声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

186 会話が一番頭使うってわかった日

声の神に顔はいらない 186 

「匙川さんは第二クールもいるんですか?」
「え?」

 いきなりの五上院さんのそんな言葉に私はピシッと石みたいになった。だって……だってそれって、遠巻きに私なんてここに……この場に相応しくないって言ってるのでは? いや、遠回しというかもう直接かもしれない。

 五正院さんは黒髪清楚なお嬢様みたいなのに、その言葉の切れ味はかなりの物かも知れない。やっぱり私は嫌われてるのだろうか? まあやっぱりとか言ったけど、五正院さんと今日初めて会うし……その可能性は……ないとは言い切れない。

 なにせ私は初対面で嫌われるなんて事は、今までの人生で沢山経験してきたからだ。不細工は見た瞬間に嫌われる。そういう厳しい世間しか私はしらない。最近は優しさを感じるけど、学生時代とかは本当に……ね。私は体が震えるのを必死に我慢する。我慢するけど……もう崩れ落ちそうだ。でも、どういう事なのかくらいは聞かないと……だって今の私は前に進むと決めたのだ。
 この世界で……生きて行きたいと願ってる。

 ここで逃げたら、これまでの人生と一緒……私が嫌いな事を確定させることになるかも知れないけど、それでも私は「それって……どういう事ですか?」と聞いた。

「いえ、だって匙川さんのキャラは第一クールの山場でお亡くなりになりましたよね?」

 …………なんかすっと体の震えが止まった。なるほどね……うんうん、そういうことか。やっぱりこれまでの人生のせいで私は後ろ向きな考え方が染みついてるらしい。

「そうです……ね。でも大丈夫……なんです。ちゃんと……後半復活しますから……」
「なるほど。確かにあれだけ感動的に別れたのに、第二クールに入って直ぐに復活なんてしたら逆にたたかれそうですものね」
「う……ん」

 ヤバい……知らない人と話すの難しい。なんか言葉が出てこない。宮ちゃんはもっと楽なんだけどな。静川秋華とか浅野芽衣なんかは向こうから勝手に喋ってるから私は反応するだけでいいから楽なんだよね。でも初めて話す……そしてこちらから話しかけたのに、向こうに任せるなんて事は失礼ではないだろうか? 

 だから私自身が喋らないと……ただ頷くとか、相づちするだけじゃ、話なんて広がらない。

「あの演技、凄かったです! あのシーン、本当に機械に心が宿ってたみたいで……何度も見ても泣けるんですよね!!」
「あ、ありがとう……」

 ぐいぐい来る遠山飛鳥ちゃんはまだまだ止まらない。彼女は声優らしく、その口を高速で回して、私とヒロインだった静川秋華の演技の事をめっちゃ絶賛してくれる。それに自分の分析なんかも踏まえてる。その口はまるで機械なのかと思う位に流暢に回ってる。
 しかも息継ぎしてないような? だんだん遠山飛鳥ちゃんの顔が赤くなってるのは興奮してるからだよね? 決して酸欠なりかけてる訳じゃないよね? どうしたら良いのか……そんな事を思ってると遠山飛鳥ちゃんにチョップが落ちる。

「落ち着け飛鳥」

 小南さんのその機転でどうやら飛鳥ちゃんは酸欠でぶっ倒れるって事を防げたようだ。私はこれだけの時間で会話をするってなんて難しいんだって感じてた。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品