声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

190 注目されるのは声だけで勘弁してください

 なんでこうなった……私はそう思わずにはいられない。私の周りにはそれなりの人が集まってる。そして何をやってるのか言うと――

「め、メエェェェ」
「似てる!」
「クエックエクエ」
「おお!」
「ワンワンキャンキャン」
「家の子っぽいです!」

 ――とかなんとか、声真似してるだけだ。其れなのに妙にウケがいい。私は卑屈だけど、褒められると調子に乗るタイプである。その自覚はある。最初ちょっとこの三人、五上院さんと小南さんと遠山飛鳥ちゃんとの話の中で、アニメとかでたまにガヤで動物の声なんか出すとかありますよねーとかいう話になった。ガヤなら、ただの録音とかを流せば良いんだけど(多分そうしてる所もある)でも、せっかく声優居るしそういう声もお願いされることだってあるのは確か。

 ガヤの中に混じって、適当に指名された声優の一人がそんな声をお願いされる。私は結構あった。なんかその時は私に人の声なんておこがましいのかなって思ったりもしたよね。でもおかげでどういう風に喉を使えばいいのかとか、研究したからね。
 ネットで今や調べられないことなんかないし、動画とかみると、レアな動物の鳴き声もある。色んな要求に応える為に、私は動物の鳴き声を沢山研究したのだ。

 そして今ここに、その成果が現れてる。褒められて求められて、私は動物の声をだしていた。

「そういえば匙川さんは役の機械的なビープ音とかも声で出してましたね」
「そうそう、アレはビックリしたよ。自然でね」
「まさか……どんな音でも出せる?」

 なにやら遠山飛鳥ちゃんと人気男性声優の方がそんな会話をしたら、皆さんの熱気が収まり、私の答えを守ってるみたいな雰囲気になってる。ええ? なんか期待されてる? ヤバい……めっちゃモジモジする。顔を上げれない。やっぱり前髪を分けて目を出すんじゃなかった。流石にこんなブスがこんなに注目されるなんて想定にないし……てか声優としてそんなことは誰でも……ね。

 私は声を出す代わりに首を縦に動かして応える。すると真っ先に動いたのは遠山飛鳥ちゃんだ。

「流石です匙川さん! 皆さん! 匙川さんはどんな声だって音だって出せる声優ですよ!!」
「「「「おおおーー」」」」

 いややめてホント。遠山飛鳥ちゃんには悪気なんて微塵もないってのがわかってるから言えないけど、止めてほしい。そんな事を思ってると一人の女性か「どんな声も……ね」と静かにいってその人の登場に周囲が道を空ける。モーゼか。だけど、彼女は大御所声優だ。こうなるのも納得。

 そしてその大御所声優さんは私を見てる。とりあえず私は遠山飛鳥ちゃんの後ろに隠れる。てか大御所声優さんの後ろには静川秋華もいるじゃん。止めなさいよ。あんたなら出来るでしょ。とか思うけど、そんな思いは通じずに、二人してこっち来る。

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