声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

137 打ち合わせのような事

 今回撮るのはジュエル・ライハルトの劇団のプロモーションビデオ、つまりはPVだ。劇団にもPVが必要なんだな……とか思うが、こんな時代だからこそ、宣伝は大切なんだろう。今はプロが使う機材に近い事が出来る機能をもった物とかが、民生用に降りてきて手を出しやすく成ってるとか聞くしね。

 誰だって作品を公開する場もあるし、昔に比べて宣伝という行為も気軽に行える様になったといっていい。なら使わない手はない。まあ元からそういうのはあったらしいが、わざわざPVまで作るのは今回が初めてらしい。劇団なんだから、劇中を撮ったり、練習風景を撮ったりしてそれをなんか良い感じに編集さえすればそれでいいPVになりそうな気もする。

 まあその良い感じに……って所でセンスがひつようなんだけど。けど今回バッシュ・バレルに依頼したと言うことは、多分もっと多角的に宣伝する気なんだろう。それこそネット広告とかでながしたり、テレビのCMとかで流したりだ。
 適当な奴はせいぜいホームページに使う位しか出来ないが、プロ……まあ一応プロに頼むのなら、もっと大きなパイを狙ってる筈だ。

「真っ先に言っておくが――」

 部屋の中に三人を招き入れてバッシュ・バレルは真っ先にいいだした。これだけは譲れないって部分なんだろう。だから余計な話が始まる前に口を開く。

「――お前達は使ってやる。だが、俺の表現に口は出すなよ」
「それが条件でしたからね。それで文句のない作品を作ってくださるなら、文句はいいません」
「なら、最後までそれを聞くことはないだろうな」

 自信満々のバッシュ・バレル。まあこいつが頑張ってたのは知ってる。こんな奴でも作品を作るとなると、まさに全身全霊をかけてるんだ。

 それからこのメンツで色々と打ち合わせをしていく。勿論そのとき、プラム・コデッチさんは何もいわない。ただ居るだけだ。バッシュ・バレルは時々話を振るが、彼女はあさっての方向を見てる。とてもつかみ所がないのか、あの女を落とす事にかけては自信あるバッシュ・バレルもお手上げである。

 まあけど、色々と打ち合わせは順調だった。けどなんだろうか? なんかチラチラとジュエル・ライハルトが見てる。自分を……じゃない。いや、自分もチラチラと目が合うが、それだけじゃない。とてもジュエル・ライハルトはカメラを意識してるような……勿論今はカメラは回してない。
 なのに何故かさっきからカメラをジュエル・ライハルトは意識してるように見える。寧ろ……

(なんかおびえてる?)

 舞台の外では小さく見えるジュエル・ライハルトである。けど、それよりも更になんかビクビクしてるような気がする。舞台上で多くの視線に晒されてるのに、カメラをやけに気にしてる。

(そういえば、売り込んだのって自分たちだけなのだろうか?)

 きっと違うような気がする。ミーシャ・デッドエンドさんはかなり野心的に売り込んでそうだし、きっと色んな所にジュエル・ライハルトを売り込んでるだろう。そしてそれが上手くいってるのなら、ジュエル・ライハルトとかはもっと有名になってておかしくないと思う。
 先日の演技を見てるとそう思う。でもそんな事はなくて……ジュエル・ライハルトは今まで一劇場俳優にとどまってる。
 運がなかった? けど、運を覆す程の実力がジュエル・ライハルトにはあると思う。

(じゃあなんで……ん?)

 ジュエル・ライハルトを見ててふと視線を変えると、プラム・コデッチさんと目が合った。どうやらこっちを見てたらしい。彼女はゆっくりと頭を動かすと視線を外す。本当に彼女は何を考えてるのかわからない。

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