声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

134 ヒーローだけでは成り立たない

「ぶしつけなのですが、バッシュ・バレル様にお願いがあるのですが」
「なんだ? 俺と寝たいのか?」
「ふざけた口は縫い付けて貰って結構ですよ?」
「ああ!?」

 ジュエル・ライハルトの劇団のマネージャーであるミーシャ・デッドエンドさんとバッシュ・バレルが楽しそう喋ってる。その横で自分はサインを書いてた。この劇団の皆さんに……なんと言うことか、皆さん自分の本をよんでたらしい。たぶんジュエル・ライハルトの影響か、布教が原因だと思われる。

 けど、ありがたい事だ。なのでのその本の作者だとわかると、こういうことになった。皆さん疲れてる筈なのに、そんな風にはみえない。やっぱり鍛え方が違うんだう。男の人は筋肉が盛り上がってるし、女の人も女性らしい体型を維持しつつも、その内側はやっぱり筋肉らしい。力こぶを作るとカチカチである。それでもぱっと見は普通に女性らしい体型のままだから魅力的だ。

 皆さんとても親し気で、それに気さくだ。まあこっちはそういう風潮だが、こっちに数ヶ月居るし、結構なれたところがある。そんな中で、一人遠巻きにしてる人がいる。彼女はじっとこっちを見てるが、自分と目が合うとちょっと反応して退室していった。

 彼女は舞台の上でヒロインを演じてた女優だ。ジュエル・ライハルトというヒーローとためを張る必要があるヒロイン。それが彼女。勿論彼女も凄い女優だ。彼女が舞台に現れた時、はっきり言って女神かと思った。舞台に飲まれてたのもあるが、それを更に助長させる様な彼女の演技にやられた男は多いはずだ。

 ジュエル・ライハルトの隣に立つからだろう。かなり身長は高いが、そんな印象は別にないんだよな。普通、舞台の上では演者は大きく、言うなれば、大袈裟に演技をするものだろう。ジュエル・ライハルトはそうやってたし
、そうしないと舞台では何をやってるかみえないってのある。

 小さな舞台なら、小さな演技でも良いかもしれないが、ここはでかい。数百人は入る劇場だ。大きな演技をしないと、端の方の人とか見えるわけない。なのに……だ。彼女は小さい……いや、小さくはなかったかもしれない。けど派手な演技はしてなかった。ジュエル・ライハルトが舞台上を常に動き回る動の動きをしてるとするならば、ヒロインである彼女はあまり舞台を動かずに、その場にとどまっていたと思う。

 まさに対になる静だったんだろう。それなのに、舞台上に居る彼女に誰もが魅了された。確かに彼女はヒロインに相応しい容姿をしてると思う。けど、それだけじゃない筈だ。なにせ、この劇団の皆さん、なかなかに美形がそろってる。サイン書きながらそんな事を思った。

 ちょっと話をしてみたかったんだけどな……そう思うが、仕方ない。

「お前な、それが人に物を頼む態度か?」
「お金は払いますよ。何が不満なんですか?」
「俺は金のために作品を作ってるんじゃねえ!!」
「素晴らしい心意気ですね。ただでやってくれると言うことでよろしいですか?」
「よろしくねえよ!!」

 人目も憚らずにバッシュ・バレルは叫んでる。まあなんか手駒にされてるが……思ったがこいつ、実は女に弱いんじゃないか? いつも女の話ばっかりして、自分に自慢ばかりしてくるが、なんか怪しくなってきた感じがある。プレイボーイなのは変わらないんだろうが、バッシュ・バレルはいつだって『女なんて俺様にイチコロだぜ』的な事を言ってるが、
 こいつ実は女に良いように操られてるのでは? なんか二人の会話とか、カジノでの事とか見てると思えてくる。まあ、なんだかんだ言い合ってたが、自分が間に入って話はつけた。一応バッシュ・バレルはこの劇団を使って作品を作るようだ。
 
 色々と文句言ってたが、舞台をかなり気に入ってたからな。自分もこれは試金石に丁度いいと思った。ジュエル・ライハルトが舞台で映えるのはわかったが、映像ではどうなるかわからない。だからそれにを見れるし、バッシュ・バレルが監督の時の表情も拝めるだろう。

 自分は非常に楽しみになった。

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