声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

193 上から見下げる者、下から見上げる者

 あのままあの場でってわけにもいかないから、私達はスタジオ近くのカフェに来てた。前にも来たことあるような……まあ其れよりも静川秋華の格好がアレだからか、注目を浴びまくってる。美女の着物姿だからね。なんか撮影でもやってるのか? 的な雰囲気がある。なんか無駄に所作が洗練されてるし。いや無駄じゃないか。
 無駄じゃないから、皆静川秋華にメロメロるなってる訳だしね。とりあえず私も静川秋華も紅茶を頼んだ。それを口に含む姿まで美しい。同じ女だけと……目の前の静川秋華に見蕩れてしまう。これが同じ女……同性なんだよ? 信じられない。まあ向こうもそう思ってる可能性はあるけどね。

 ごめんなさい、こんな女で。やっぱり静川秋華と居ると自分と比べて違いすぎて惨めになる。これで整形とかしての美しさなら、まだ救いはある。整形さえすれば私だって……という気持ちはあるからね。でも静川秋華は天然物だ。
 太刀打ち出来ない。神様の理不尽を呪うしかない。

「先生……」
「はい?」

 なにかボソッと静川秋華が言った様な? ちょっとよく聞こえなかった。

「先生と連絡取ってますか?」
「最近は全く」
「私もです」
「ええ?」

 まさか静川秋華もそうだとはおもわなかった。だって静川秋華は先生好き好きオーラ全開じゃん。いや外では出してないけどさ、絶対に執拗に電話とかラインとか送ってるタイプだと思ってた。

「それは送ってますよ。当然じゃないですか。一日に百は超えますね」
「それはブロックされてるんじゃ?」
「今まではそんなことなかったもん」

 なんか一気に子供っぽくなった静川秋華。さっきまでは憂いを帯びた和装美人だったんだけどね。けどこうやって色々と雰囲気が変わるのも彼女の魅力みたいな物だよね。てか先生はこんな粘着質な静川秋華にちゃんと耐尾ヴしてたんだ。偉い……けど其れが面倒になったんでは? 

「まあけど、私だけじゃなくて良かったです。これが私だけに連絡無くて、匙川さんには連絡あったら――」
「あ、あったら?」

 や、ヤバい、静川秋華の目がヤバい。なんか身の危険を感じる。まさか私が誰かに嫉妬される日が来るなんて……思ってもみなかった。だって私はずっと嫉妬してきた側だ。世間には持ってる人達が一杯だからね。そんな人達を私は常にうらやんできた。
 そして静川秋華はそんな持ってる側でも最上級といっても良い奴だ。その容姿もだし、もともと金持ちらしいし……もううらやむ要素しかない。

(でも、あんまり気持ちいい物じゃないね)

 優越感とかがあるのかも……と思ってたけど、身の危険しかないよ。静川秋華は虫も殺せない様な容姿してるくせに、そのうちには激しい激情を持ってる。そしてそれは先生という大将に百パーセント向いてる。ご愁傷様です。私はそう心で拝んだ。

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