声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

162 大きな子供の、大きな夢 19

「あ、あのクリエイトさん」
「まずは食事を楽しみましょう。お話はそれからでもいいでしょう?」
「えっと……そうですね」

 気勢を制された僕はまずはクリエイトさんとここの食事を楽しんだ。奮発しただけあってなかなかのものだ。ドイツと言えばソーセージとビール。確かに上手いが、ここハンブルクではベルリンよりも海が近い事もあって海の幸も豊富だった。
 コース料理だったから流れるように料理が出で来る。自分には満足だが、クリエイトさんはどうなんだろうか? 彼女は良い物を食べ慣れてそうである。なにせ自分の借金を肩代わりしたのか……それとも全額払ったのかわからないが、それだけの資金源を持ってるって事だからな。
 考えてみれば自分は彼女の事をよくしらない。スマホが与えられたから一応ネットで彼女の名前でぐぐってはみた。それでわかったのは彼女はカナダ出身でハイスクール時にアメリカに来て、大学はアメリカの有名大学をでたって事くらいだ。めちゃくちゃ優秀なのは、なんとなくわかってた。
 でも仕事とかの全容は見えない。SNSではよく有名人と写真を撮ったのが上がってた。きっと裕福な所の出なんだろうな。

(綺麗だ……)

 彼女は食べる姿も様になってる。そういう所に育ちのよさはでる。こっちはどう取り繕っても、音とかだしてしまう。緊張のせいか、味も敏感には感じれない。おいしいけどさ、気軽に食べれたらもっとおいしいんだろうなって思う。

 まあコースってだけで身構えるんだけどね。僕たちはメインの料理を食べ終えてデザートに舌鼓をうつ。そろそろだろうか? そう思って口を開くタイミングを伺ってると、クリエイトさんがいってきた。

「それで、なんですか? 誕生日のお祝いですか?」
「え? そうなんですか? それはおめでとうございます」
「全然違いますけどね」
「…………」

 なに、僕からかわれてる? そう思ってるとクスッと彼女は笑って今まで見たことない柔らかな笑みをくれた。

「ちょっとした冗談ですよ。緊張してるようでしたので」
「あっ……えっと、すみません」
「いいえ、緊張しなくてもいいんですよ? 私達は対等です」
「そんな訳ない……です。だって僕はアナタに救われたんですから」
「言いましたよね。私はファンなんです。だから私の為にやったことです」
「あの……その事なんですけど……」

 彼女は僕のファンだと言うけど、その実感はあまりない。こんなんでも僕もファンがどういうものか知ってる。ファンと言うのは推してる対象が目の前にいたらもっと興奮するものだ。こんな冷静に居られるだろうか? 別にそれがなんとなく推してる程度ならわかる。でもクリエイトさんは違う。
 いや、大金を出して僕を解放したんだ。これだけで普通のファンとは違う。それこそクリエイトさんは僕に大恩を売ってるわけだから、なんだって要求できる。本当になんでもだ。要求されれば、僕はそれを拒む事は無いだろう。だから僕はなんで僕のファンなのかきいた。

「私は才能に憧れてるんですよ。そしてわかりやすい才能がアナタだったんです。アナタの舞台を見たのはたまたま出したけど、その時に私がプロデュースしたいって思いました。まさか先を越されて路上生活されてるとは思いませんでしたけど」
「それは……面目ないです……」

 本当にあの時の自分を殴れるのなら殴りたい。

「あのお金は……どうやって僕を助けてくれたんですか?」

 僕は更に核心部分を聞くよ。

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