声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

119 憧れなんてない場所

 声優に憧れてた訳じゃない。私『浅野芽衣』は自分が打算的だとわかってる。性格が悪いって事もしってる。そして自分がそこそこの顔だって事も……だ。クラスで一番にもなれない顔だ。学校のマドンナなんて夢のまた夢。だから私は高校まではそこそこの地位に満足する小さな女だった。

 誰にでもそれなりの顔をして上手く問題を避けて、強者に乗っかり……そんな私だった。だから私はそこそこの人生を送って行くんだろうなって思ってたし、それに疑問もなかった。皆と同じようにアイドルにキャーキャーいうし、格好良い男子がいると聞いたら見てみたくなって野次馬に加わったりする。
 でも自分が彼らの対象になるなんてのは思ってもなかった。

 けどある日私は魔法をしったのだ。それはメイクだ。今はyoutubeでメイクの講座をしてる人たちがいっぱいだ。なんである日突然……と思ったかもしれないが、それは友達がメイクを勧めてきたからだ。これまでもしてなかった訳じゃない。

 でも今までのメイクはとりあえずやってみた程度のナチュラルメイクだった。なにせメイクとか面倒くさいし、毎日凝ったメイクなんて出来ないと思ってたんだ。早く起きるのがそもそも苦手だし……けど……上手いメイクを施されて街に出たとき、なんとナンパをされたのだ。そんなの人生初だった。
 ちょっと大人っぽいメイクをしてたからかわからないし、もしかしたら一緒にいた友達目当てだったのかもしれない。けど、その日は世界が変わって見えた。

 それから私はメイクにはまった。しっかりとメイクを施して学校へ行き、最初は色々と変わった自分にたいして色々と言われたりしたが、明るく振る舞ってそれらをのりこえた。それからはもう充実した学校生活だったと言って良い。彼氏も出来たし、友達も今まで付き合ってた子達よりも上のカーストの子達になった。

 そんなんだから進路は迷った。私はアイドルとかテレビとか、それこそ今はyoutubeとかでデビューしてもいいと思った。そもそもそういうこともやってたし。けど既に沢山先駆者はいて、そして私は絶対にスッピンなんてさらす気がなかった。
 毎回「スッピン晒さないんですか?」とかいう質問がウザかった。なので自然と投稿頻度は減っていった。結局なんとなく大学にいってそこで演劇とか映像とか、それこそ好きなメイクとかの知識を集めてた。ある日、友達の共の部屋に行くとそこはオタク部屋だった。

 彼女はどうやら私の事を良い奴だと勘違いしてたようだ。大学で初めて出来た友達で、かなりおしゃれな子だと思ってたんだけど、どうやら大学デビューだったらしい。これは良い弱みを見つけた……とか思った。なにせその時狙ってた人が彼女の事気にしてそうだったし。
 女の友情なんて冬の日に張った氷よりも薄いのである。でもそんな直ぐには実行にうつせない。恨みを買うわけにはいかないからね。そういう所、上手くやらないととっても面倒な事になる。だから彼女との友達関係は続けてた。

 それでそこそこアニメとか漫画とかにも詳しくなった。そしてしったのが声優だ。ライブとかにも行ったしね。彼女はいわゆる腐女子で、行ったの男性声優がいっぱいのライブとかだった。けどまあ「こんなもんか」って思うよね。周りでキャーキャー言ってるのがちょっと理解できない。

 それでネットで女性声優とかも調べた。するとまあ、可愛いけど女優とかモデルやってる人たち程じゃないって思った。それで声優なら……そう思ったんだ。私は一人で女性声優のイベントとかにも行ってみた。すると沢山の人たちに求められてる声優がいたのだ。

 顔も体だってそこそこなのに、彼女はステージに立って輝いてた。これなら私でもチヤホヤされるって思った。だから……だから今、私はここにいる。

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