声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

136 物言わぬ姫

 次の日から、ホテルの部屋がとても騒がしくなった。何故かというと、バッシュ・バレルの撮影チームとかが出入りする様になったからだ。ホテルだから私物なんて最低限だったんだけど、ここ最近、頻繫に出入りして荷物を置いていく。

 それはカメラとかだったりの撮影機材が大半だが、なんか衣装とかもある。そこはジュエル・ライハルトのところでも良いんでは? てか、あそこだって衣装もってそうだけどね。でも劇団で使うような衣装は派手なのか? そのイメージがある。

「五分くらいの映像なんだよな?」
「そうだな」
「それにしては機材多くないか?」

 そう思わざる得ない。ここはラスベガスでも高級ホテルのスイートだぞ。その部屋が埋め尽くされようとしてるんだが? はっきり言おうか。この部屋、自宅よりも広いからね。なのに物であふれかえろうとしてる。五分の物を撮るのに、きっちり五分しか撮らない訳ないと言うことは自分にだってわかる。

 映像作品を作るってのはそんな簡単な物じゃない。大体その倍は……いや、倍なんて物では足りないか。つまりはかなり取れ高を確保してるって事だ。そして色々と撮って、それを取捨選択して良い感じに編集で落とし込んで、作品に昇華するのが監督の腕の見せ所みたいな? 

 勿論、撮る段階から明確なイメージがないと、どれだけ素材があっても意味はないんだろうけど。

「このくらい普通だろ」
「普通か……」
「おう」

 違うだろ――とか言いたいが、あいにくと自分もそっちの方の知識はそんなない。だからバッシュ・バレルがこれが普通だと言い張るのなら、何もいえない。まあ流石に自分の部屋にまで浸食しないからいいけど……ホテルのスタッフが掃除とかに来た時、どうするんだろうか? 多分自分たちが外出してる時に掃除してるんと思うんだが? 

 海外だし、そこら辺心配して貴重品はちゃんと持ち歩いてるが、こういう撮影機材ってお高いんじゃないだろうか? まあどれもそれなりにでかいから、持ち出すってなると目立つそうだが……

 コンコン

 そんなノックの音が扉から聞こえた。出迎えると、そこにはジュエル・ライハルトとミーシャ・デッドエンドさんがきてくれた。いや、それだけじゃない。

「あっ――うぐ!?」
「先生! 会いたかったです!!」

 口を開こうとしたら、ジュエル・ライハルトに抱きしめられた。この人、会うたびにこうやって来るのをどうにかして貰いたい。はっきり言って男に抱きつかれてもね……正直うれしくない。ハグの文化がある場所だけど……ハグってもっと軽い印象なんだが……ジュエル・ライハルトのハグは正直熱すぎる。

「ジュエル」
「ちがっ……これは……その……済みません先生」

 ミーシャ・デッドエンドさんの言葉で直ぐに引いてくれた。やっぱり彼女には頭が上がらないらしい。てか本当に舞台上とは人が違う。あの自信はどこに行ったんだ? 舞台上にしかないんだろうか? 

「今日はメインとなる役者をおつれしました。家の劇団としては、やはりこの二人『ジュエル・ライハルト』と『プラム・コデッチ』をメインとして扱っていただきます」

 ジュエル・ライハルトはまあ鉄板というか、劇団の顔みたいな感じだしね。そして彼女『プラム・コデッチ』さんはヒロインやってたし、やっぱり押していきたいんだろう。プラム・コデッチさんと目が合うと、彼女はちょっと頭をうごかしな挨拶してくれた。多分挨拶だったと思う。そして何故か背中を向ける。
 むむ……やはりジュエル・ライハルトの劇団だけあって特殊な人が集まってるみたいだ。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品