声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

153 大きな子供の、大きな夢 10

 ある意味でプラムとの時間は最高の時間だった。舞台でもないのに、舞台に上がったかの様に思えた。小さな声でひっそりとやり始めた訳だが、いつの間にか熱くなってて、店の人にバレた。けど怒られる事はなかった。寧ろ、拍手を貰った。

 それはとても久しぶりの事だった。数ヶ月か……半年か……久しぶりの拍手に、僕の体は興奮してた。チップももらえた。ありがたい臨時収入だ。これでまた酒が……

「やる」

 僕はそのお金をプラムに差し出した。なにせ色々と世話になってる。パンを買うのだって彼女のお小遣いから出てるとなると……このくらいは返しておいた方がいい。

「足りない」
「なに?」

 びっくりな返答がきた。おかしな子だとは思ってたが、まさか足りない言われるとは。するとプラムは今まで無気力だった目に輝きを宿してこういった。

「だからこれからも、お話しよう」
「お話?」
「じゃあねおじさん」

 どうやら僕がやってたと思ってた芝居は、彼女の中ではお話だったらしい。不思議な子だ。それからプラムに会うとお話という名のお芝居をするようになった。どんなに疲れていても、芝居となると体が動く。元気が出てくる。やっぱり自分には芝居が必要なんだと思った。
 路上でやるから、なんかパフォーマンスの様になって客がつくようになってきた。けどものたりなさももある。劇場が呼んでる様な飢餓感。芝居を再びやるようになってからその思いが強くなってきたと思う。なにせこの前ではもう、諦めてたからな。その反動なのかも知れない。

 流石に客も来るのに、汚い格好をしてる訳にはいかない。だから髭とか剃って、小綺麗にするようになった。服とかはまだまだどうにも出来ないが、シャワーも浴びるようになったし最近は生きてるって感じがする。

「君は……緊張とかしないのか?」
「緊張?」
「結構お客さんとかいるけど……」
「それが?」

 ヤバいなこの子。気になったからなんとなく聞いて見たが、プラムの異常性を垣間見た気がした。この子はもしかして、僕の為に……とかちょっとだけ思ってたんたが、やっぱりそんなのこれっぽっちもなさそうだ。この子は友達とかいるんだろうか? とちょっと心配になる。

 かなり特殊な子だ。我が道しか見えていない子だ。だから別の事を聞いてみる事にした。

「芝居は……いや、このお話は楽しいかい?」
「そこそこ。自分じゃない自分が増えて行く感じが新しい」
「な……なるほど。わかるわかる」

 芝居は他人になれるところがいいよね。多分そういうことを言ってるんだと思う。それからもプラムと共に路上芝居とかを時々やってると、転機は訪れた。

「お願いします! 私達に芝居を教えてください!」
「うおらあああ! 金もってこいやあああ!!」

 こんな転機が同時にね。

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