声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

169 頭ガンガン大晦日

 除夜の鐘が鳴り響く夜。私は部屋で「うーうー」とうなっていた。つい先日、散々たる状況だった限界ギリギリのアニメの放映が終わって、その打ち上げがあったのだ。その席で飲み過ぎた私は絶賛二日酔いだった。流石に色々と大変だったアニメだ。

 だから誰もがため込んでいたんだろう。皆のみに飲みまくってたから、その日の事を覚えてる人は居ないんじゃないだろうか? 時々声優がTwitterとかで上げてる様な豪奢な箇所ではもちろんしてない。そこらの居酒屋だ。まああのアニメにはあってたと思う。結局の所、話題性以外では散々な評価だしね。円盤の売り上げだってだれも期待はしてない。

 今は配信サイトでの収入の方が大切とか言うけど、修正版が配信される訳はないからね。あのままで配信での視聴がのびるだろうか? 

「二期もやるぞぉぉぉ!!」

 とか無能Pがいってたけど、それに賛同する人達はいなかった。まあそれはそうだよね。なにせ潰れてもおかしくなかったアニメである。あの地獄をもう一度見たいか……と言われて「みたい!」というMの人はいなかった。まあ終われば良い思い出だ。だからもう思い出にしておきたいって感じだろう。
 私的には一番役を多くやった……というかほぼ全ての役を私一人で演じてるから思い入れは一際強い。なにせ普通は一人一役……そしてその役を争って毎回熾烈な戦いをやってるのが声優だ。

 それなのに一人で全部の役をやるなんて、あり得ないこと。そのあり得ないことか起こったんだから羽目を外してしまっても仕方なかったよね。

(大変だったけど……楽しかったんだ)

 終わって見れば残るのは喪失感だ。まあまだもう一つの方は終わってない。けどこれは終わった。順調な方と違って大変だった方に比重が偏ってたんだよね。もちろんもう一つを手抜きしてる訳じゃない。寧ろある意味相乗効果で盛り上がってた。だからこの終わったアニメも最悪ではない着地点に着地できたと思う。そんな思いが皆にあったから、もりあがったんだろう。
 まあ私は隅っこで静かに飲んでた……と言いたいが、あの無能Pに引っ張られて飲まされて……結局帰りは浅野芽衣のお世話になった。覚えてはないんだけど、少し前にスマホに――

『貸しにしときますよ先輩』

 ――と来てた。実際私はどうやって帰ってきたか覚えてないのだ。つまりはかなり浅野芽衣のお世話になったと想像できる。あいつの性格ならそこらに置いていきそうだけど、案外そこら辺は責任感がある奴だと仕事を少し一緒にしてるとわかってくる。わかってくる。

「ん……」
『せんぱーい暇してますか?』

 なんかラインに浅野芽衣のメッセージが……仕事を一緒にやってる関係上、登録はしてるんだよね。今まではこっちの苦手意識と、向こうが私に興味なんてなかったから、接点なんか無かったけど、今やかなりの頻度で顔を合わせる関係になってしまった。こうやってラインもよく届く。

「なに?」

 とりあえず、そんななげやりな返信をしておく。だいたい浅野芽衣はどうでも良いことを一方的に言ってくるだけだからね。けどなんか今日は違った。

『先輩、そっちにいっていいですか?』
「何企んでるの?」

 速攻でそんな返信をした私は悪くない。だって浅野芽衣だからね。何を企んでるの? って思うのは普通の事だ。すると直ぐに返信が来た。

『失礼ですね~プンプン! 先輩と年越ししたいって可愛い後輩のわがままじゃないですかぁ』

 そんな怪しすぎる返信に私の二日酔いがぶるっと収まった。

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