声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

191 過剰な持ち上げは陰キャには御法度だよ!

「お上手ね、あなた」

 そう大御所声優さんから言われると、隠れ続ける事なんかできない。なので私は遠山飛鳥ちゃんの背中から姿を現す。てか自分の後輩に隠れるってそんな情けない事を晒してしまった。既に遅いかもしれないがとりあえずシャキッとしておこう。まあ静川秋華には恨みのこもった目線を送っておくけどね。
 でもそんなの彼女には通用しないみたい。なにせ涼しい顔でテを振ってるし。だから止めろよ。

「いえ、そんな……」
「あら、謙遜することじゃないわよ。私達は声優なのだから、その声に自信と誇りを持たないといけないんじゃなくて?」
「そ、そうですね」
「そうよ、昨今の声優は声よりも顔で売りだして嘆かわしいと思わない? ねえ、アナタならそう思うわよね?」

 ちょっと、その顔だけ声優とネット界隈ではもっぱら言われてる現声優界トップが後ろにいますよ。静川秋華は色んな声を出すタイプの声優じゃないからね。それでも自分の出来る範囲で声をアレンジして使い分けてるとは思う。

 それに単純に素に近い声は感情を乗せやすいってのがあるし、天性の間の取り方とか抑揚とか声の伸びは静川秋華は持ってる。だから顔だけなんてのはネット界隈嫉妬でしかないんだけど……まあ静川秋華の場合は美人女性声優って事で色々と出てるからね。

 声優なんだから声が一番大事だと思ってる一部の古い方々からは反発があるんだろう。この大御所声優さんは別にそこに属してる……とは思わない。なにせこの人も歳は取ってるが、美魔女と言える位には綺麗な人だ。

 多分……いや絶対に静川秋華が居るから、そんな話を振ってきてるよね? てか私ならわかるって……それは暗に私がブサイクと……いやその通りですけど! そして当然、昨今の声よりも顔が重視されるこの業界に恨み節あるけどね!!

「えっと……」
「確かにそうですよね!」

 うわ……私がモゴモゴしてると遠山飛鳥ちゃんが大御所声優さんに同意してた。てかこの子、ぐいぐい行くね。大丈夫? その人大御所声優さんだよ? なんかこの子、わかって無い気がする。

「おいこら、失礼だぞ」
「あら、良いのよ小南。どうぞ言ってやって、アナタの思いの丈を」
「はい! 昨今のこの業界は確かに顔が大事です。声優は昔は表に出る仕事じゃなかったのに、今や声優はアイドルとそんなに変わりません。だからこそ、容姿が大切で……でもこの匙川さんはそんな今の声優業界に一石を投じる偉大な、それはもう坂本龍馬の様な人なんです!!」
「へえー」

 いや本当にもう止めて……大御所声優さん、必死に笑うの我慢してるよ。決めた。この仕事以外で、遠山飛鳥ちゃんとは関わりません! だってこの子ある意味恐ろしいよ!!

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