゃんは短めの髪で泣きぼくろがエロい子だ。この子の視線は、なんか熱い。うん、アツイよ。馬渡佳子さんの様に身の危険を感じるって訳ではないけど、なんかアツイ。

「そういう……声もあったかも知れないですね……」

 とりあえず無難な返答をしておいた。

「はいはい、あれって本当に一人で全部やってたんですか? 私信じられなくて」

 東山未来ちゃんはゆるふわカーブの髪をしてる子だ。日本人なんだろうけど、カラーコンタクトを入れてるのか、目玉が青い。まあけど合ってないのかと言われると別段そこまで違和感はない。可愛い部類に入る子だ。てかこの子、一番背が低いのにおっぱいは一番デカい。室内だからコートとかは脱いでるけどさ、それなりに厚みのある服を着てる訳じゃん。なのにめっちゃ盛り上がってる。丘――出来ちゃってる。

「んん」

 とりあえずおっぱいばっかり見てるのがバレるとヤバいから視線をグッと上げた。そこら辺、きっと彼女の様な巨乳な子は敏感な筈だ。私だって顔を笑われたりしたら直ぐにわかる。それと同じ筈。とりあえず質問には答えよう。それを信じる信じないかは彼女達次第だし……

「えっと……一人……でした」
「なるほど、あれだけ多彩な役を一人でやれるんだ。このくらいならどの役だってこなせるだろうね」

 馬渡佳子さんがなんかハードル上げてくる。いやいや、確かにやるだけなら、出来る。でも物にするとなると、やっぱり私だって数人を選んでそれらに焦点を絞るからね。あのアニメでは私しか声優がいなかったから、全部やるしかなかった訳だけど、オーデションに勝つには印象が必要だ。浅く広くよりも、深く狭くの方が心に届きやすい。
 器用さを見せつける事は今回のオーデションなら出来るかも知れないが、結局こっちが選んだ役をやるわけで、そして審査員は別にこっちの事情はわかってる訳ないし……そうなるとちゃんと何人かに絞ってやって方が絶対にいい。でも私はぶっつけ本番しかない。
 だからね……早く、今回のオーデションの事に話しを戻したいんだけど……皆さん、あのクソアニメの内部事情に花を咲かせてて、そして盛り上がってる会話を終わらせるなんて、陰キャな自分には無理だった。そしてそのまま、スタッフの人達に私達のグループは呼ばれる事になった。うう……結局、一回も台詞の声を出すことも出来なかったんですけど!? お腹痛くなってきた。

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