声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

213 事件や事故って、後始末の方が難しい

「それで……何でマネージャーが?」

 私の所属してる事務所は大きくない。小さな事務所ではないが……ギリギリ小さくないっていうか、ギリギリ中くらいにいるって言うか……そろそろヒット出せる声優がいないと会社の規模が小さくなるかも……とか言う噂が流れるくらいに大変そうな事務所だ。だからこそ浅野芽衣の奴を必死に売り出してる。そうして更にヒットは続けさせることが大事だからこそ、今必死に声優の卵を抱えてるのだ。
 今はアニメブームみたいなものだ。深夜アニメは毎クール数十本のアニメが放映されてる。だからこそチャンスは沢山ある……筈だ。何せアニメが増えれば増えるほどに声優の需要は増えるはずだからだ。でも……そう上手くいかないのが現実だ。私の担当マネージャーも仕事に忙殺されるほどに働いてるが、声の仕事をちゃんとやれてる声優なんて片手で数える位。最近は仕事の幅をもっと増やそうとしてるが……そういうパイプは一朝一夕では増えない。だから更に大変そうだよね。声優志望はいくらでも入ってくるのに、事務所に入ってくる社会人はそんなにいないのだ。それに入って来たとしても止めていく。
 声優志望だって仕事がなくて止めていく方が多い。でもどうやら夢を持つ若者は止まらないのだ。良い事だけど……良い事だけど、それでこのマネージャーは忙殺されてるはずだ。なのにここに来てくれた。まあマネージャーだから、担当の声優が負傷したとあったら駆けつけないわけないよね。

「それは……まあ端的にいうと君のスマホで先生が連絡をしてきたんだ。君の番号で男の声が聞こえたから最初は耳を疑ったよ」

 その情報居る? 確かに私の番号から掛かってきたのに、出たら男の声が聞こえたら普通に驚くだろう。でもそれって……私のスマホから男が掛けてきたからなのか……私のスマホで男が出たからなのか……いや、ネガティブな事は考えるの止めよう。頭痛いし。

「先生が……直接病院には連絡しなかったんですね……」
「そうだな。だが、正しい判断だったと思う。おかげで色々と手を回せたしな」

 なるほど……確かにそういう考えも出来る。何せ先生も静川秋華も大物だ。きっとメディアでは先生のあのマンションを知ってる人達だっているだろう。張ってる人とかも居たかも知れない。先生が直接救急車を呼んだ場合、そこら辺色々とモロバレしたかも知れない。いや、モロバレというか状況だけできっとあること無いこと書かれる。それこそ先生と静川秋華の関係性がスキャンダルになる事は間違いないし、そこに私……と言う存在が居たと言う事がバレたら……それこそ痴情のもつれ……とか言われ兼ねなかった。

 私の外見の情報なんて無いから、一般人Aとか言われそうだけど……それでも女と言うことだけでも分かればマスコミは面白おかしく書くものだ。だってそれが仕事だし。

「スキャンダルには成ってないんですね……」
「今は……な」

 ナニその怖い言い方。まあでもこれ以上は私が情報漏洩を考えても仕方ない。もっと気になる事がある。

「静川さんの容体は?」
「頭の傷はそうでもないが……腕の方がな……片方折れてて、片方ヒビは入ってたそうだ」

 やっぱり……と思った。いやだってめっちゃ扉叩いてたもん。あんな細腕で……それこそどこにそんな力があったのって位の勢いだった。あれは折れてもおかしくない。まあけど、今は落ち着いてるらしい。いや、眠ってるだけらしいけどね。

「いいかしら?」
(誰?)

 なにやらお年を召した女性が扉をノックして入って来た。髪全体が白髪で皺だって顔には深く刻まれてる。けど……何だろう。覇気って奴を感じる。おばあさん? の見た目なのに、背筋はピシッと伸びてて、スーツを着こなしてるその姿はバリバリのキャリアウーマンだ。スーツ着てるし、お医者さん……ではないだろう。一体誰なのか私には分からない。けど向こうはじっとこちらを見てくる。
 ええ……何なの? 居心地が悪いよ。

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