声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

206 裸体が迫ってくる

「うん……う……」

 瞳を開けると知らない天井があった。私は上半身を起こして、周囲を見る。どこだろうか? なんか質の良さそうなベッドがちょっと間隔を開けて二つある。その一つを私が使ってるみたい。

「ホテル?」

 そんな気がした。隣のベッドはシワひとつなくベッドメイクされてるし、生活感のない家具が配置されてる。まさにホテルじゃん。モノトーンで統一されたなんかちょっとお高いホテルの様だ。

「でも……いつの間に?」

 チェックインした覚えはない。でもこんな広々とした場所が私の家な訳ない。うーん前後の記憶がない。一体なにが? そう思ってるとガチャっと扉が開いた。私は体を固めて毛布を抱き寄せた。一体誰が? とか思ってると、先生が顔を出した。

「良かった、目が覚めたみたいだね」
「せんせ−−っつ!?」

 私はその瞬間、脳内に裸体の先生がフラッシュバックして来た。私はあまりの恥ずかしさに、布団に潜り込む。

「ええ!? どうしたんだい!? まだどこか痛むとか?」
「ちっ……違うんです。そうじゃなくて……先生、服着てますか?」
「自分は変態じゃないよ」
「でもでも−−」

 私はどうしても先生の裸体が頭から離れないのだ。先生の普通の姿を想像しても、なぜか裸体が出て来しまう。チラッと先生を布団から顔を出してみる。

「やっぱり着てないじゃないですかあああああ!」
「着てるよ!?」

 そんなこと言っても、私には着てない様に見えるんだ。多分先生はちゃんと着てるんだと思う。けど私の脳がそれを着てないように見せてるんだ。私の脳どうしちゃったの!? きっと裸体のあまりの衝撃におかしくなったんだと思う。

「ごめん……自分のせいで」

 先生は優しい。別に先生は悪くないのに謝ってくれる。けどそれが心苦しいよ。それに私は「いいえ……」と言うしかできない。それに私は布団を被って向かい合うことが出来ない。だってどうしても先生を見ると、先生の裸体がフラッシュバックしてくるんだ。

 先生は何故かずっとベッドの側に居る。出て行ってくれると助かるんだけど……何で? 

「せんせーい、匙川さんどうですかー?」

 そういってパタパタと静川秋華が歩いてくる音がきこえた。

「せんせーい、匙川さんが起きないんなら二人で楽しみましょー」

 なんてことをめっちゃお気楽に言う奴だ。恥じらいという物が静川秋華にはないのか? そう思ってると、ダダッと先生が駆け出した。そしてガチャっと言う音。

「せんせーい――ん? ちょ!? 何で鍵掛けるんですか!? どういうつもりですか!!」

 何故かこの部屋は今この瞬間から密室になった。

(どういう事!?)

 私はベッドの中で震えるしかない。

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