声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

131 散歩ついでに寄ってみた

「よっしゃ、行くか!」
「なんでお前がそんな気合い入ってんの?」
「なにって、売り込んで来たんだろう? なら、どの程度か、見極めてやろうじゃねーか」

 昨夜女性二人に足蹴にされてた奴とは思えない上から目せんっぷりだ。今自分たちはハイヤーを降りてラスベガスでも有名な劇場へと降り立った。なんとホテルまでハイヤーでお迎えが来たのだ。凄い気遣いっぷりだ。あの後ジュエル・ライハルトや、彼の劇団の事を軽くネットで調べた。
 するとかなり有名な方々だとわかった。劇団の事とか疎かったが、そっち界隈では凄い人たちのようだ。まあラスベガスの有名な劇場で公演できてる時点で凄いってのはなんとなくわかってたが、彼が率いる劇団は、どこの国でも人気あるらしい。今も連日満員御礼ということだ。

 だから本当なら、チケットなんて余ってる訳はない。ならここにあるチケット何か……多分これは関係者用に取ってる奴なんだと思う。色んな公演も全ての席を一般に販売する訳じゃない。何割かは別に取ってあるものだ。だからそれを回してくれたんだろう。

 その証拠に自分たちはチケットを見せると、特別な席に案内された……というか、案内される前に楽屋につれてこられた。やっぱり裏側はとても忙しそうにしてる。なにせここは学生のお遊戯会とかじゃない。天下のラスベガスの劇場である。スタッフだって数百人とか居るんじゃないだろうか?

 公演前だけあって、なかなかにピリピリしてる感じを受ける。やっぱり公演が終わってからの方がよかったんじゃないだろうか? 一応案内してくれてる人にそう言ったんだけどどうしても……と言われたらね。どうやらジュエル・ライハルトがそう言ってたらしい。
 
  ジュエル・ライハルトは自分のファンだから好意的に受け取ってくれるだろうが、他の人たちは自分の事なんかしらないだろうからな~。なんだこいつって感じだろう。案内された部屋に入ると、劇団の団員達役者達がメイクをしてたり、台詞を読んでたり、時にはタブレットで映画見てたり、各々の時間を過ごした。そこに現れた自分たちは好機の目を受ける。まあそれはそうだろう。
 いきなりこんなところに来るとか、どんな無粋な客か、それか乗客かって感じだろう。だから団員達は見るだけで反応はしない。そこに一番奥にいたジュエル・ライハルトが反応した。

「先生! 来てくださったんですね!」

 そう言って目をキラキラさせたジュエル・ライハルトがやってきた。カジノでも思ったが、こうやって見るとやっぱりでかい。百九十はあるんじゃないだろうか? そんなどでかいジュエル・ライハルトなのだが、威圧感も圧迫感もない。どちらかというと、愛玩度が高い。なんか尻尾フリフリしてる様に見える。大型犬なんだよな~。でもここではちゃんと団長やってるのか、カジノで見た弱々しい感じはない。オタク感というのもないな。

「ああ、えっと今夜は招待いただきありがとう――」
『嬉しいです先生!!」

 ガバッと百九十の体躯が自分の体をがっちりと羽交い締めした。ハグじゃない。痛みがあるんだけど! どうやらジュエル・ライハルトは自分を見てうれしさのあまり加減を間違えてるみたいだ。

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