声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

250 だから真横から刺さないでって言ってるの!

「私はこの場合はこの役が良いです」
「私はこの子だな」 
「私はこの子ですけど、被りますね」
「被ったらジャンケンするしかないな」
「あの、匙川さんは? どれでもいいんですか?」
「はい、私はどの役でも……いいです。文句はいいません」

 四人の話し合いに私は全然入れない。何せ私は台本も持ってこなかったヤル気もない声優なのだ。いやヤル気はあるよ。でも端から見たらそういう風に写るだろう。ここにいる四人の声優……その内の二人くらいはかなり台本をボロボロにしてる。なんか馬渡佳子さんと緑山朝日ちゃんはそんなにボロボロしてない。まあボロボロの台本を持ってきてたら偉いわけでもない。ただ単に汚しちゃった――みたいな人もいるかもだし、二人はちゃんと綺麗に使ってるだけかも知れない。

「どの役をやっても、自信があるって事かな?」
「はえ?」

 なんか私の落ち着きのせいか、私が考えてたこととは全く逆の事を想ってたみたいだ。いや、これはただの探りか? 四人とも私の事なんかほぼ知らないだろうし……大人しくしてたのはただ単に私が人見知りだからだ。大体オーデションは個人の戦い……みたいな物だったのに、こんな風に団体で挑まないといけないなんて私的には吐き気がするくらいの事だ。でもそんな「うえー」なんて出来ないから、なるべく隅っこで小さくなっておこうかと……ただそれだけである。確かにある程度積極的になるように頑張ってるが、オーデション位良くない? ここは戦場だし、そして結果を求める為の場所だ。

 仲いい声優とかがいたら「きゃー久し振り~」とかやってる場所じゃない。辺りのグループからはかなりのお喋りが聞こえて来てる。悪い……なんて言わないが、一人一人の戦いではもっと緊張感を持ってる筈だ。でもグループを作った事で、女特有のお喋り力というか、そういうのが発揮されてる。一人一人なら、まだ声を潜める所なんだろうけど、五人も集まると、まるでどっかのカフェみたいになる。いや、カフェというかファミレスかな? まあようは結構五月蠅い。こいつら本当にオーデションに来た自覚があるのかな? いや、台本もない私が言えたことではないけど……とりあえず私は自分のグループであまり角は立てたくないからそんなことないって事を伝えないと。

「匙川先輩は最近も一人何十役って一つのアニメでやってましたもんね。しかも大人も子供も、女の子も男の子も、さらには老人と若者も全部でしたもんね」

 おい、同じ事務所なのに刃渡り長い包丁で切り刻んでくるのやめてくれない? 緑山朝日ちゃんの言葉に残りの三人がめっちゃギラついた目をしたからね。緑山朝日ちゃんは気付いてないだろうけど、三人の私の事を見る目が変わったから。そういうのに私は敏感なのだ。うう……すっごく興味もたれてるよ……。

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