声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

204 帰りたいけど、帰れない

 扉の前でなんやかんややってた私達だけど、私の「ハックション!」という色気もへったくれもないそんなくしゃみで中に入れてもらえることになった。お恥ずかしい……というか私は帰りたかった。だってもう私の役目終わったんじゃない? とか思ったし。

 確かに先生がこんなことになった理由は気になる。気になるけどさ……なんか静川秋華が帰れ――という空気を放ってる気がする。いや、そっちが連れてきたんでしょ!? 好きにはなったけど、そういう所はイヤだよ。静川秋華はやっぱりわがままだ。
 確かに告白してたし、先生と二人きりになると何かが起こるかも……とかいう期待が見え隠れしてるんだろう。私ならそんなこと微塵も思わないけどね。だって私と一緒に居て欲情する男がいるなんて思えない。けど静川秋華は美人だ。そしてあからさまに好意を示してる。
 普通の男なら、そのまま食べちゃうだろう。だって好意を示してる美女がかまわずに自分の家に入りこもうとしてるんだ。
 寧ろ男なら食べないと失礼だと思う場面。寧ろ静川秋華はそれ狙ってるよね。でも私も一緒に先生の部屋に居る。どうしてかというと、それは先生に懇願されたからだ。静川秋華には帰れって言う空気を醸し出されてたけど、先生からは帰らないでくれって言う空気を感じた。

 私や静川秋華が遠慮しても、先生が言うのなら私達は拒否できない。静川秋華は色々と私だけを帰す言い訳をしてたけど、もう仕事が終わったから私達は来てた。仕事の言い訳は出来なくて、急な仕事も私よりも静川秋華のほうが確率高い。
 なので静川秋華は私を帰すのを諦めたのだ。

 中に入ると、案外綺麗だった。どうやら先生が言うにはハウスクリーニングの人が来るかららしい。ハウスクリーニングなんて……さすがは金持ちは違う。まあこのマンションの部屋は私のワンルームの部屋とは部屋数が段違いだけどね。

 確かに一人でこんな家掃除してられないだろう。ワンルームのアパートとは違う。ワンルームの部屋なら一人で十分掃除できるからね。でもここはそうはいかない。何せリビングは何畳? 三十畳くらい? そして一つの部屋が私のアパートの部屋よりも広い。
 物はあまりなくてある家具もどれもセンスが良い。どうやらこの家、モノトーンがテーマらしい。白と黒の家具で揃えてある。リビングには私よりも大きなテレビがある。窓は大きく――というか側面全部外が見えるから、東京の風景が一望できる。

 もう少ししたら絶対に夜景がヤバい事に成るだろう。

「とりあえず先生、お風呂に入りましょう。匂いますよ」

 そう言って先生を勝手知ったるというように静川秋華がお風呂へと連れて行ってる。

「ん?」

 お風呂に入りましょう――って、まさかと思うけど、一緒に入る気じゃないよね? そんなことを思って廊下の方へと行くとなんか聞こえて来た。

「ちょ! 先生! 私はただ心配なだけで!」

 そんなことを言いながら静川秋華が脱衣所からつまみ出されてた。しかも下着姿で……何やってるんだか。

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